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ごみ箱行きの思い出

こちらは映像用脚本です。
スクールの課題として書いた作品なので
結末なく終わっていることがあります。
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柱:場所などを表します

地の文
ト書き:人物の動きなどを表します

「」
人物のセリフです
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ごみ箱行きの思い出

2022.6.3脱稿

---登場人物------------------
多嶋あかり(39・8)出版社勤務
木原つぐみ(42・11)あかりの姉
多嶋五郎(78)つぐみとあかりの父
多嶋君江(63・32)つぐみとあかりの母
吉岡早織(27)あかりの部下
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○多嶋家・全景
田舎に立つ平屋。
家の前には荒れた畑が広がり、
玄関付近に車が1台停まっている。
あちこちから蝉の鳴き声。

○同・玄関
二つ並んだ女性物のサンダル。

あかりの声「お姉ちゃ~ん? ハサミは~?」

蝉の鳴き声が室内にも響く。

○同・和室
仏壇に並ぶ二つの遺影。
ひとつには多嶋吾郎(78)、
もうひとつには多嶋君江(63)の姿。
仏壇の前を横切る木原つぐみ(42)。

○同・吾郎の書斎
多嶋あかり(39)が床にあぐらをかき、
積み上げた本を紐で縛っている。
首に掛けられたタオル、額には汗の粒。
つぐみが部屋の入口に顔を出す。

つぐみ「はい」

つぐみはあかりにハサミを差し出す。

あかり「さんきゅ」

あかりはハサミを受け取ると
本を縛った紐を切る。
つぐみは部屋を見回す。
壁一面に並ぶ本棚には、大小様々な本や
ビデオテープが敷き詰められている。
溜め息をつくつぐみ。

つぐみ「……全然やねぇ」
あかり「全然よ」

あかりはつぐみを見上げる。

あかり「終わりが見えん」
つぐみ「そうやねぇ」
あかり「本はまだいいんやけどさぁ……あれ」

あかりが本棚のビデオテープを指す。

あかり「テープっち何ごみ?」
つぐみ「ああ……」

つぐみは本棚を見て苦笑いする。

あかり「よくぞあんなに録りためてくれたわ」
つぐみ「まぁ、ぼちぼち、ね。
お昼そうめんでいい?」
あかり「おいいねぇ。キンキンに冷やしてな!」
つぐみ「は~い」

つぐみは部屋を出て行く。
あかりは本棚から本を取り積み上げる。

○同・台所
つぐみがシンクに置いた鍋に
水を溜めながらガスコンロのつまみをひねる。
チチチチという音だけで火が点かない。

つぐみ「はぁ、そうだった」

つぐみは冷蔵庫の上からマッチ箱を取ると
マッチに火を点け、
つまみをひねりながらコンロに近付ける。
ボッと点く火。
水の入った鍋を火にかけると、
テーブルの上の買い物袋を漁り始めるつぐみ。
遠くから携帯の着信音が聞こえる。

○同・廊下
書斎から出てきたあかりが携帯を耳に当てる。

あかり「はいはい?」
早織の声「多嶋さん、すみません、
お休みの日に」
あかり「いいよいいよ、どした?」

台所から廊下を覗くつぐみ。
あかりはつぐみと視線を合わせ、
肩をすくませる。

あかり「あ、ごめんごめん、電波悪いよね?
今ど田舎にいるんだわ」

あかりは廊下を抜け玄関へ向かう。

○同・和室
窓辺の風鈴が風にチリンと揺れる。
部屋に置かれた小さなちゃぶ台の上に
置かれたそうめんの入った大皿と
つゆの入った二人分の小皿。
あかりがちゃぶ台前に座る。
つぐみは小皿に盛ったそうめんを
仏壇に供えて手を合わせる。
つぐみを見ているあかり。

あかり「へぇ~、お姉ちゃん
そんなことちゃんとするんや」

つぐみはちゃぶ台の前に座りながら、

つぐみ「こんなことちゃんとせんとね、
結構うるさいんよ、姑が」
あかり「へぇ~大変」
つぐみ「大変よぅ」
あかり「お母さんも姑になっちょったら、
そんなこと言ったんかなぁ」
つぐみ「まぁお母さんはねぇ…どうやろ」

あかりはそうめんに視線を移し箸を取る。
そうめんの大皿をつつきながら、

あかり「あれ? 氷は?」
つぐみ「氷なかった、この家」
あかり「まぁじぃ~?
まぁお父さんだけじゃ氷作らんかぁ~……」
つぐみ「よう一人で暮らしたわ、十年も」
あかり「それはそう。いただきまぁ~す」

あかりはそうめんを頬張る。
つぐみは箸を手に取ると軽く両手を合わせる。
そうめんをすくいながら、

つぐみ「仕事? さっきの」

あかりはもぐもぐしながら頷く。

つぐみ「忙しそうやねぇ」
あかり「まぁ、ぼちぼち」
つぐみ「どうなん? 仕事」
あかり「まぁ楽しいよ? 大変やけど。
さっきもな、もう締め切り過ぎちょんのに
原稿変えたいっち」
つぐみ「あら」
あかり「まぁな、連載頼んじょん
作家さんやけんな、こっちもハイハイっち
言うしかないんよ、結局」
つぐみ「そうなん」
あかり「そう。なんか、チーズケーキを
頼んだのにモンブランが出て来てどうのっち
エピソードなんやけど、
本当はモンブランを頼んだのに
チーズケーキが出て来て……とかなんとか。
どっちでもいいんよ、そんなん」

あかりはそうめんをすくう。

つぐみ「待ちよ。でもあんたも
似たようなこと言いよったやん」
あかり「え?」

あかりはそうめんを口に運ぼうとした
手を止める。

つぐみ「小2の誕生日かなんかで、
チョコケーキっち言ったのに
チーズケーキやん!っち拗ねて
大泣きしたやん!」
あかり「はぁ?」
つぐみ「え? 覚えてないん?」
あかり「覚えんなぁ」
つぐみ「うそ~」

あかりは少し考えた後、

あかり「いや、ちょっと待って。それ泣いたの
お姉ちゃんが私より先に
ケーキ食べたけんやろ!?」
つぐみ「えぇ? 知らんよ?」
あかり「知らんよ、じゃないんよ」
つぐみ「そんなことせんよ、私」
あかり「いや、あれはそうやった。
そんなことせんと信じちょったからこそ
傷ついたんよ、私は」
つぐみ「え~?」
あかり「なぁ」
つぐみ「なん」
あかり「お父さんのビデオに
残っちょんのやねん?」
つぐみ「……デッキ動かんやろ」
あかり「いや、まだ使えると思う」
つぐみ「いやぁ……そこまでする~?」
あかり「逃げるんか?」
つぐみ「なんなんよ、分かった分かった、
後で見てみよ」

風に揺れる風鈴。

○同・吾郎の書斎
日付と『あかり8才誕生日』と書かれた
ビデオテープがビデオデッキに吸い込まれる。
テレビの前に並ぶつぐみとあかり。
テレビ画面に映し出される映像。

○31年前・多嶋家・食卓
テーブルを囲むあかり(8)、
つぐみ(11)、君江(32)。
テーブルにはチーズケーキ。
あかりは笑わず口を尖らしている。

吾郎の声「なん、あかり拗ねちょんの?」
君江「ごめんっちゃ、来年はチョコな、
分かった分かった」
つぐみ「な、あかり、食べようえ~?」

黙っているあかり。
君江がフォークでケーキをすくうと
自分の口に入れる。

つぐみ・あかり・吾郎の声「あっ」
君江「おいしぃ~!」

あかりの顔がみるみる歪み泣き始める。

君江「え? あかり、どしたんね?」

きょとんとしてあかりを見る君江。

吾郎の声「いや、あんたが食べたけんやわぁ!」

吾郎が笑い、揺れるカメラの映像。
つぐみは泣くあかりの頭を撫でている。

○現在・多嶋家・吾郎の書斎
テレビ画面を呆然と見ているつぐみとあかり。

つぐみ「ほら~! 私じゃないやん!」

つぐみはあかりを見る。
あかりの目から涙が零れている。

つぐみ「え? あかり?」

あかりは泣きながら、

あかり「な、このビデオ、捨てるのやめん?」

ビデオの映像が流れ続ける画面。

つぐみ「……そうやね」

つぐみはあかりの頭を撫でる。

(了)

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