ゲーム経由で地元オケのコンサートに行って泣いた回


「オケ、浴びてえな……」

ここしばらく、密かに思いを募らせておりました。そのきっかけとしては次のふたつだと断言してもいいでしょう。現地で聴きたかったけど行くことが叶わなかったBEMANI SYMPHONYと、今年出会ってのめり込んだUNDERTALEの 5周年コンサート(のアーカイブ)。耳に馴染んだ曲がオケアレンジされたのを入り口にして、オーケストラだからこそ発生する分厚い情報量を知ってしまったのですよ。

オーケストラの演奏って地元でも聴けるものなのかなぁと思っていたところ、目に留まったのが弘前交響楽団のサマーコンサートのポスター。2部構成で大人一枚1,000円とお手頃で、スケジュール的にも問題なかったのでチケットを購入。ただ、無礼を承知で今だからこそぶっちゃけますが、どれほど楽しめるかは未知数だなぁとも考えておりまして。

――結果から言うと、完全に杞憂でした。5000字超える日記を書くくらいには楽しかった!!!

7月16日、コンサート当日。何着ていけばいいんだ、スニーカーでもいいのか、と悩んだ結果カジュアルな服装で赴き、開演30分前に入場。低音楽器を浴びたい欲があったので、チェロやコントラバスの前である右側の席を狙っていたら、意外と前の方の席がポッカリと空いている……。全席自由だったよね?と一瞬不安になりましたよね。みんな行かないのか……前……。ちょっぴり勇気を出して、欲に忠実になって前の方に座っときました。でも少し後ろのほうが全体を見れていいのかもしれない。なにもわからない。

開演直前、後ろ側にちらりと視線を向けてみたらびっちり席が埋まってました。壮観。

第1部

テーマは「どこかで聞いたクラシック」
よくあるテーマだなぁと……正直に言おう、侮ってました。申し訳ございませんでした。100年以上の時を超えてきた実績は伊達じゃない。ノスタルジアでクラシックに触れてても感じたことじゃないかそれは!!

喜歌劇『軽騎兵』序曲(スッペ)

開幕のファンファーレが華やか。一気に気分が盛り上がりますねファンファーレは! 「聞いたことあるポイント」は曲開始から2分30秒あたりのメインテーマでしょうか。騎兵隊の蹄の音なんですって。手拍子で参加したくなってしまった。しかしその後は威勢の良さも鳴りを潜め、戦況悪化……と思いきや、再びやってくる例のフレーズは救援の騎兵隊! めでたく大勝利! というキャッチーな起承転結。1曲目の掴みとしてもビッタビタにハマってました。

エニグマ変奏曲 op.36より第9変奏「ニムロッド」(エルガー)

「エニグマ変奏曲」だけで検索しても、この第9変奏が目立ってますね。単独で演奏されることも多いそうです。エルガー自身を含め14人を変奏で表現していて、自身としても第9変奏およびそこで表現した人をとても大事に思っていた模様。「聞いたことある!」とはなれなかったけど、どこかで耳にしてはいたのかも。じんわりとあったかくて、包み込まれる安心感を覚える曲でした。思いの深さ故に言葉で語るのをあえて避けるような雰囲気も感じましたね……。

他の変奏も気になったから全体の演奏も探して聴いちゃった。描かれるのは豪快な人から穏やかな人、はたまた友人の飼い犬まで。自身を表現するフィナーレでも第9変奏が引用されててエモい。

『弦楽セレナーデ』op.48より第1楽章(チャイコフスキー)

音ゲーマーとしての「聞いたことあるポイント」は、ギタドラの「CLASSIC PARTY 復活。」のイントロ。弦楽セレナーデ、本当にここだけしか知らなかった。

……生で聴けてよかった……。

もう最初の音だけで掴まれちゃいますね。ハ長調だけど冒頭の和音はイ短調なんだそうで、悲劇的とも取れる出だしだけど続くメロディーは雄大さもあって、その少し後の低弦(チェロとコントラバス)が、続けてバイオリンが1オクターブ駆け上がるフレーズがまた感情を煽るったらもう。長い音も細かい音もありピチカート奏法も使われてたりして、ストリングスの優雅さも快活さも重厚さも存分に味わえるすごい曲なんだなって素人なりに感動してしまった。低弦が表に出る部分もあったので、ありがとうございます助かります……になっておりました。

検索したらとんでもない収録音源を見つけてしまった。気迫がほとばしっている。低音が分厚い。これも結局全4楽章を通して聴きました。

『アルルの女』第二組曲より「ファランドール」(ビゼー)

音ゲーマーとしての「聞いたことあるポイント」は、ポップンのクラシック6こと「Maritare!」。結婚式にまつわる曲を集めたんでしたっけ。もちろん「ファランドール」もそうなんですが、Wikipedia見たらバッドエンドでした。ひえぇ。
打楽器が目立ってていかにも舞曲って感じで、フルートやピッコロも軽やかなステップを想起させます。思わず体が揺れてしまうほどだったんですが……ストーリーを知ってからだと、ただ愉快なだけじゃなくて狂気のようなものも感じ取れてしまう……。考えすぎかしら。

第1部が終わって、20分間の休憩。私の状態と言えば、これでまだ前半なのか……と背もたれに沈んでおりました。生オケ、情報量、多い。自分のタイミングで注目したいパートに注目できるの、あまりに贅沢。

第2部

テーマは「昭和のテレビを彩った作曲家たち」
メインで取り上げていたのは、弘前市出身の菊池俊輔さん。数え切れないほどのドラマやアニメの音楽を作曲した、まさにレジェンドと呼べるお方。覚えて帰ります。

音ゲーマーとして補足。
版権曲としてポップンに収録された菊池さんの楽曲は、本家初出が3曲。

  • テレビ映画「吉宗評判記 暴れん坊将軍」BGM(リフレクにも入ってましたね)

  • レッツゴー!!ライダーキック

  • おれはジャイアンさまだ!

アニメロ初出が4曲。

  • タイガーマスク

  • バビル2世

  • ゲッターロボ!

  • ワイワイワールド

合計7曲にも上ります。版権曲の原曲の作曲者まで網羅するのはなかなか難しいですが、多いのは間違いないはず!

再びステージに立つ演奏者の皆様は、演奏する曲に合わせて、アニメのキャラクターを模したTシャツやお面を身につけておられました。指揮者も暴れん坊将軍にちなんで、馬の蹄の音とともに登壇。遊び心を散りばめつつも演奏はガチです。

暴れん坊将軍

オープニングテーマから殺陣のテーマへ。この世の悪をばったばったと叩っ斬るカタルシスが尋常じゃないですね。オープニングのトランペットが輝かしくも哀愁を背負ってるあたりとか、殺陣のテーマのストリングスの緊迫感とかティンパニーの迫力とか、いやー解像度上がりますねー……。

30分耐久動画のコメント欄に「冷静に考えると時代劇にオーケストラっておかしいのに曲が良すぎて誰も気づいてない」みたいなのがあって笑った。そういえばそうなんですよね!!(気づいてなかった)

「Dr.スランプアラレちゃん」より「ワイワイワールド」

イントロのポップなシンセドラム、底抜けに明るい高音のトランペットやフルート、のんびりとした雰囲気を演出する間奏のチューバ。さっきまでの緊迫感がどっか行っちゃいました。この作風の広さも、それぞれの楽器が持つ特徴を深く理解してるからこそなのでしょうね……。

ゲッターロボ!

「合体ロボットもの」の先駆けなんですって。またまた勇ましいヒーローがやってきました。イントロのブラスの鋭い連続音や、要所要所のティンパニーとドラムフィルのかっこよさが印象的。やっぱりド直球なヒーローの象徴は金管とか太鼓の類なんでしょうか。

ドラえもん(メドレー形式)

声優の交代とともに各種音楽も変更になりましたが、ドラえもんと言ったらこのBGMが記憶に染み付いているわけですよ。冒頭からオチまで目に浮かぶのは、場面との一体感の強さもあったに違いない。
あと低音好きとしてはジャイアンのテーマの重低音が美味しかったです。ガキ大将すぎた。フルートが可憐なしずかちゃんのテーマとの対比も味わい深し。

菊池さんのご遺族の方や、菊池さんの楽曲のオケアレンジを担当された方も会場にいらしてたようです。実際にフル編成オーケストラで、そして彼が生まれた地で聴くというのはひときわ感慨深いものがあるでしょうね……。

続く2曲は「市販の楽譜です」でひと笑い。

交響詩「ウルトラセブン」より『第1楽章 ウルトラセブン誕生!』(冬木透)

次の「宇宙戦艦ヤマト」共々、パンフレットにストーリーのあらすじも載っておりました。何も知らないので助かります。

未知の脅威がじわじわと迫り、ついには牙を剥いてきて、絶望感に襲われたその瞬間流れるテーマソングのイントロ。頼もしさや希望をめちゃくちゃリアルに感じて思わず涙腺が緩みました。テーマソングはポップン7のサントラとか懐かしアニソン特集とかで聴いたことがある程度なんですが、それの前に「迫る脅威」の丁寧な表現があるとこんなに理解度が上がるんですね。音楽ってすごいなぁ(シンプルな感想)。

パンフレットの「ホルンの咆哮」との表現が好き。「セブン!セブン!セブン!(ぱらららーん)」はウルトラセブンを称えてる感がすごいですね。スネアも鼓舞してる印象が出ます。あとシンバルが入るタイミングが絶妙だなぁとか、8分で刻むコントラバスの安定感がいいなぁとか。

交響組曲「宇宙戦艦ヤマト」より『序曲』『ヤマトのテーマ』

一度舞台袖に戻った指揮者が艦長のコスプレで登場。

吹奏楽のアレンジは多いんですが、意外とオーケストラで演奏してる動画が少ないですね……。

パンフレットのあらすじによると、人類滅亡を阻止するために向かう宇宙の旅はリミットが1年しかないんですって。(Wikipediaによると艦長も病に冒されていたんですって。)それを踏まえて序曲を聴くと、かすかな希望に縋る悲痛な覚悟とか、クレッシェンドで表現される巨大な戦艦とそれに託された使命の重さとかがズシンと迫ってきて……そこからの勇ましいテーマソングのイントロですよ。勇ましさの奥に秘めるものを知ってしまったからにはもう泣くしかないわけですよ。これも馴染み度合いとしては前曲と同じくらいなのに! 音楽ってすごいなぁ(2回目)。

Bメロに当たる部分のトランペットから悲壮感がにじんでるなぁと思っていたら、調べた歌詞が「まさに」でして。押し込めてんなぁ……。そういうのに弱い……。

(「必ずここへ ~」と「誰かがこれを ~」の部分)

Bメロとサビの間のスネア叩くの気分いいだろうなぁ。そして駆け上がって一番盛り上がるサビの終わりが迫力満点。これが生のオケヒってやつなんですか!? かっけぇ~~~~~

そして改めて聴いたポップンのアレンジがすごいと気づく。

アンコール:「Gメン75のテーマ」(菊池俊輔)

……だったはず……記憶が正しければ……!
「いいエンディングだ……」と黄昏感をしみじみ噛み締めてましたがオープニングテーマなんですわ。

浴びてみるものでした

ほんの2時間程度とは思えない濃密さでした。これがたった1000円で味わえるっておかしいでしょ、となりながら会場を後にする、感動に金を払いたがるオタク。
この価格設定もスポンサーの皆様のおかげなのでしょう。よし広告出してるところにお金を……と思ったけど病院とか工務店とかが多数だったのでなかなか……。

たくさんの人、様々なパートが集まって、その場でひとつの曲を形作る凄みは、画面越しでも確かに感じたけれど、会場で直接感じるそれは確実に桁違いでした。
それをたくさんの観客の一員となって同じ会場で味わうのもまた良さがあるな、とも。コンサートが終わって、ホールを出て建物を出て、同じ音楽を浴びた人たちがそれぞれの生活へと散らばっていく当たり前の事実に、なんとなく心強さというか、文化を楽しむ人がたくさんいるっていいなぁ、って思ったんですよね。
前にもJAEPOやポップンの公式イベントに行ったことはあるし、地元のライブやクラフトイベントに足を運んだこともあったのに、そういう感慨はそれほど湧いてこなかった。コロナ禍もだいぶ落ち着いたかなという雰囲気とか、知ってる領域から少し外に出てみた緊張感とか、イベントが終わってもまだ明るかった時間帯だとか、いろいろ重なった結果、なのでしょうか。この感覚も含めて、いい体験ができたな、と。

あと、もうひとつ実感したこと。

何かを救うため・守るために行動を起こすヒーローのための音楽を第2部でいろいろ聴いて、アンダインというかSpear of JusticeとBattle Against a True Heroの解像度もさらに上げたくなっちゃったかもなぁ……。トランペットとかバイオリンとかティンパニーとかスネアとかの使い方が、その2曲のオケアレンジともよく似てる部分があると気づいたもので。
どんな状況でも揺るがない勇ましさの影で、一体どれほどの努力が積み重ねられただろうか、どれほどの苦悩を乗り越えてきただろうか、そういう部分に思いを馳せたくなってしまった。

結局推しコンテンツと往復してしまうのであった。推しコンテンツをきっかけに世界をちょっと広げて、そこから吸った要素で推しコンテンツの味わい方を増やすってのもオタクの醍醐味のひとつってことで。

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