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星かげさやかに

こちらは映像用脚本です。
スクールの課題として書いた作品なので
結末なく終わっていることがあります。
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柱:場所などを表します

地の文
ト書き:人物の動きなどを表します

「」
人物のセリフです
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星かげさやかに

2022.5.6脱稿

---登場人物------------------
星野瑞枝(83)星野書店店長
笠井月子(12)春川中学一年
田畑由梨(32)ドラッグストア店員
笠井沙和(38)月子の母
大木えみ(12)春川中学一年
佐々木唯(12)春川中学一年
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○ドラッグストア・看板(朝)
商店街の片隅の小さな店。

○同・店内(朝)
田畑由梨(32)がレジカウンター内に座り
あくびをしながら雑誌をめくる。
店の自動ドアが開き、由梨は立ち上がり
顔を上げると笑顔を見せる。

由梨「いらっしゃいま……」

と、途中で止め由梨は真顔に戻り再び座る。
開いたドアから入って来たのは星野瑞枝(83)。
少し曲がった背中の後ろに手を組み
ゆっくり歩く。
瑞枝は商品棚に並ぶ
ハンドクリームを眺め回す。
サンプル品のひとつに手を伸ばすと
蓋を開け自分の手に丁寧に塗り込む。
由梨は雑誌に目を遣りページをめくる。
瑞枝は左から右、右から左と商品を見渡す。
由梨はあくびをする。
瑞枝はフンっと鼻を鳴らすと店を出て行く。
顔を上げず雑誌のページをめくる由梨の手。

○星野書店・店内(夕)
文庫本のページをめくる瑞枝の手。
薄暗く狭い店内に並ぶ本棚。
本棚に積み上げられた書籍。
それらは薄く埃を被っている。
瑞枝の座る窓際のレジカウンター。
ポツポツと雨が屋根に当たる音。
瑞枝はチラと窓の外に目を遣る。
窓の外には傘を差した
制服姿の中学生たちが歩いている。

○同・軒下(夕)
寂れた看板に「星野書店」の文字。
軒下に置かれたラックに
週刊誌や少年誌、少女漫画誌が並んでいる。
制服姿の大木えみ(12)と佐々木唯(12)が
鞄と傘を手に、並んで一冊の
月刊少女漫画誌を立ち読みしている。
ページを捲りながらはしゃぐえみと唯。
制服姿の笠井月子(12)が鞄を頭にかざし
軒下に急ぎ足で入って来る。
軒下の隅に立ち、
手元のスマートフォンを覗き込む。
えみと唯は月子をチラチラ見ながら
耳打ちし合い、クスクス笑う。
店内から瑞枝が出てくる。

瑞枝「はい、今日はもう終わりだよ~」

えみと唯が瑞枝を見る。
瑞枝はえみと唯に、

瑞枝「あんたたち、それ買うの?」
えみ「買いませぇ~ん」
瑞枝「買わないなら濡れた手で触んないでよ」
唯「は~い、すいませぇ~ん」

唯は漫画をラックに戻す。
えみと唯は笑いながら軒下を出る。
舌打ちする瑞枝。
瑞枝は月子の背中に向かって、

瑞枝「はい、締めるよ」

背中を向けたままの月子。
瑞枝はラックのタイヤを転がしながら
店内に入れる。
再び月子の背中に、

瑞枝「ちょっと、聞いてんの?」

背中を向けたままの月子。
月子の視線の先、
書店の反対側の道端に一台の車が停まる。
左右をよく確認して道路を急ぎ足で渡る月子。
舌打ちする瑞枝。
瑞枝は月子の乗り込む車を見る。
運転席の笠井沙和(38)が
手話で月子に話し掛ける。
助手席に乗り込んだ月子も手話で答える。
走り去る車。
月子が立っていた場所を見て舌打ちする瑞枝。
軒下の隅にできた
小さな水溜まりに雨が波紋を作る。

○霊園(昼)
バケツに入った水が揺れる。
瑞枝がバケツを持ち上げる。
もう一方の手にはひしゃくと花束。
腰を曲げ、墓地へと歩いていく瑞枝。

○星野書店・入口(夕)
「本日休業」の貼り紙が貼られている。

○ドラッグストア・看板(夕)

○同・店内(夕)
由梨が座りレジカウンターで
マニキュアを施した自分の爪を見ている。
自動ドアが開き、入って来る瑞枝。
瑞枝は、クスクス笑いながら店を出て行く
えみと唯とすれ違う。
月子がリップクリームを見ている。
瑞枝が月子の横、
ハンドクリームの商品棚前に立つ。
瑞枝に気付き、月子は瑞枝をよけて
店を出ようとする。
自動ドア前に設置された警報機が
けたたましく音を立てる。
レジカウンターの由梨が顔を上げる。

由梨「あ!待ちなさい!」

由梨が月子に呼びかける。
月子は振り返らずにドアへ向かう。
瑞枝は無表情で月子を見ている。
由梨は月子を追い駆け腕を掴む。

由梨「ちょっと!待ちなさい!」

ビクッと肩をすくませ振り返る月子。

由梨「出しなさい」

由梨は月子に向かって手のひらを出す。
月子は怯えて由梨を見上げる。

由梨「取ったでしょ?出しなさい」

月子は潤んだ瞳で店内を見回す。
瑞枝が無表情で月子を見ている。
月子は由梨を見上げる。
由梨は溜め息をつき、

由梨「はい、じゃあ鞄の中の物、全部見せて」

由梨は月子の鞄を引っ張る。
抵抗する月子。

由梨「ちょっと!貸しなさいっ!」

由梨は力強く月子から鞄を奪う。
月子の鞄の中を漁る由梨。
由梨は鞄の中から
パッケージに入った耳栓を取り出す。

由梨「ほら、これ。売り物。分かってるでしょ?」

月子は目を見開き大きく首を横に振る。

由梨「はぁ? しらばっくれんの? 万引きは、犯罪です」

由梨は壁に貼られたポスターを
トントンと指で叩く。
ポスターに「万引きは犯罪です」と
書かれている。
ポスターを見る月子。首を激しく横に振る。

由梨「いや、もういいから。現行犯だから。ちょっと事務所来て。親呼ぶから」

月子の腕を引っ張る由梨。
その場に踏ん張り、抵抗する月子。

由梨「はぁ!?親じゃなくて警察呼ぼうか!? いいから来なさいっ!」

由梨は月子を力ずくで引っ張りながら
店の奥へと進む。
由梨の前に立ちはだかる瑞枝。
由梨は顔を上げる。
月子も顔を上げる。
瑞枝は由梨をじっと見ている。

由梨「なんですか?」
瑞枝「その子さぁ」

月子に視線を遣る瑞枝。

由梨「は?」
瑞枝「たぶん違うよ」
由梨「何が? 万引きですよ、万引き!」
瑞枝「うん、だから、違う」
由梨「何が? ……あぁ、そっか」

由梨はうっすらと笑う。

瑞枝「ん?」
由梨「もしかしてあなたもやってます? バレてないだけで」
瑞枝「は?」
由梨「いっつもなーんにも買わないですもんね?」
瑞枝「うん、まぁ、大したもん置いてないし。ここ」

由梨は怒りで顔を紅潮させる。

由梨「いいからどいて」

由梨は瑞枝を押しのけようとする。

瑞枝「いや、だから、その子違うよ」
由梨「だから何でそんなこと言えるんですか!」

瑞枝は月子を見る。
月子も瑞枝を見ている。

瑞枝「その子、聞こえないんだよ、耳」
由梨「え?」
瑞枝「なのに耳栓? そんなもの盗むと思う?」

由梨は月子を振り返る。
月子がまっすぐ由梨の目を見ている。

瑞枝「ほら、あんたからも言ってやりな」

瑞枝は月子を見る。
月子は瑞枝を見て、パカっと口を開ける。

瑞枝「あ、ごめん」

瑞枝は自分の手を口に当てる。
由梨は呆然と立ち尽くす。
月子が思わず笑う。
口を開けて瑞枝も笑う。

(了)

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