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論点ではなく条文を大事にするということ~R6予備民法設問1⑴を素材に~

受験生のみなさん、こんにちは!
R6予備論文も終わり、残すところ口述のみとなる時期にもなってきましたので、来年の司法試験、予備試験を目標とする受験生の受験に対する意識もどんどん強くなってきているのではないでしょうか?
久々の更新となる今回は、論文答案作成の基本の一つといわれる、「論点主義になるな」、「条文を大事にせよ」、「条文に始まり、条文に終わる」という言葉について考えていこうと思います。
その際、最新のR6予備民法設問1⑴は、格好の素材になるのではないかと思います。ぜひとも問題文を確認してみていただければと思います。
それでは、はりきってどうぞ!

そもそも、「条文を大事にする」とはどういうことでしょうか?
現在の予備試験・司法試験は、長文の具体的事例を前提に、設問を通じてその法的解決を求める形式になっています。
素材であるR6予備民法設問1⑴も、

 【事実Ⅰ】及び【事実Ⅱ】(1から6まで)を前提として、Cは、Dに対して、所有権に基づき、乙土地の明渡しを請求した。Dからの反論にも言及しつつ、Cの請求が認められるかについて論じなさい。

と、具体的事例を前提に、Cの請求が認められるか、Dからの反論はどうかという設問を通じて、当該事例の法的解決を求める形式になっています。
では、このような具体的事例・設問を法的に解決するため、「条文を大事にする」とはどういうことか。
それは、設問に答えるために適用の有無の検討が必要になる条文の文言(要件・効果)に、具体的事例を当てはめていくということではないかと思います。
一方、素材の問題を見た瞬間、「(いわゆる)相続させる旨の遺言だ!」、「え!?失踪!?失踪の論点なんて知らないよ!」と思った受験生の方、それは論点主義だと言われてしまうのではないかと思います。

では、具体的に「条文を大事にする」検討をしてみましょう。

まず、Cの請求は、乙土地の明渡しであることが明らかになっています。
次に、Cの請求の根拠は、所有権に基づくことまでは明らかになっています。ただ、より具体的に詰めると、所有権に基づく返還請求権が根拠であると見ることになるでしょう。所有権に基づく妨害排除請求権とは要件が異なりますので、所有権に基づく返還請求権が根拠として考えられることを明示したいところです。
根拠が確定すれば、あとは要件検討です。具体的には、所有権に基づく返還請求権の要件の一つである所有を検討することになるでしょう。

では、Cが乙土地所有権を取得する根拠は何でしょうか?
ここでも、「(いわゆる)相続させる旨の遺言だ!」と思うのは、やはり論点主義なのではないかと思います。それはなぜなのか、いったんこの論点について基礎知識を確認してみましょう。
判例(最判平3.4.19)は、「『相続させる』趣旨の遺言は、……遺産の分割の方法を定めた遺言であり、……特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」としています。
つまり、当該遺産(の所有権)は「相続により」承継されるとしているのですから、Cの乙土地所有権取得の根拠もまた、相続(896条本文)ということになるでしょう。

根拠は相続であると確定した以上、あとは要件検討です。あまりそのような意識で896条を見たことはないのが受験生の大半だと思いますが、896条は、「相続開始」、「相続人」等を要件としていると読むこともできるでしょう。

上記のうち、「相続開始」について、その根拠として出てくるのが882条、そしてその要件は「死亡によ」ること、となります。
さらに、「死亡によ」ることに当たることの根拠として出てくるのが、失踪宣告、特に素材の問題では特別失踪(30条2項、31条)ということになります。
ということは、今度は特に30条2項の要件を検討すればよいことになります。
30条2項は、「沈没した船舶の中に在った者」「の生死が、」「船舶が沈没した後」「1年間明らかでない」ことを要件としています。ここに素材の具体的事例を当てはめていくことになります。
Aが機関長として搭乗するタンカー甲は、令和3年4月1日未明に発生した船舶火災によって沈没したことが明らかになったとの事実、令和4年6月23日にBがAについて管轄の家庭裁判所に失踪の宣告を請求したとの事実から、上記要件を充足するといえるでしょう。
また、31条は、30「条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす」としています。ここに素材の具体的事例を当てはめていくことになります。
Aが機関長として搭乗するタンカー甲は、令和3年4月1日未明に発生した船舶火災によって沈没したことが明らかになったとの事実から、この時にAが死亡したものとみなされることになるでしょう。

このような検討を経て、896条の「相続開始」、「相続人」等の要件を充足することで、Cの乙土地所有権の取得が認められ得ることになります。
しかし、Bもまた相続人であるため、共同相続(898条1項)として乙土地を共有することにもなりそうです。
ここでようやく、いわゆる相続させる旨の遺言があったこと(≒論点)に触れていくことになるでしょう。

答案上どこまでの分量を割くべきか悩ましいところではありますが、「論点主義になるな」、「条文を大事にせよ」、「条文に始まり、条文に終わる」という言葉がある以上、答案上失踪宣告の適用があることを当然の前提にしたり、相続させる旨の遺言から早速書き出すのは適切とはいえないでしょう。
当たり前すぎるところではありますが、問題文に具体的事実がある以上、そこに条文を適用している姿=条文を駆使することができる力を答案上で見せて点数を獲得していきたいところです。

以上が、今回のテーマです。
今一度、意識できているのかどうか確認してみていただきたいところです。
ちなみに、上記のような具体的検討を32条1項前段、後段との関係でも検討していく過程で、ようやく「善意」とは何かという論点にたどり着くことになるでしょう。早速「善意」とはという論点主義になってしまっていなかったか、同様に確認してみていただきたいところです。

それでは今回はここまでとなります。
この記事が何か勉強のヒントになれば幸いです!

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