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雑感・戦場のフーガ

 人間は他者と自分を語る時、兎角差異から見つけがちである。例えば年齢、例えば性別、例えば出身地、例えば身体的特徴、例えば主義思想……。
 一見バラバラに見えるが、それらは皆「自身の力(だけ)で変えられないのもの」である。そうした決定的差異をまず確認し、互いの距離とし、あるときは傷つけるため、あるときは傷つけぬために利用する。

 鳥獣人物戯画を知らぬ日本人は少なかろう。平安末期から著されたとされる絵巻物で、カエルやサルやウサギが人間のように遊び働く姿が描かれていることから、日本最古の漫画とされる。
 そのさらに昔、紀元前に生まれたとされるイソップ寓話にも、動物や昆虫の営みを人間のそれに例えた話が多い。
 人は人以外の何かに人を語らせたがる。時代や技術が変わっても、人間と動物の差異は埋まらない。この決定的差異をもって、人はカエルやウサギやキリギリスを嘲笑しようとしていたのだろうか?否、動物たちから見れば、我々は皆、人間という単一種族に過ぎない。
 即ち擬人の寓話は、時代も年齢も性別も思想も度外視し、人間そのものを映し出す永遠の鏡なのだ。

 いわゆるケモノ作品に一家言を持つデベロッパーが、誕生四半世紀を迎えて初めて手がける自社パブリッシングタイトルに、ケモノを採り入れたことは当然と言える。そしてそこに映し出されるのは、人類が延々と嫌いながら並走してきてしまった、戦争の一面である。

 イヌヒトとネコヒトという2種類の種族が暮らす、大小様々な浮島からなる世界、浮遊大陸。
 イヌヒトのマルトたちは、辺境の村プチ・モナで、放牧などを生業とし、静かに暮らしていた。
 が、ある日。北東のベルマン帝国が村を襲撃。村の大人たちを連れ去ってしまう。
 大人たちの手によりなんとか逃げられたマルトたち。だが禁足地とされた山の洞窟で、謎の巨大戦車を見つける。
 子供たちだけの手により、戦車は動き出す。仲間を助けるためには、敵と同じく引き金を引くほかないのだ……。

 ゲームの主体はコマンド入力式のRPG。村パートと戦場パートに分けられ、戦場は難易度分岐からなるルート選択式で進行する。
 当然難易度の高いルートには有利なアイテムが落ちているもので、進行次第で難易度や手応えは変わる。
 また戦闘は、タラニスに備え付けられた3つの砲座に、キャノン、グレネード、マシンガンのいずれかを配備して戦う。敵には弱点があり、弱点にあった武装で攻撃されると行動を遅れさせ、戦闘を有利に進めることもできる。
 が、ただ闇雲に弱点ばかりを狙えばいいわけでもない。遅延が効くのは敵1ターンにつき1度までなので、場合によっては別の武装が有利になることがある。
 例えば、マシンガンは空中機に的確に当たるが、威力は弱い。グレネードは逆に空中機に当たりにくいが威力は保証できる。
 あなたのターン。前の攻撃で既に敵の弱点を突いたので、これ以上遅延は発生しない。マシンガンなら確実に当たるが、撃墜できるかは保証できない。グレネードが当たれば撃墜必至だが、的中率は40%。
 さぁ、あなたならどちらに攻撃を委ねるだろうか?

 無論物語も深い。戦場パート中に発生するインターミッションで、仲間と親密度を高めると、必殺技が強化されたり、シナリオに変化があったりなかったりする。
 一見大きな本筋から外れられないRPGに見えるが、微に入り細を見れば、あなたの選択一つで戦局も物語も変わる。
 そして何より、ゲームの想起の段階から決めていたという兵器『ソウルキャノン』の存在が、物語とあなたの指先に重い影を落とす。

 遁走と追走。大人と子供。イヌヒトとネコヒト。戦争と兵器。平和と武力。隔てられた物語が鏡となってあなたを強烈に映し出し、コントローラを握る手を焦すほどボタンが重くなる。
 水鏡に吠えて肉を失うか、目先の利益に甘んじて冬の吹雪に泣くか、北風で服を吹き飛ばさんとするか。あなたの価値が試される戦略と物語の協奏曲。
 ケモナーのあなたもそうでない人も、この浮遊大陸から零れたストーリーに、踊ってみてはいかがだろうか。

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