DUMP2



さて何を書き出そうか。それはさあまだ分からない。でも一つだけの確信があるのさ。今書き出さなきゃならないってね。そういうのってあるでしょ。動き出さなきゃ、準備なんてなくても、演じ切らなきゃ、脚本なんてなくても、踊り始めなきゃ、舞台さえなくても。でもまあね、自分のお腹に心に何が沈んているのかなんて、ゆっくりといつも歩いている私には分かっているのさ。やはりこれは私達についてのことなんだと思う。これを書いている私と、読んでいるあなたと、その周囲や隣にいる幾千もの誰かと、その足の下に沈んでいった幾億幾兆もの、これまた私達についてさあ、語り出そうか。

いつもいつも思ってきたよ。思い出すってなんだろうってね。暗唱はまだずっとやっているのさ。詩を幾つかの言語でねえ、頭からお尻から途中から、順繰りに逆さまに、色んな方向から諳んじるのさ。そうしていると色んなことを色んな風に思い出すんだけど、思い出すのって気持ちいし、不思議な感じがするんだよね。私の記憶には何がどこまで沈んでいるんだろう。その海にアクセスするには、どれほど目を深く閉じればいいんだろうってね。

一人の人間が吐き出した三百ページくらいの詩集をさあ、そう頭からお尻から一気呵成に暗唱し尽くすくらいの暗唱ゲームを、それなりに出来るくらいになってからさ、昔の感覚を思い出すようになったんだよ。それって過去なんだろうけどね、または未来なのかもしれないけど、自分のものかもしれないしそうじゃないかもしれないけど、記憶が断片のように一挙に、降りかかってきて私を呑み込んでいくのさ。その時に一つ一つを思い出すわけ。何って誰かの断片なんだよ。どこかいつかの誰かの何かがさ、それなりの輝きを放って突き刺してくるわけ。その時の気持ちって言うのかなあ。

全然人間じゃねえときもあるよ。プラナリアとかアメーバとか、そんなぬるぬるの感覚だけの頃もある。でもまあ死ぬ時も消える時も含めて大体が温かかったさ。気持ちよくさえあった。今の感覚に翻訳するとナウイっていうか、それとしての生命最前線をさ、ライブで感じられるわけ。それが億千年とか続くんだぜ。すげえし参っちゃうだろ。

浴びること

食べること

動くこと

眠ることってか起きること

交わりを残すこと

こんなことの沢山を順番にしてきたよね。ずっと一緒にさあ。今もそのうちの一つだよ。だから言ったじゃん。書き始めないと何処へ動き出すなんかなんて分かんないのそれでいいの。今だってどこいるか分かんないよ。でも浮遊感はあるでしょ。摩擦が弱まっているうちに居場所を変えるがいいよ。そしたら体の形も十分にずるずる変わっていくさ。ここでは低い深いビートが聞こえる。人工だろうか自然だろうか、人工だろうが自然だろうが波のようなものさ。海へこのまま帰ろうか。

いけないいけないこれはね、浴びること食べること動くこと眠って起きること交わること残すことの文章なのさ。浴びることについては気付いちゃえばそれでいいよ。浴び過ぎて溶けちゃうことにだけご注意さ。だからまず食べることについて書き始めていなければならないよもぐもぐ。本当を言うと自分の体をそのままもう一つ作ってそのまま食べたいよ。それが一番の確実で安全だからさ。でもそれはいつかの時間では破滅の危険だからね。やっぱり生命の樹を遠く遠く離れたあなたのそのまた向こうの渦潮に、指を突っ込んで教えてあげるの。流れはこっちだよって。それがそう食べること。よく分かんないねここじゃない遠くのどこかへ行きたいのそのための音楽が響いてくるから。しかも内側からで消せやしねえ。

もう動き始めている。このままどこへ行こうか。海のお腹と背中であればどちら。それとも天井を突き破ろうか。床を踏み外して新しいジャズを極めたっていいさ。なんでもここには既にあるからね。あとは壊すか組み合わせるか、神様としてのなんのその。言葉が出てくるうちはいいさ。喘ぎ声さえも消えた動きの化身になったことはあるかい。その頃にはもう罪さえも忘れているだろう。目的さえも忘れ去ることができたら、さあ君はもう本当の動物で神様だ。動けよ我が子、音さえも忘れて波になっておくれ。疲れたら止まれよ、そのことを死か眠りと呼んで眠ろう。

さあ眠ろうか。いや起きようか。最初に訪れたのは眠りと覚醒のどちらだと思っているの。どちらかしかなかったのならどちらでもないでしょうけど、どちらかというと眠りだったんだろうよ。私がこの人生で眠る時に思い出すのは、遥か昔の原始の眠りに見ていた夢で、そこでの音楽が正しければ私たちは、今でもあの時に眠ることができる。要は意識と反復ってわけ。楽しめたらいいよね。

さあさ飴に鞭にご褒美に地獄。交わって浴びようか。お互いの情報、履歴そして行末を浴びせかけよう。一つのポットに全部を注ぎ合おう。スープは何色になってもいいさ。そもそも自分そのままの色は諦めていること、それが二人の契約なのだから。一つのポットに二人で、全部を必ず注ぎ合おう。ポケットに隠した絵の具も、過去の内臓に溜め込んだエロスタナトスも、熱の継ぎ足しにして全部今、使おう使おう使おう。そして今ここでこれ、二人だけ愛と呼ぼうよ

書き出すこと 動き出すこと 何を求めているのかを、乾いた知識として炙り出してみること 欲動への近づき方を知恵として得ること 習得すること 日々の中で

観て動くこと 動いて観ること 書くことと読むこと 思い出すように眠ること 深く深く潜ること そうして思い出すこと 思い出し 暗唱のように行うこと 想像力と操作性だけを重んじること

諳んじるように行うこと 元からここに全てあるように振る舞うこと 振る舞いこそが伝播し受け継がれることを認めること なので愛を語り行うこと 探りながら 探りながら 音楽としてまずは口にすること 納得のいくリズムで 心地よいテンポで 許せなければノイズを混ぜて 音楽のように愛を

語り出すこと 動き出すこと 動き動かすこと 観ること観られること

その網の目の中で音楽を諳んじること

波を響かせて消えていくこと を許して今を起きて眠ること

ああ起きた ほら起きた 今までをずっと眠っていたんだ

書き出してよかった 漸く暫く動けるさ




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