ブラックホールの想い出




彼は 知性の罠に嵌り

知性の迷路に迷い込んでいました

それはもう泳ぎ回って沈んでゆくほど

でなければあれほどの

感覚や 特に感情を含む身体的現実を

無視し踏み躙り 冒涜したような所業を

行うことはできません

彼は朝の街を散歩し

スタンドで珈琲を淹れてもらい

道行く人に挨拶をしながら

素朴な現実から失った手触りを

回復してゆくべきでした

でも誰も彼にそういう

至って普通のことを提案せず

むしろ彼を水面から深淵に

押し込めて行きました

自分は行けない 行こうともしない

苦しくて狭く重い 狭いところへ

ええ それは立派な共同作業でした

崩れるのは一瞬でしたし

もう皆忘れて 否認ばかりしますが

私は少し覚えています


最後の発言を動機として

検察官は彼女だけを死刑台へ送った






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