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出会いをオモシロがれる旅へー河童が覗いたヨーロッパ

旅に出られず退屈に思う私、ヤマダの気持ちを落ちつけてくれる本や映画。今回は、妹尾河童著「河童が覗いたヨーロッパ」(新潮文庫)です。

オモシロイ?ヨーロッパ事情

部屋を見わたして、その地方の風土や、お国ぶりを感じることに興味を持ち、オモシロがってスケッチをしながら旅をした。 

この本には、河童さんが出会ったあらゆる「興味深い」ヨーロッパ事情が詰まっています。300ページにも及ぶ、手描き文字とスケッチ1年間で歩いた国は22ヵ国。泊まった部屋が115室。ヨーロッパの「あるある」エピソードが満載です。

ヨーロッパ独特の洗礼

ヨーロッパに行くと、価値観がちょっと違うがゆえに、ちょっとした「洗礼」を受けます。

観光地、列車、列車の中、出会った人との会話、旅先のホテル。
様々な場面で、地元の人たちと「やりとり」を交わす機会があります。
楽しい交流ではありますが、思わぬことを聞かれたり、言われたりして、ちょっと心が重くなったり。
うまく答えることができなくて、日本人らしすぎる曖昧な答え方をした自分に、少しがっかりしたり。
(もちろん、日本人らしくてよかったこともたくさんありますが。)
旅の途中、自分のメンタルは楽しさとちょっとした落ち込みが、入り混じり、ぐらぐら揺れるんです。年に1度はヨーロッパに行く私も、いまだに揺れます。

洗礼1:試されている?
ナポリへカメラ3台持って旅に出た河童さん。駅のカウンターでモンブランの万年筆を挟んだ手帳を置き忘れ、おじさんが追いかけてきた。お礼にとコーヒーを一緒に飲みながら、ナポリは泥棒が多く、町になれていない人をねらうなんてアンフェアだと言った河童さんに、おじさんは・・・。

「旅行者もそのことをあらかじめ知っていて、気をつけているわけだ。だから五分五分で、決してアンフェアじゃない。・・・(君も)駅のカウンターの上へ置いた3台のカメラを、ずっと両腕でかかえていて一瞬もはなさなかったではないか」なんと、この男はじっと僕をみていたわけだ。彼は照れたようにニッと笑った。・・・「君は別だったがね。・・・」と。

洗礼2:交渉術が必要

最初に案内されたのは、次頁に描いた狭い部屋。すぐにフロントにかけあった。「シャワーだけじゃなく、バスつきと約束した筈」といったら、この部屋に替えてくれた。こちらでは、不満があればすぐにいうこと。いわない人は満足したものと解釈する。

洗礼3:おっしゃる通りです

あるとき、僕は車掌氏に「かなりおくれているね」といってみたら「列車を動かしているのは、時計と機械ではないのでね」といわれ赤面したことがあった。

洗礼4:叱られる

列車の切符を買うとき、どちらかを指定するわけだ。僕は吸わないが、煙を苦にしないので「どちらでもいい」とついいってしまった。すると「どちらかと聞いているのですよ。それを決めるのは、あなた自身で、私が決めることではないでしょう」と叱られた。

正直、ちょっと面倒くさい。でも、なぜか結構楽しい
このちょっとした「やりとり」をうまく自分が対応できると、とてもうれしい。そして、もっと相手を知りたくなるし、話しかけたくなる。こんな考え方をするのかとますます知りたくなる。
本を読み進めると、少しずつ河童さんの「話しかける」「質問する」スタイルが変わっていくことがわかります。ところどころ、文章が楽しそうに跳ねていたり、どーんと気持ちが落ちていたり。河童さん、この状況をとても楽しんでいたんだろうな。
実際に似たような経験がある人は、読みながら自分を重ねることができて、かなりオモシロイはずです。

河童さん流の旅の秘訣

旅の秘訣は”得点法”。
・・・減点法は旅をツマラナクする。

道中起こったトラブルに思い悩むより、どうせなら、オモシロがれるほうがいい。次はこうしてみようと試してみるぐらいのトライアル精神があるほうがいい。
これって、とてもすてきな旅の心構えです。
そしてある意味、真面目で、真っ直ぐで、世界のどの場所よりも素晴らしいサービスを日々受けている私たち日本人が知ることができる、最大の旅の醍醐味かもしれません。

過去のカレンダー思い出話 (5)

各ホテルの部屋の間取りを俯瞰図や平面図で紹介されているのですが、
細かな描写に「なるべく正確に伝えたい」という優しさが滲み出ていて、その章もとてもすばらしいんです。長くなるので、それはまたの機会に。

最後に余談ですが、私の手元の本は人づてに、高校生の男の子の手に渡りました。手に取り、開いた瞬間に「おもしれー!」と目をキラキラさせたと。
1970年代の現状を紹介したこの本は、いつまでも色褪せることなく、まだヨーロッパを知らない若者をみたこともない世界へ「オモシロく」いざなってくれるのでしょう。
そう思うと、私はとてもうれしくて、この本の偉大さをあらためて実感するのでした。 ーYamada

今回ご紹介した本


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