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透明な世界



透明な世界という詩を、いつだったか書いた。何の抵抗もなく自分の奥底から流れるように出てきた。これがどこから湧いて来るかを考えると身の回りの世界から私という結節点を経由して外へ帰っていくだけのように思えた。私の体ぶんのサイクルと、私と他者の間のサイクルと、私とこの星を越えたどこかしこで描くサイクルを感じた。余程のことがない限り句読点なんていらないような音楽の世界に浸っていた。私は今そこにまた片足を突っ込んでいるのを感じる。でもかなしいことに既に帰ってきつつもある。この透明な世界から、濁りや輪郭を取り戻しながら、私は私に帰りつつある。ただいまとおかえりと、ありがとうを君に。素晴らしいじゃないか。素晴らしいじゃないか。ただそれだけじゃないか


時間が遅れてくる

理性と呼ばれてきたものは

視界となって時たま顔を出し

そうじゃないみたいだ

と一声だけ掛けていく

その他のことは全て知っている

鳥のような小脳が唸りを上げ

身体はその重さ分の効力を発揮する

道を曲がる前から崖の先の風景が見える

キャンバスに絵を描く未来の感情さえ見える

川の流れが話し掛けてくる

そうさそいつをどけてくれ

許されないスピード

事実がシルクロードを一瞬で駆け抜け

抽象が重みを獲得し

具体が手触りを失う

ドン・キホーテを書き始めたころのセルバンデスは

まるでこんな気分だったらしい

じゃないと説明がつかないよ

こんな透明な世界は




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