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劇評・映画大好きポンポさん

 本作を見ていてふと気付いた。Directorとは面白い言葉だな、と。
 Directとは管理する、運営する、指揮する、監督するといった動詞のほかに、まっすぐ、直接、直行などの形容詞にもなる。
 強引な解釈だが、その思想や行動が作品や組織そのものと直結する存在と受け取れば、なるほどその責任の重さも意味できる気がする。
 重責、期待、経費、名誉。天秤の反対側に何を乗せても釣り合いそうもないものを目一杯積み上げて進んでいく映画づくり。その中心にいる監督はいかにして舵を取るか。ある者は己の持つ最も重きものを乗せてバランスを取る他ない。映画を撮るか、死ぬか。

 伝説の二つ名を持つ映画プロデューサー、J.D.ペーターゼン。そのコネクションのみならず、映画人としての耳目と手腕を受け継いだのが、孫娘のポンポネットである。
 アシスタントとしてポンポに従う青年ジーンは、取り柄も友人もない内向的な男。ただ一つ、映画だけが彼を支え、満たし、肯定した。
 畑しかない田舎町で生まれ育ったナタリー。彼女の心を唯一満たしたのは映画であり、唯一夢見たのは映画女優だった。
 奇妙な3人が奇妙な縁に引き寄せられ、ポンポの脳裏に一コマのフィルムを焼き付ける。たったそれだけが、3人の世界を激変させる火種であった……。

 原作は2017年に画像投稿サイトpixivに投稿されたオリジナル漫画。発表されるや火を吹くが如く話題となった本作は、瞬く間に書籍化し、そして映画化された。
 何より素晴らしいのが、徹頭徹尾満ち溢れる映画への敬意だろう。いわゆる漫画作りの漫画や、映画作りの映画は過去いくつも存在した。だがアニメだからこそ可能な表現でそれを加速させ、見るものをここまで巻き込むような感情表現とテンポに仕上げたのは見事。
 だが唯一、若干のネタバレを承知で引っかかった点を述べると、作品が90分になった理由を……。

 作品と不可分となる監督、その手指として動くスタッフ、絵筆となってフィルムに映像を描くキャストと舞台、そしてそれらを配置し動かすプロデューサー。
 映画作りは全体の一部に過ぎぬ歯車などではない。まさに交響曲を奏でるかのように、すべてがDirectorの指揮棒に乗せて最高の音を奏でるアーティストの集まりなのだと、改めて思い知る。

 映画を愛する者はもとより、何かを作る者、何かに従う者、何かを目指す者に見てほしい一級のエンターテイメントアニメ。

 できればその息吹を、スクリーンでDirectに感じて欲しい。


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