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情報障がい者とウェブアクセシビリティ~情報保証について

私たちは五感を使って周囲からの情報を得ている。特に視覚については、「人が得る情報の八割から九割は視覚に由来する」と言われる程重要とされている。(この視覚優位説の正否については、また別の機会に)

情報という観点からみると、単純に言えば視覚障がい者は視覚情報が不足しており、聴覚障がい者は聴覚情報が不足している。
つまり視覚障がい者や聴覚障がい者のような、いわゆる感覚障がい者は『情報障がい者』とも言い換えることができるだろう。

では、不足している情報を補う方法を日常生活での例で見てみよう。

視覚情報(文字、写真、風景‥)

音声や振動、触感など知らせる。例としてあげた4点の写真は、上段左が点字ブロック、中央が点字運賃表、右が音響式信号機。下段が盲導犬。

聴覚情報(音声)

文字や光、手話、振動等で知らせる。例としてあげた写真は、光や振動で知らせるチャイム。この他、聴導犬も活躍している。

かなり古い話だが、1995年にTBS系列で放映された豊川悦司さんと常盤貴子さん主演ドラマ「愛していると言ってくれ」では、豊川さん演じる聴覚障害者の画家 榊 晃次の家で、来客を知らせるためだっただろうかライトが点滅するシーンが登場していた。

聴覚障がい者が政治に関わることで情報を補う動きが起きた例

2015年4月に行われた東京都北区議選で、聴覚障がい者の斉藤里恵さんがトップ当選した。東京都北区の区議会では議場や委員会室に 聴覚障害者向けの、音声を文字に変換して表示する新しいシステムを、議会では全国で初めて導入した。写真はNHK当時のニュースサイト より、議場での発言がほぼ同時に手元のタブレットで文字に変換されている光景。

因みに、国会では?というと、障がい者用ではないが議事録作成に京都大学河原崎研究室で研究開発された音声認識システムJulius(ユリウス)が、衆議院の会議録作成に採用された(2011年)。国の議会の会議録作成に音声認識システムが導入されるのは、当時世界初だった。

インターネットを利用している感覚障がい者が感じる情報格差

インターネットで情報収集をしている障がい者の方は実に多い。視覚障害、聴覚障害を持っている方の約9割 が「インターネットを利用している」 と答えている。

ただ困ることも多く例えば日経BP「障害者のインターネット利用実態調査2015(視覚障害者)」では、全盲の方の 94% が次のように答えている。

「PDFファイルが、スクリーンリーダーで読み上げられなくて困った」

PDFファイルであっても技術的にきちんと作成していれば、本来であれば情報としてとらえることができるはずなのだが、何らかの要因で情報格差が起きてしまっている例だ。

情報保障という考え方

情報保障とは、これまで書いてきたように身体的なハンディキャップ等により情報を収集することができないかたに、さまざまな代替手段を用いて情報を提供することとされている。点字ブロックや介助犬、光や振動で知らせるチャイムや音声認識システム、“同行援護”制度(付き添い・介助人)は不足する情報を代替手段で補うものがそれだ。

ただ情報保障を受けるのは感覚障がい者のような特定の人々というイメージがあるが、必ずしもそうではない。

国際会議などで語学的バリアがあれば、同時通訳を受けるだろう。また病院で高齢者が方言を使っているが、医師がその土地の出身地ではなく完全に理解できないとなると地元生まれの看護師のサポートを受けて、患者さんの方言を通訳してもらうこともあるだろう。

外出先のスマートフォンユーザーが調べたページが、音声での案内がメインだったので人が周囲にいる場所や静かな場所では音が鳴らせずに情報が得られないということもあるだろう。

また日本に住んではいるものの日本語を母国語をしない人たちが、もし「災害・緊急情報」を得ようとしてその地域の公的機関のウェブサイトをみた時、次のようなトップページだったらどこを見たらよいだろうか。

「ウェブアクセシビリティ」とは

昨日のnote"ウェブアクセシビリティは辞書に載ってるのかな?調査"では、

ウェブアクセシビリティ[Web accessibility]とは、Webという言葉がアクセシビリティの前についているようにウェブサイトの使いやすさ、目的の達成のしやすさ。

と書いた。

だが、こういう言い方も追加できるのではないだろうか。

ウェブアクセシビリティとは、障がい者や高齢者のためだけではない。当事者以外が感じていない、巷にある大小さまざまな障壁をもフォローして、障がい者や高齢者も含めてウェブ上の「情報保障」をし情報障がい者を減らすこと。

英国のコンピューター技術者で計算機科学者で、約20年前、WWW(World Wide Web)の仕組みを考案し、こんにちのインターネットの基礎を築いたティモシー・ジョン・バーナーズ=リーは次のように言っている。

“The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.”

Webのもつ力とは、そのユニバーサル性にある。つまり、障害の有無にかかわらず、誰もがアクセスできることこそが、Webの本質的な側面のひとつである。

この言葉にあるWebの持つ力を有効に活用し、誰にとってもアクセシブルにするのに必要なものは、情報保障のための技術と情報障がい者への理解と達成への熱意だと思う。

(了)

ヘッダー写真 撮影地 ニュージーランド ジャクソンベイ ©moya





最後までご覧いただきありがとうございます! 現在放送大学でPDFのアクセシビリティを卒業研究中。noteはそのメモを兼ねてます。ヘッダー写真はnzで私が撮影しました。 【ご寄付のお願い】有料noteの売上やサポートはnzクライストチャーチ地震の復興支援に使わせて頂いております。