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ムーミン本 読み方のすすめ①:順番に読む(パート1)

ムーミンの本を読んだことがない人に上手におすすめできる人になりたいです(できなかった…)。ムーミンの本は、文字で書かれているもの(絵本・漫画ではないもの)が9冊あります。これらのシリーズについて、おすすめの読み方やどんな人・気持ちも時にどの本が合っているかなど、数回にわたって書いてみたいと思います。


おすすめ①パート1:刊行された順に全部読む!(今回は6作目まで)


最初からハードルが高いですが、もっともおすすめしたい読み方です。全部読んでみたいけどどの順に読んでいいかわからない方は、ぜひ順番に読んでください。一度に書くと長くなってしまうので、今回は「パート1」として6作目『ムーミン谷の冬』までを読むポイントを書きます。

ムーミンシリーズは、1945年から1970年の間に9冊刊行されています。

『小さなトロールと大きな洪水』1945年
『ムーミン谷の彗星』1946年
『たのしいムーミン一家』1948年
『ムーミンパパの思い出』1950年
『ムーミン谷の夏まつり』1954年
『ムーミン谷の冬』1957年
『ムーミン谷の仲間たち』1962年
『ムーミンパパ海へいく』1965年
『ムーミン谷の十一月』1970年

順番読みをおすすめする理由


日本語訳の刊行順は原書の順ではないので要注意です。9冊は必ずしも筋書きが前作から続いているわけではなく、一冊ごとに雰囲気が異なります。順番に読むことで、単に「違う」のではなく、「次第に変わっていく」のだとわかります!

6作目までを順番に読むポイント:ヤンソンにとっての「子どもの世界」と作品とを比べてみること


トーベ・ヤンソンは6作目の『ムーミン谷の冬』で1966年に国際アンデルセン賞を受賞しました。このスピーチがムーミンシリーズを読む鍵だと私は考えています。スピーチでは、表現における「子どもの世界」の一側面としての「安全と災難」について、またそうした世界を大人が書く理由について述べられています。ヤンソンにとっての「子どもの世界」とは、「安全と災難」が併存し「しあわせな結末」で締めくくられるものです。

『ムーミン画集 ふたつの家族』(講談社、2009)には、1966年にヤンソンが国際アンデルセン賞を受賞した際のスピーチが掲載されています。

英語版はウェブで読めます(2020/5/9閲覧)。

スウェーデン語は見つけられていません(誰か教えて…)。

ヤンソンは『ムーミン谷の冬』で国際アンデルセン賞を受賞し、安全と災難のある「子どもの世界」について述べたにも関わらず、受賞作にはこれが完全な形では表現されていません(詳しくは後述します)。最初のほうの作品に書かれている安全と災難の枠組みが少しずつ形を変え、そしてなくなっていくことを念頭に置いて読めば、作品ごとの違いが「連続的な変化」として見えてきます。そして、シリーズ全体の特徴が見えてくることによって、ひとつひとつの作品の魅力がよりはっきり見えてくるようになるのではないかと思います。

ここからは極力内容には触れないようにもう少し詳しく書きますが、ネタバレが嫌な人は『ムーミン谷の冬』まで読んでから戻ってきていただけると幸いです。

「子どもの世界」の表現がなくなっていく過程を読む

ここでいう「子どもの世界」とは、あくまでアンデルセン賞スピーチでヤンソンが述べたものを指します。

では、順番に見ていきます。まず、最初の2作品では災難が解消した安全がハッピーエンドになります。


◎1作目『小さなトロールと大きな洪水』
災難:洪水
→水が引いてムーミンパパに再会(安全)

◎2作目『ムーミン谷の彗星』
災難:彗星
→彗星が軌道をそれて元どおりになる(安全)

3、4、5作目では、災難が解消することが必ずしもハッピーエンドの直接の要因ではなくなっており、災難と安全とハッピーエンドの結びつきは弱まっています


◎3作目『たのしいムーミン一家』
災難:ぼうし
→ぼうしの持ち主の飛行鬼がみんなの願いをかなえる(安全?)

◎4作目『ムーミンパパの思い出』
災難:ムーミンパパが冒険で出会うもの(作品全体にとっての災難はない)
→その都度解消(安全)
結末はムーミンパパの過去の望みであった冒険が作中の現在において果たされること

◎5作目『ムーミン谷の夏まつり』
災難:洪水
→洪水が引き家族や友人が再会する、自分の居場所を見つける(安全)
洪水の水が引いて安全な状態になる構造を持ちつつも、洪水は登場人物が恐れる対象とはなっていない

そして6作目『ムーミン谷の冬』では、「冬」が災難のようですが、冬はムーミントロールが受け入れたり理解したりする対象であって、脅威ではなく、やはり災難としての役割は弱くなっていると言えます。作品の最後では春が訪れますがムーミントロールは「冬がなくなって良かった!」となるのではなく「冬とはこういうものか」と理解しますので、安全の役割同様に弱まっていると言えます。『ムーミン谷の冬』では、安全と災難の代わりに、ムーミントロールの感覚や心情およびその変化が詳しく描かれています。

「子どもの世界」に代わって描かれたものは、登場人物の内面→詳細は次回!

個々の作品の特徴や面白さももちろんありますが、連続的な変化を読み解くこともシリーズ作品を読むうえで面白いのではないでしょうか。

7~9作目の3冊ではそれまでのように災難と呼べるものはなく、作品の重点は『ムーミン谷の冬』に引き続き、登場人物の内面の問題になっています。次回は『ムーミン谷の冬』を経て、『ムーミン谷の仲間たち』『ムーミンパパ海へいく』『ムーミン谷の十一月』の3冊を順番に読むポイントについて書きます。

おすすめ上手までの道は遠そうですが…それではまた次回。

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