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空振った夢

こちらは映像用脚本です。
スクールの課題として書いた作品なので
結末なく終わっていることがあります。
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柱:場所などを表します

地の文
ト書き:人物の動きなどを表します

「」
人物のセリフです
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空振った夢

2022.8.26脱稿

---登場人物------------------
田城創(42)梅林高校教師
山鹿颯太(18)梅林高校三年
川村由莉(18)颯太の彼女
田城圭子(67)田城の母
教師
警察官
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○甲子園球場・全景
人で賑わう場外。聞こえる歓声。

○同・グラウンド内
マウンドに立つ松森学園高校の投手。
投手は肩を揺らし深呼吸する。

○梅林高校・職員室・中
テレビに映し出された甲子園球場。

実況の声「さぁ、フルカウント。
緊張の一瞬です」

うちわを手にテレビ前に座る教師たち。
田城創(42)は顔を上げずデスクに向かう。

実況の声「ピッチャー振りかぶって……投げた! 
空振りーー!!」
教師「うぉーーーー!!」

声を上げる教師たち。

実況の声「松森学園高校、
悲願の甲子園初優勝です!」

テレビの中では球児たちがマウンドで抱き合っている。

教師1「ついにやりましたね! 県内勢!」
教師2「いやぁ〜! いい試合だった!」
教師3「田城先生!
あなた松学の出身だったでしょう!?
どうです、母校が全国制覇した気分は……?
あれ?」

田城のデスクを見る教師たち。
誰もいないデスクに
採点しかけのプリントが置かれている。

○同・正門
田城がひとり煙草を吸っている。
ぼんやりと自分が吐いた煙を眺める。

○同・進路相談室・外(夕)

○同・同・中(夕)
田城と坊主頭の山鹿颯太(18)が
向かい合って座っている。
二人の間の机には
『進路希望調査」』と書かれたプリント。
第一希望に『プロ野球選手』と書かれており、
第二希望は空欄である。

田城「おい、お前、真面目に書けよ〜」
颯太「まじっすよ、俺」
田城「いや、だって、このガッコの野球部、
毎年予選敗退だろ?」
颯太「まぁ」
颯太は伸び始めた坊主頭を
シャリシャリと触る。
田城は溜め息をつき、

田城「プロになりたいんだったら
高校入る時点で松森学園とかに行けよ。
それで甲子園とかさぁ……」
颯太「うちの親、私立はダメだって」
田城「でも、うちのガッコからプロ目指すって……
プロなんて狭き門だぞ?
甲子園に出たって……仮に優勝したって
そこからプロになれる選手なんて一握り……」
颯太「甲子園なんて俺の将来とは
関係ないですもん」
田城「え?」

田城は颯太を見る。

颯太「俺、実業団のある会社に就職して、
そこで野球続けます。で、プロテスト受ける」

黙る田城。

颯太「先生、俺、ちゃんと考えてるでしょ?」
田城「……どこに就職するんだよ?」
颯太「地元だったら太陽電機一択ですけど、
親と相談して県外出ていいんだったら
もうちょっと考えます」
田城「……はぁ」

コンコン、とドアをノックする音。

田城「はい」

ドアに向かって返事をする田城。
ドアが開き女子生徒が顔を覗かせる。

生徒「先生〜? まだ〜?」
颯太「じゃ、俺、親にも話しときます」

颯太は席を立ちドアへ向かう。

颯太「失礼しましたー」
振り返り頭を下げる颯太の坊主頭。

○お好み焼き「城主」(夜)

○同・中(夜)
鉄板を挟んで座るジャージ姿の颯太と
制服姿の川村由莉(18)。
由莉の制服には「松森学園」の刺繍。
二人の間でお好み焼きが音を立てている。

由莉「だから颯太も高校入る時
推薦狙えばよかったんだよ」
颯太「だって俺野球しかしてなかったもん。
由莉みたいに勉強もできりゃ
よかったんだろうけど」
由莉「ま、三年前の話してもしようがないよね!
食べよ、食べよ」

由莉はお好み焼きにヘラを伸ばす。

颯太「俺こっちー」

すかさず颯太もヘラを手に
お好み焼きを切り始める。

由莉「わ、こいつ最悪。
そっち肉多めなの知ってんだから!」

憤慨する由莉。

颯太「ははっ! 冗談、冗談。こっから半分ね」

颯太は等しくお好み焼きを切り分ける。
笑顔でお好み焼きを食べ始める二人。

○同・外(夜)
食事を終え店を出て行く客たち。

○同・中(夜)
店内に置かれたテレビ。
野球中継が流れている。
真剣に見ている颯太。
テレビの中で投手が大きく振りかぶる。
ストレートを投げる投手。

颯太・圭子の声「バカっ!」

バッターが捉えた球が空高く上がって行く。

実況の声「たかーく上がって……入ったー!
逆転ホームラン!」

颯太はカウンター奥のキッチンを見る。
キッチンからテレビを見ている
エプロン姿の田城圭子(67)と目が合う。

圭子「今のストレートはそりゃ打たれるよねぇ」

圭子は颯太に笑いかける。

颯太「ですよねぇ」

颯太も笑う。
由莉は分からないといった顔。

颯太「おばさん、野球好きなんですか?」
圭子「好きも何も、長年そこの
松森の子たち見てきてるしねぇ」

圭子はあごで外を指す。

颯太「あ、そっか」
圭子「うちの息子もそこで野球やってたのよ。
今は野球辞めてガッコの先生やってんの。
今年から梅高って言ってたかなぁ」
颯太「え? 本当に? 俺、梅高ですよ」
圭子「あら、そう!
田城創っていうの。知ってる?」
颯太「え!」
驚いて由莉と目を合わす颯太。

○由莉の家・前(夜)
由莉が家に入るのを見送る颯太。
玄関が閉まると、
颯太は足首を回し走り始める。

○道(夜)
通勤鞄を手に歩いている田城。
視線の先に赤いランプを光らせたパトカーと
警察二人に囲まれたジャージ姿の颯太。

田城「山鹿?」

田城の方を向く颯太。

颯太「先生」

田城は急ぎ足で颯太に近づく。

田城「すいません、
こいつうちのガッコの生徒なんです。
なんかありました?」
警察官「あぁ、ええ。遅くにひとりで
走ってたもんですから」
田城「うわー、そりゃすいません。
こいつプロ目指してて。ストイックなんですよ」

颯太は田城の顔を見る。

警察官「プロ! あ、松学ですか?」
田城「いえ。梅高です」
警察官「うめ……ははっ、
梅高からプロですか?」

警察官は鼻で笑う。
ムッとする颯太。

田城「ええ。プロになる道も色々ありますから。
何かおかしいですか?」

真顔の田城。
警察官の緩んだ顔も真顔になる。

田城「とにかくすみません、お騒がせして。
もう帰らせますんで。どうも、ご苦労様です」
警察官「あ、はい。
じゃあご指導の程よろしくお願いします」

去って行くパトカー。

田城「野球のやの字も知らねぇバカが」

田城が呟く。
吹き出す颯太。

○公園(夜)
街路灯がポツポツと立っている。
ブランコに並んで座る田城と颯太。

颯太「先生、松学だったの?」
田城「え? 何でそれ……」
颯太「城主のおばさんに聞いた」
田城「あー……お前、あそこ行くんだ」
颯太「甲子園出たんだ?」
田城「……まぁ」
颯太「ね、甲子園ってどんな感じなの?」

前のめりになり目を輝かせる颯太。

田城「待て待て、お前、
甲子園には興味ないんだろ?」
颯太「いや、俺、将来に関係ないとは言ったけど
興味ないとは言ってないよ」
田城「やなガキだな」
颯太「ガキじゃねーし。ね?
先生のときって決勝まで行ったんでしょ?
話聞かせてよ!」
田城「もう忘れた」
颯太「えー……つまんね」

颯太は軽くブランコを漕ぐ。

颯太「……俺さ、さっき嬉しかったよ」
田城「え?」
颯太「先生が俺の夢笑わなかったから」

田城は黙る。

颯太「分かってんだ、俺。
さっきのおまわりみたいに
鼻で笑われるのが普通だって」

田城は颯太を見る。
颯太は前を向いている。

颯太「でも……。でも、それが俺の夢だから」
田城「夢、ねぇ……」

田城は煙草に火をつける。
ふぅ〜っと煙を吐く田城。

田城「……俺の三振で負けたんだ」
颯太「え?」
田城「忘れもしないよ」

颯太は田城を見ている。

田城「あの瞬間、俺は自分の夢だけじゃなくて
仲間の夢まで絶ってしまった」

田城は遠くを見る。
田城の横顔を見つめる颯太。

颯太「先生の新しい夢は?」
田城「え?」
颯太「その時の夢はダメだったけど、
次の夢叶えればいいでしょ?
ね、先生の将来の夢は?」
田城「将来の夢って……俺もう
42のおっさんだぞ?」
颯太「42のおっさんが夢持っちゃダメなの?
俺そんなの聞いたことない」

田城は遠くを見ながら、

田城「……夢ねぇ。ないなぁ……」
颯太「じゃあ今考えようよ!俺手伝ってやるよ」
田城「なんで夢考えるの
生徒に手伝ってもらわなきゃいけないんだよ」
颯太「だって思いつかないんでしょ?
なんか……ほら……ないの?」
田城「うーん……あ」
颯太「え?」
田城「……可愛い嫁さん貰う、とか」

颯太はジッと田城を見る。

颯太「先生、それちょっとキモいね」
田城「はぁ!?
お前、言わせといて何だよそれ!」
颯太「あははっ、ごめんなさい」

笑う颯太。
田城もつられて笑う。
街路灯の明りが二人を照らす。

(了)

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