ある悲しみの話



ある悲しみの話をしようと思う

でもそれを悲しみだと知ったのはずっと後のことで

当時の私は怒りのように燃えていました

それからを彗星のように走って身をやつし

今になってようやくその手触りを

語りかけているところです


ある街の炉端で

盲目の人が呟いた

焼き付けられた瞼の合わさりの向こうに

遠い深淵が広がっているような気がして

その始まりを聞きたくて私は

火を消して暗闇に寄り添った


これはある哀しみの話

どこにでもある見えない寓話




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