アメリアへの手紙




アメリア 明け方に叩いたドアを開けてくれた 故国に帰る前の碧い部屋に上げてくれた 不恰好な交わりに柔らかな愛撫で応えてくれたこと忘れないから 無事に着いたことを教えて欲しかった アメリア 君の高山都市にどうやって辿り着けばいいのか 難破した真実 遠くのヴァイキング 私はここに住んでいるけれど何も送り返すことができない 俺はただ送りつけたかっただけなのに アメリア 雨降る夜の神社でお前の奥歯を舐めた アメリア 二人で国境を越えて占領地へ向かいそこでセックスをした アメリア 聞こえた叫びをお前のものとしなかった 聞こえなかった振りをして数日後に声を掛けた 貴方はそれでも振り向いてくれた アメリア お前はどうして俺から金を受け取らなかった なのにモーテルからの帰り道 強く手を握りながらしかし何も言わなかった アメリア 僕を犯そうとした翌朝にごめんねと言うなよ アメリア いいよと答えた次の日の夜に泣きながらごめんねと電話してきて それからずっと会ってはいない アメリア 何度か手紙をくれた後に一人で勝手に納得して一切の連絡を絶った お前が アメリア まだ見ぬ遠い土地にありながら俺に願望を重ね アメリア お前の心の姿形が 私の心の姿形を形象した アメリア 本当はもっと違う伝え方をしたんだ 踊り子のイヤリング 銀の腕輪 メキシカンリング アメリア 潮の匂う並木道に面した お前の生家によく似たアパートメントに お前は一人で住んでいた 沢山の花と少しの本に最低限の家具のある部屋 月の青が白い壁紙に映って 僕らの違いを塗り潰して 体温と眼差し その他太古からの共通言語 互いにとっての第三世界を経由したコミュニケーションは 肉体のコミュニオンの足しにもならない アメリア 許してください 忘れてください もう二度と出逢わなくていい 私から逃げてください アメリアを思い出すな消えろ 月の青に塗られた深い眠りの彼方彼方に 全てを置いてくるんだアメリア 一人で その道を歩いていって 一人で 無事に帰ってきて アメリア そして私の知らぬお前の故国に アメリア 帰れ 帰れ 帰るんだ アメリア どうか辿り着いて 神様










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