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アメリカ ルート66を巡る旅 07 オクラホマ州 東部

カンザス州バクスタースプリングスを抜けると州道69号線がかつてのルート66です。何もない真っ平らな大地を一本の舗装路がひたすら伸びていて、途中にはたまに集落がありますが、それは街と呼ぶにはあまりに小さすぎ、店舗もほとんどなく、「グレートプレーンズ」と呼ばれるただただ広い草原が続いていきます。

オクラホマ州の旧ルート66

ルート66を旅する人のほとんどは、  Catoosaまでは州間高速44号線を利用してしまいます。それほど旧ルート66には何もありません。そんな平原を走るところからオクラホマ州は始まります。

今回はカンザス州バクスタースプリングスをでてすぐのカンザス州/オクラホマ州の州境からオクラホマシティまでの330kmを紹介します。車で3時間45分の距離です。

オクラホマ州に入ると、視界はひらけます。かなり遠くまで草原が広がっています。そして地平線がぐるっと360度見えるようになります。次の目的地カトゥーサまでは高速道路を使ってショートカットする方がほとんどだと思いますが、あえて旧道ルート66を走ってみるのも面白いです。何度か道を曲がる必要がありますが、基本的にはとてもわかりやすいルートです。このあたりはグレートプレーンズの東側です。基本的に大地は乾燥し作物は育ちません。イリノイ州で見たような延々と麦畑やトウモロコシ畑が続いているわけではなく、農作に向いていない土地なんだなということがわかります。それでも小さな集落が点々と存在していて、そこでは農耕が小規模に行われているのです。そんなオクラホマらしい景色を見ながらのドライブも思い出に残ります。

*コラム:オクラホマ州*
オクラホマ州には世界最大の牧畜取引所があります。この州ではそれほどたくさんの牛や豚を飼育しているのです。そしてアメリカのネイティブであるインディアン達が沢山住んでいる州でもあります。彼らは自分たちの土地を奪われ迫害され、この地にやってきました。インディアンの辛い歴史を説明すると長くなるので割愛しますが、車で走ると、それまで白人しかいなかったイリノイ、ミズーリ、カンザスとは異なり、日本人に似たネイティブ・アメリカンと出会うことができます。ネイティブ・アメリカンにはカジノを運営する許可が出されているので、この辺りを旅していると突然ネオンがギラギラしたカジノに出会います。かつては先住民が運営していましたが、彼らにはビジネスセンスがなく赤字に陥り、そのおおくがアメリカ資本に買収されてしまっています。
オクラホマ州を旅して感じるのは、西部劇映画の世界に近いこと。家畜をシカゴに運搬することによって成り立つ「家畜の産業化の中心」であることが至ることろでみることができます。そしてネイティブ・アメリカンや黒人迫害の歴史です。アメリカの歴史を学ぶと避けて通ることのできない西部開拓と人種差別。こんなのどかな土地で起こった白人による人の欲による行為とのミスマッチを感じながら旅をすることになります。デカプリオ、デニーロ出演の映画「キラー・オブ・ザ・フラワームーン」は、オクラホマ州オーセージで起こった事件を描いていますので、この辺りを旅する方は事前にご覧になると良いでしょう。

<Blue Whale>
オクラホマに入り2時間弱ルート66を走ると、Tulsaという大きな街があります。その手前にあるCatoosaには必ず立ち寄ってください。カトゥーサという街には何もありませんが、そこに面白いアトラクション「ブルー・ホエール」があります。ルート66関連の書籍やウェブサイトには必ず出てくる大きな鯨です。私もルート66の旅の中で一番楽しみにしていたスポットのひとつです。小さな池にあるクジラ、これは、かつてこの近くに住んでいた個人が自分の子供のために作った遊技物です。おおきなクジラは口の部分が陸地に接続しており、口の部分から尻尾にかけてデッキとなっています。ヒレの部分は滑り台となっており、中から池に滑り降りることができます。尻尾の手前には階段が付いていて、そこからも池に入れます。尻尾の上と頭の部分には子供が上れるようになっています。要は子供のためのプールにある滑り台のような遊技物なのです。
このブルー・ホエール、設置時におおくの人が使いたくなったようで、直ぐに有料で営業を開始したそうです。それに伴い入り口にはゲートが設けられ、トイレやピクニックエリアせが併設されました。80年代に営業が中止されるまでは、このあたりの夏の楽しみになっていたそうです。
営業が中止され放置されていたクジラくんは、その後、地元民によってメンテナンスが行われています。

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ルート66で有名な立ち寄りポイント

<Greenwood Hist. District, Tulsa>
カトゥーサを通り過ぎると、オクラホマ州第2の都市、タルサが現れます。高層ビルもある大きな街です。シカゴからルート66を走ってくると、おそらくシカゴ、セントルイスに次ぐ大きな街ではないでしょうか。タルサに入るとルート66は、11th St.となります。現在の11th St.がかつての旧道ですが、大きな街なので、古き良きアメリカのイメージは既に破壊され新しい建物になってしまっているのが残念です。この街にはグリーンウッド歴史地区として古いタルサが保存されています。ここを見て回るとルート66が全盛だった頃の雰囲気を感じることができます。

*コラム:歴史に登場するタルサ*
タルサという街は日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカ史には時々登場します。かつて公民権運動で黒人に権利が与えられた頃、この町では黒人たちが努力をして富裕層が生まれました。黒人たちはビジネスを起こし高収入を得て優雅な住宅街が形成されました。しかし1921年、これを不満に思った白人至上主義者たちにより町ごと放火され多数の犠牲者が出ました。この事件はその後80年間も隠蔽されていました。現在はアメリカの黒歴史として語り継がれています。この事件はドラマ「ウォッチメン」でも描かれています。
この隠蔽された歴史、やっと最近になりアメリカ史に記録されるようになりました。バイデン大統領は、正式に謝罪し、当時の人種差別を認めたのです。
タルサはS.E.ヒントンの小説「アウトサイダー」「ランブルフィッシュ」の舞台でもあります。この2作はフランシス・コッポラが映画化しているのでご存知の方も多いのではないでしょうか。現在活躍するハリウッド俳優が多数出演する作品となっていて、撮影もタルサで行われています。
タルサを訪れる前に、アメリカの歴史や小説、映画を知っておくとよりこの街を知ることができるでしょう。

<Rock Cafe>
タルサからオクラホマ州最大の都市、オクラホマ・シティまでの間は、田舎の景色が2時間以上続きます。イリノイ州はひたすらトウモロコシ畑でしたが、このあたりはひたすら牧場です。沢山の牛が放牧されています。意外と牛の種類が多彩で驚きました。時々馬の牧場もありました。そんなのどかな風景を見ながら走っているとStroudという街に入ります。そこにロック・カフェがあります。
このあたりから景色が一変します。相変わらず土地は平らなのですが土の色が変わるのです。辺り一面とにかく赤いのです。
そして街の建物も赤くなります。おそらく地元の土を練り込んだ壁材を使っているのでしょう。石作りの建物も赤いのです。ロック・カフェは、そんな建物のひとつです。建てられてからかなりの年月が経っているので色は変化していますが、この色の建物はこのあたりからアリゾナ州あたりまで頻繁に目にすることになります。
カフェ自体は地元民で賑わっています。街にはそれほど人が住んでいないようなのですが、店は満員です。かなり遠くの農場から時間をかけてここのカフェに集っているのだと思います。
このカフェの周辺にはいくつかのルート66グッズの店もありました。

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赤い大地と赤い建物が増えてきます

<Phillips 66 Station>
ルート66沿いにはフィリップス66という名前のガソリンスタンドが沢山あります。そのうち半数近くは現在も営業中、残りの半数は営業を止めてから長い年月が経っているうち捨てられたスタンドです。現在、ルート66を旅する旅行者にとってフィリップス66は、ガソリンを入れトイレに行く休憩ポイントであり、古き良きアメリカのイメージを残したまま時間の流れに取り残された撮影ポイントでもあります。後者の典型がChandlerにもあります。ポンプ式の機会には、大きなガラスの瓶があり、そこにピンク色のガソリンがたまります。瓶に付いているメモリでガソリンの量をはかり車に流し込んだのです。その時代に生きたわけではありませんが懐かしくなるスタンドです。

<Round Barn>
チャンドラーから1時間ほど走って、大都市オクラホマ・シティの手前にある最後のとても小さな街、Arcadia。ここにラウンド・バーンがあります。丸い納屋なのですが、何故丸いかはわからないそうです。一説には竜巻に強いからだそうですが、とても見事なアールをした大きな納屋でした。この納屋、かなりの数があったそうですが近代的な鉄骨製の納屋が増え、殆どが壊され、最後に残ったこの納屋も手入れせず放置されていたそうです。しかし近年ルート66復興の動きがあり、観光客が訪れるようになったことで、地元の人たちがレストアし、現在はかつての美しい姿に戻ったそうです。
夕日を浴びたラウンド・バーンはとても美しくいつまでも見ていたい景色でした。

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ラウンド・バーン

Hillbillys
ラウンド・バーンの向かいにとても美味しいハンバーガーやさんがあるとある本で読み、今回の旅行でとても楽しみにしていました。しかし、どうやらクローズしてしまったようです。とても残念でした。この辺りでヒルビリーズが再オープンしている情報がありましたら、是非教えて欲しいです。本にはルート66で一番美味しいレストランと記されていました。

*コラム:グレートプレーンズ*
カンザス州からニューメキシコ州あたりまでをグレートプレーンズと呼びます。ほぼ平らな草原が広がっています。この地は平なので農耕に向いているように思いますが、実際はそうではありません。長い間、この地は誰も入植していませんでした。理由は乾燥した気候にあります。南から吹く風は、メキシコ湾の湿った空気を東のミシシッピ川沿いに北に運びます。グレートプレーンズには雨雲がやってこないのです。太平洋側からの風はロッキー山脈に阻まれます。こうなると降水量が少なく、川もあまり存在しない乾燥した平地がひたすらあるだけです。東海岸に入植したヨーロッパからの移民もこの地には価値を見出せませんでした。ネイティブ・アメリカンもこの辺りには住みつかなかったそうです。
西武開拓が始まっても、なかなか定住者が増えず、灌漑が始まり少しずつ牧畜や農業を行う人が増えてきたそうです。それでも過酷な気候なので、今も寂しくて乾燥した平野が延々と続いています。

<POPs>
アルカディアのルート66上に突然近代的な建物が見えてきます。これはレストラン、ショップを含むガソリンスタンド「POPs」です。大きなボトルの形をしたモニュメントは夜になると美しくライトアップされます。この建物、当然ここ数年で建てられた新しいものですが、今やルート66の新しいモニュメントとして定着しています。この店、結構がんばっていて、ガソリンスタンドのポンプは、昔懐かしい形をしていますが実は最新式、ショップでは400を越えるボトルに入ったジュースを販売しています。全米から集めた様々なタイプのボトルは壮観です。そして全てのドリンクを購入することができます。レストランはダイナー風で、ボトルジュースとハンバーガーが人気です。アルカディアの人口は279人です。でもPOPsには沢山の人が押し寄せてきています。それも若者ばかりです。たぶんこの先にあるオクラホマ・シティに住んでいる若者にとってちょうど良いデートスポットなのでしょう。人気のない場所に忽然と建っている巨大建築物、周囲には人気のないのに満員のレストラン、なんだか不思議な光景でした。

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夜はどこからか若者が押し寄せていました

さて、次回は大都市オクラホマ・シティを通過し、次の州テキサスとの州境までを記そうと思います。オクラホマを過ぎると、一気に寂しくなります。今までの旅ではどんな田舎でも人を感じましたが、オクラホマ州の西部は人の気配はあまり感じず、惑星の存在感、宇宙との近さを痛感することになります。景色も一変していきます。日本人でもあまり訪れない地域です。
次回をどうぞお楽しみに!     


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