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追悼・すぎやまこういち

 印象深い場面を覚えている。何年か前、TVが密着取材した時、コンサート開演前にソファに座り、楽譜を開いてイメージトレーニングのように指揮棒を振る、すぎやまこういちの姿だ。
 が、その直後、カメラに向かってにっこり笑いながら
「普段こんなことしないんだけどね?アハハハ!」
 やられた。常に人を楽しませることに砕身する、生粋のエンターテイナーがそこにいた。
 耳への功績のみならず、人柄や表情も強く記憶される稀有な音楽家であろう。すぎやまこういちが逝去した。

 音楽とゲームをこよなく愛する一家に生まれ、祖母が子守唄に賛美歌を歌って聴かせていた。音大を望んでいたが、ピアノが弾けなかった(!)ことから東大に進路を移し、文化放送を経て開局前のフジテレビに入社。ナベプロの創業者、渡辺晋と共に『ザ・ヒットパレード』を立ち上げ、テレビと音楽の橋渡しをした。
 当時として無類のゲーム好きでもあり、エニックス(当時)へ送ったアンケートハガキがきっかけで縁ができ、その後あの名曲が誕生する。

 今年、東京五輪の開会式で、選手入場の行進曲にその曲が流れて驚いた方も多かろう。氏はこの曲を「54年と5分で出来た曲」と語った。蓄積とインスピレーションを表する見事な名言。前回の東京五輪から57年後の大会で使われた時、どんな思いが去来していたのか伺いたかった。

 と書けば、そればかりでなく『帰ってきたウルトラマン』や『恋のフーガ』や『亜麻色の髪の乙女』の話はどうしたとか、2000を超えるCMソングはどうしたとか、JRAのファンファーレの事も書けとお叱りを受けそうに思う。
 曲も世につれ、皆それぞれに忘れ得ぬ一曲があるだろう。今夜はどの曲を子守唄にしようか。選ぶ指先が指揮者のように踊ってしまうのも、エンターテイナー故だろうか。


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