動画のウェブアクセシビリティ対応「音声ガイド」
これまで動画のウェブアクセシビリティ対応に関係するnoteを2回公開いたしました。今回は動画の「音声ガイド」について取り上げます。
動画にもアクセシビリティ対応が必要で、ウェブアクセシビリティの規格であるJIS X 8341-3には動画に関わる適合レベルがあることに触れた。
また「キャプション」について取り上げた。今回は「音声ガイド」を。
まずは関連するJISについて。
収録済み映像コンテンツに関するJIS
そもそもJISには3つのレベル「適合レベル」がある。レベルA、レベルAA、レベルAAAなのだが、レベルAが一番容易であり、レベルAAAは対応するのは難しいものも多い。正直全てに対応するのは不可能というくらいだ。しかし、その組織によっては達成できるものがあれば部分的にレベルAAAに対応するのはもちろん構わない。
公共機関は「みんなの公共サイト運用ガイドライン(リンク先はPDF)」によりレベルAおよびレベルAAへの対応が求められている。この「みんなの公共サイト運用ガイドライン」は総務省のウェブサイトで見ることができ、上記のリンク先は総務省に掲載されているPDFファイルとなっている。
なおここで「レベル」と記載したが最新の2016年版での書き方で、こちらは2010年版のJISとそれに伴う「みんなの公共サイト運用ガイドライン」では「等級」という言葉が使用されていた。また2010年版で使用されていた「達成等級」は最新の2016年版「適合レベル」に置き換わっている。
このレベルの話は、動画以外のウェブコンテンツ全般に関わる話なので、また何かの機会に。
さて収録済み映像コンテンツに関するJISは、レベルA、レベルAA、レベルAAA全てに渡ってあるのだが、ここではレベルA、レベルAAのみ一部抜粋して紹介する。
収録済み映像コンテンツに関するJIS例
レベルA
ガイドライン 1.2
時間依存メディア: 時間依存メディアには代替コンテンツを提供すること。
1.2.1 音声のみ及び映像のみ (収録済)
1.2.2 キャプション (収録済)
1.2.3 音声解説、又はメディアに対する代替 (収録済)
レベルAA
ガイドライン 1.2
時間依存メディア: 時間依存メディアには代替コンテンツを提供すること。
1.2.4 キャプション (ライブ)
1.2.5 音声解説 (収録済)
映像を見ることのできないユーザーは、情報が視覚だけで伝えられていては内容がわからない。そこで映像が見られなくても、音声付きの映像を再生しながら見える場合と同じような情報が得られるように「音声ガイド」を提供する。
音声ガイドとは
「音声ガイド」は主音声の合間に挿入するナレーションのこと。画面の内容を音声で説明したものだが、風景やテロップのみの情報を音声で伝えるのは案外難しい。
また、音声コンテンツとは別に、音声から文字おこしをしたものを提供する方法(代替コンテンツ)も有用だ。
この時、単に話者の言葉をそのまま文字おこしして掲載するのではなく、話者が複数人いる場合は誰が喋ったものか(「司会」「A(名前)」「B(名前)」など)記述する。周辺の音でも動画の内容に関わるものについても掲載する。
例えば、国会中継などでフリップを出して質問している様子があるが、フリップを示していることやフリップの中身も説明する。
これは、「音声ガイド」でも同様にする。
音声ガイド作成の流れ
音声ガイドを作成する時の流れをざっと言うと次のようになる。
動画・音声から適切なキャプションになるよう台本を作成する
↓
音声ガイドを収録する
↓
出力して音声ガイド付き動画に加工する(動画内に音声トラックを追加する)
文字にすると三行だが実際にすると、動画をみながら別の文書作成ソフトなどを操作するのは慣れるまで大変だ。ただ、これについては音声ガイド作成ソフトを使うと便利だ。
音声ガイド作成ソフトをいくつかあげておく。
おこ助(有償)
字幕と字幕の隙間時間を表示できるようになっている。アカデミック版もある。操作しやすい上、サポートが充実している。また講習会も実施している。
Eclipse ACTF Script Editor Lite (EASEL) (無償)
合成音声を利用した音声ガイド作成が可能。またHTML5形式で出力可能。
但し海外の製品のため英語。
MAGpie(無償)
事前に録音した音声ファイルの取り込みが可能。また音声ガイドを録音可能。但し、こちらも英語版。
音声ガイド作成のガイドライン
ネット動画のキャプション-ルール作りの提案で、キャプションのルール案を提示したように、音声ガイド作成についてもガイドラインを用意しておくと品質が統一されるのでおすすめ。
例えば次のようなものがある。
・音やセリフで判断できなかったことを描写する
・シーンの切り替わりや設定を知らせる
・しぐさは具体的な動きを客観的に表現する
・字幕・テロップ・フリップ・サインボードは読み上げる
・名詞は適切なものを使い、端的に表現する
・主音声(セリフなど)にかぶせない
音声ガイド作成のコツ
「音声ガイドとは」の部分で記載したとおり、風景やテロップのみの情報を音声で伝えるのは難しい。字幕も同様だが、これについては次のようなちょっとした遊びで体験してみよう。
例えば社内でウェブアクセシビリティ講習をする時などに試してみていただきたい。
ペアになって、ある写真やイラスト、動画のワンシーンをお互い言葉で説明しあうとよくわかる。例えばAさんが持っている写真を、ペアの相手であるBさんに写真を見せずに伝える。
そのときジェスチャーは使ってはいけない。言葉だけで説明するのだ。
電話の相手に言葉だけで伝えるのでも構わない。講習会のときは制限時間を設けてチャレンジしてもらうと結構盛り上がる。
Bさんのほうは、制限時間終了後に発表してもらう。教えられた内容をもとに、簡単なイラストにしてもらうのもいい。
例えば、次のイラストは「猫にエサをあげている男性」だが、このイラストを見ることができない人に伝えるにはどう言葉を並べたらよいだろうか。
少し考えてみてほしい。
なお実際に音声ガイドとして提供するときは、内容について自分で解釈を加えないようにし事実を伝えることを心がけよう。
以上、ざっとでしたが動画の音声ガイドについてでした。
字幕については次のページもご覧ください。
(了)
ヘッダー写真 撮影地 ニュージーランド 南島 ©moya
最後までご覧いただきありがとうございます! 現在放送大学でPDFのアクセシビリティを卒業研究中。noteはそのメモを兼ねてます。ヘッダー写真はnzで私が撮影しました。 【ご寄付のお願い】有料noteの売上やサポートはnzクライストチャーチ地震の復興支援に使わせて頂いております。