ミールス ・ これを口にする




近くの自然食品センターで買った煮干し 売り場で冷蔵庫に入ってた 酸化防止剤不使用と書かれた袋に入った 銀色に乾いた綺麗な小魚 家に持ち帰りジップロックに入れて冷蔵庫保管 緑茶や紅茶を淹れる時に使う小振りのホーロー鍋 別名ミルクパンに 片手大盛りくらいの煮干しを大きめカップ一杯分の水と一緒に入れ 適当に煮立たせてから放置して 飲めるくらいの熱さになったらば煮出した煮干しと一緒にマグカップに移す 普段 お茶を淹れる道具と手順を使って 煮干しを飲む 飲茶ならぬ飲魚 出汁美味しい 俺はこの小さなミルクパンとガスレンジで 何でも淹れて何でも飲み干す 出し殻だって何でも食べる

真空パックに詰められた柔らかな胸肉と腿肉 国産ということでこの島の何処かの土か プレハブの中の砂場で育ったチキンのチキン 大きめの鉄鍋に水を張って沸かし 沸騰したら火を止め パック詰めされたままの肉をそのままゆっくりと沈め そのまま放置してシャワーを浴びる 出る頃になったらお湯から上げて パックを切り裂いて肉を出し 柔らかなまま火の通った淡紅の肉にナイフを 繊維に沿わせカットしていく 分厚い花弁のような肉片が 藍の陶器の大皿に並べられ ほんの少しのオリーブオイルと塩を振りかけ 手で摘んでそのまま食べる 咀嚼する どちらの肉からも甘味と旨味が伝わってくる クリーンな食事 有難う

幾つかの納豆を買っていた 国産やらそうでないやら遺伝子組み換えでないやら 
でもそれより気になるのは粒の大きさと色 大粒の黒豆の納豆が一番の幸せでたまにしか買わない 二百円くらいで二パックしか入ってないから でもいつもそれでも大丈夫なはずだけどどうしてかそうしない 三パック七十円とかの国産小振の茶色の豆のものを一つと 三パック百五十円くらいの有機栽培の茶色大粒のものをよく買う 一度に二か三パックくらいを食べる 茶碗に出して何もかけずそのまま 混ぜずに食べることも混ぜてから食べることもあるけどタレは掛けてない ねばねば食べながらタレを自作しようかなと想像する いい醤油を買って いい味醂を入れて そこに昆布やら鰹節やら時にそれこそ煮干しを漬け込んでおけばいいんでしょ 一ヶ月もすれば立派なタレができるでしょう 数滴で満足のできるエキスができるのでしょう 明日からそうしてみようかな

野菜と果物は適当に買ってむしゃむしゃ食べてる 旬なんだろうというものと 今欲しいんだろうというもの 運動をした後にはパインとかキウイ デーツや干し芋に目が行く ゆったりとしたカーボを身体が求めていることを知ってる そういう時はそれらを選んで食べてあげる ゆっくりと消化しながらシュガーを筋繊維と肝臓に回し リカバリーとストックに費やしてあげる そうでない時には基本的に豆を食べてる レンズ豆をエスニックスーパー というか同じ土地に住んでいる異国からの人がやってる食料品店で 大容量で買って湯掻いて食べてる 一度に二百グラムを茹でて途中にココナッツオイルをドサリと落として 最後に適量の塩を混ぜ込んで食べる オイルと塩の双方を入れてから加熱する時間をとること すると油と塩の旨味が豆のボディーにじんわりを染みて 舌に伝わる味の姿が変わる 味に飽きたら味噌にしたりベースを水から出汁にしたりオイルの種類を変えてる けど水で茹でただけのものを食べたいような時もある ベースラインを確立したいんだね 味覚と経験の そういう時にはそういうことをする

そして食後にはお茶を淹れる 緑茶か紅茶 最近は老舗の専門店でいいのを買ってる セレクトスーパーでも充分なもの買えるけど ずっとそれだけ長くやってきた人の目とネットワークには勝てないみたい どうせ大容量をガブガブ飲むようなやり方はしないから 四十グラム千円したって一杯百円な訳だしいいよね 実際びっくりする程味が違うの 味以前に葉の色と匂いが違うの ティースプーンで袋から掬い出した時の感動が全然違った ことに感動したことを覚えてる 知っていたことを改めて経験し直して確信に変わるような瞬間がそこにあったよ やっぱりさ 祝福されて生まれてきたものを食べてやるのが一番だよね 深く新鮮な光沢を持つ緑は 海から這い出て日光浴を済ませて乾いたばかりの海藻みたいな 存在感と匂いと手触りがして この茶葉であれば紅茶じゃなくて緑茶として飲みたいですよねと思いました まあ 同じ茶葉の和紅茶も買ってあるんだけどね 違いを楽しむとしようよ この部屋でさ 風通しと日当たりとスペイシャルなスペースだけで選んだ 偶然のお情けの部屋でさ

もう俺は何でも作って食べれる 熱と水とナイフがあれば お前とあらゆる味わい 匂い手触り 生きていたことの存在感 お茶のノリで出汁を飲ませてやる 鍵の無いこの部屋で勝手に待っててくれていい 俺は仕事か散歩の道中に 街に新しい祝福を探して お裾分けされてから帰ろうと思う










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