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ミムラねえさんの赤いマグカップに書かれた文のこと

今回は、この前紹介したミムラねえさんのマグに書かれている英文について少し書きたいと思います!

絵は『ムーミン谷の夏まつり』のおなじみの挿絵ですが、後ろに書かれている英語は『ムーミン谷の十一月』のミムラねえさんの台詞の英訳です。

『ムーミン谷の十一月』のどの台詞?

You seem to be yourself again. Actually, you’re nicer that way.

グッズを見たとき、『ムーミン谷の十一月』っぽい予感はしましたが確信が持てなかったので検索してみると、英語版ムーミン公式サイトで紹介されているのを発見しました。↓

「Mymble, from the book Moominvalley in November.」とあるので間違いありません。私は英語訳の本を持っていないので言語の切り替えでスウェーデン語を選び、原文がわかりました。

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スウェーデン語(サイトより):
Du tycks ha blivit dig själv igen. Och egentligen är du trevligare på det sättet.

日本語版のサイトは作りが違うようで、日本語を選択すると日本語のサイトのトップページに切り替わってしまいました。なんとなく的を絞って原書を確認し、次に日本語訳の本から該当箇所を探しました!

日本語訳(本より):
あなた、また、いつものあなたにもどったみたいよ
 と、ミムラねえさんはきめつけて、水を火にかけました。
ほんとは、あなた、そういうあなたでいるのがいちばんたのしいのね。わたし、パーティーには髪を長くたらすことにしたの」
新装版『ムーミン谷の十一月』、講談社、2011、p.217。

太字にしたところが訳に該当します。これは、本の後半でフィリフヨンカが寝床にしている台所にミムラねえさんがやってきて話をする場面です。

『ムーミン谷の十一月』のミムラねえさんとフィリフヨンカ

この本はムーミン一家のいないムーミン屋敷でフィリフヨンカ、ホムサ・トフト、ヘムレンさん(他の本に出てくるヘムレンさんとは違います)、スクルッタおじさん、スナフキン、ミムラねえさんの6人が共同生活する様子を描いた作品です。

フィリフヨンカは得意だった掃除が嫌になってしまい、ムーミンママのようにふるまおうと必死になります。ミムラねえさんはもともとのお掃除好きのフィリフヨンカでいいのでは?と思っており、バケツにためた雨水の場所と使い方をてきぱき教えるフィリフヨンカに件の台詞を言います。

『ムーミン谷の十一月』のミムラねえさんとフィリフヨンカとの会話は作品全体を通してつながっています。

日本語訳の引用にあったパーティーでミムラねえさんは、おどらないではいられないからおどり、「あなたもそうしなくちゃ」とフィリフヨンカに言います。フィリフヨンカは、「しないではいられない」ことと「しなくちゃいけない」ことは違うと反論しますが、このパーティーとそのあとの大掃除を経てふたたび掃除ができるようになり、「したくてたまらないことをすればいい」という考えにいたります。

自分自身のことが大好きなミムラねえさんは、自分の好きなこと・やりたいことに忠実になり、無理して何か別のものになろうとしなくていいのではないか、という立場なのではないかと思います。自分の変えたい部分や嫌いな部分を見つめすぎて、自分のいいところや好きなことを見失ってはいけないな、と改めて考えさせられました。

蛇足:日本語訳について

グッズとサイトでは省かれている地の文、「きめつけて(konstatera)」は、辞書には「slå fast som ett faktum(establish as a fact)」とあります。スウェーデン語の先生にニュアンスを聞いてみたところ、お医者さんが「診断する」時などに使う動詞で、「考えて判断して言う」というような意味だそうです。「きめつけて」はちょっと強い印象ですが、「(フィリフヨンカを見て判断して)言いました」のような意味かな、と思います。

次回の予定

次回(できれば)ムーミン本読み方のすすめとして『ムーミン谷の十一月』について書きたいと思います。大好きな作品なので、しっかり読み込んで丁寧に書きたいです。

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