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映画『TOVE/トーベ』の感想:短編「世界でいちばんさいごの竜」のこと、マヤとトゥーリッキのこと

公開に先立って試写会で鑑賞させていただいた映画『TOVE/トーベ』ですが、公開から1ヶ月経ってようやく映画館に足を運ぶことができました。

試写会で鑑賞したあとに書いた感想&紹介はウェブ連載「トーベ・ヤンソンを知る」読書案内の第4回として以下で公開しています。

上の文章を書くにあたり、映画を観てたくさん感じたことや考えたことがあって、何をどう文章にするかかなり悩みました。悩みながらこれから鑑賞する方に向けた文章を書くうちに、文章から削ぎ落としたものが頭から遠のいていってしまったので、映画が公開されたら自分のためだけに観に行こうと決めていました。

そういうわけで、今回は個人的な映画の感想を書きます。

ヴィヴィカと竜

映画には、トーベの恋人としてアトス・ヴィルタネンとヴィヴィカ・バンドラーが登場します。『たのしいムーミン一家』のトフスランとビフスランがトーベとヴィヴィカをモデルにしていることは有名ですし、『ムーミン谷の夏まつり』が演劇をモチーフにしていてこの本がヴィヴィカに捧げられていることからも、ヴィヴィカ・バンドラーのことは知っていました。くわえて、ヴィヴィカとトーベの恋のこと、ムーミンの舞台がヴィヴィカの演出で作られたことは、評伝『トーベ・ヤンソン:仕事、愛、ムーミン』でも読みました。

なんとなくヴィヴィカのことを知ってるつもりでいましたが、映画を観て私の中のヴィヴィカの存在は今までよりもとても大きくなりました。文章を読むだけでは想像できなかった2人の情熱的な恋愛の様子が映像によって強烈に刻まれたような、イメージの輪郭がはっきりしたような感覚です。

映画のなかでは、トーベとアトスがヴィヴィカについて話す時、彼女を竜に例えていました。アトスとの食事の席でトーベがメニューか何かの紙に竜の絵を描いているシーンがあり、その竜は『ムーミン谷の仲間たち』に収められた短編「世界でいちばん最後の竜」の挿絵を思わせるものでした。この短編では、ムーミントロールが捕まえて大切にしようとしていた竜が懐かず、名残惜しく思いつつも納得して竜を手放します。ムーミントロールと竜の関係がトーベとヴィヴィカの関係になぞらえられているようで、ムーミントロールの寂しげな気持ちが重なって見えました。

マヤとトゥーリッキの役者さんも魅力的

ウェブ連載ではトーベ役のアルマ・ポウスティさんについて少し書きましたが、マヤ・ロンドン(マヤ・ヴァンニ)役のエーヴァ・プトロさん、トゥーリッキ・ピエティラ役のヨアンナ・ハールッティさんもとっても魅力的でした。

マヤはトーベの元恋人の芸術家サム・ヴァンニの妻でトーベの友人です。演じたエーヴァさんは脚本もご担当されていますが、だからこそなのか、細かい場面での目線の流し方が美しくて、特にヴィヴィカを見る時の、ちょっと気持ちの距離を置いているような目線に惚れ惚れしてしまいました。また、可愛らしいファッションにも惹かれました。『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』の第1章には、ヴァンニ夫婦が気取った態度で上流階級ぶっているようにトーベの目に映っていたことが書かれていますが、そうした面がマヤの仕草や服装に現れているようでした。

グラフィックアーティストであるトゥーリッキは、トーベのパートナーですが、映画はパートナーの関係になる前の話なので2人は知り合いとして描かれています。作中では、これから先のトーベとの関係を思わせるような、トゥーリッキの優しくて強くてあたたかい表情が印象的でした。終盤に登場しますが、存在感はアトスにもヴィヴィカにも負けないと感じました。

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映画『TOVE/トーベ』

『トーベ・ヤンソン:仕事、愛、ムーミン』(絶版らしいです)

『トーベ・ヤンソン:人生、芸術、言葉』(上の本の新訳!)

『ムーミン谷の仲間たち』

『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』


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