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童話「こうもりバティの夢」

 すべてを明るくてらしていた陽がしずみ、ここ、海のまん中にうかぶ小さな小さな島にも、夜がやってきました。
 昼間はねていて、これから目をさますのが、こうもりです。
「あー、よくねた。さあ、今夜もいろんなところへ行ってみよう!」
木の枝にさかさまにぶらさがっていたこうもりの子どもバティは、たたんでいたつばさをぱっとひろげて、くらい夜空へはばたいていきました。

 バティは黒いかげが空の雲のようにもりあがった森の前にきました。
「このおくは、いったいどうなってるんだろう」
バティは森の中へはいっていきました。
 しばらくいくと、くらやみの中に、まっ白なものがいるのが見えました。
バティが近づくと、枝の上にいたそのまっ白なものは、いきなり、くるり、と二つのまあるい目をむけてきました。
「わっ、生きてる・・・!」
「しつれいな!おまえは、だれじゃ」
「ぼ、ぼくは、こうもりのバティ」
「このふくろうさまを知らないこうもりの子どもが、この森になにしにきた」
「ふくろうさま・・・。あの、この森のおくは、どうなっているのかなって」
「どうなっているのかな・・・?そうか、お前は世界のいろんなことが知りたいんじゃな」
「はい、いろんなことが、知りたいです!」
「しかし、こうもりは夜の生きもの」
「はい、昼間はぐっすりねています」
「その、おまえがぐっすりねている昼間には、
おまえの知らないすごい世界がもっともっと広がっている」
「そうなんだ!ふくろうさま、そのすごい世界の中でも、一番すごいのは、なんですか?」
「一番、か・・・。うむ!一番は、青空をかけめぐる、ものすごく美しい、リュウだ!」
「青空をかけめぐる、ものすごく美しい、リュウ・・・!?見たい!」
「だが、昼間でも、リュウはめったにあらわれないんじゃ」
そういうと、まっ白なふくろうは大きなはねをひろげ、音もたてずに森のおくの、もっとおくへととんでいきました。

 それからというもの、くる夜もくる夜も、バティは美しいリュウのことばかり考えていました。
「見たい、見たい、見たい!ものすごく美しいリュウが、見てみたい!」
 バティは夢を見ました。いつもはねむりについている昼間に、ものすごく美しいリュウを見に行く夢です。
でもバティがとんでいる空はどこまでいっても白い雲ばかりで、美しいリュウどころか、バティのほかにはなにもとんでいませんでした。

 ある夜あけ、バティはあたまの中がリュウのことでいっぱいになり、
ねむりにつけなくなりました。
「よし、こうなったら、このまま昼間の世界に行ってみよう!」
そうきめたバティは、たたんでいたつばさをぱっとひろげて、明るくなりだした空へ、はばたいていきました。

 「太陽がまぶしい!それに、空がこんなに青いなんて!」
バティは昼間の世界の明るさにおどろきながら、島のあちこちをとびまわりました。すると森の上の青空に、美しいオレンジ色のちいさなはねがひらひらしているのが見えました。バティは近づいて声をかけました。
「やあ、きみはとてもきれいだね!」
「あなたは?」
「ぼくはこうもりのバティ。いつもは夜の世界にいる」
「そうなの。じゃ、今はどうして?」
「昼間の世界には、青空をかけめぐる、ものすごく美しいリュウがいるってきいたんだ。オレンジ色のはねがきれいなきみは、リュウ?」
「ちがうわ。わたしはちょうのモナよ。リュウって知らないけど・・・、
そうだ、谷のほうにとっても美しい鳥さんがいるわよ」
「とっても美しい?ありがとう!」
バティはちょうのモナにおれいをいって、ひらりとつばさをかえし、谷のほうへむかいました。

 バティが谷につくと、キューヒー、チュッチュッチュッとなきごえがきこえました。すると、まっ赤な鳥が、ぱたぱたと青空にとびたっていくのが見えました。バティはあわててあとをおい、声をかけました。
「やあ、きみはなんて美しいんだ!」
「あなたは?」
「僕はこうもりのバティ。いつも夜の世界にいる」
「そうなの。じゃ、今はどうして?」
「昼間の世界には、青空をかけめぐる、ものすごく美しいリュウがいるってきいたんだ。まっ赤な色が美しいきみは、リュウ?」
「ちがうわ。わたしは鳥のパネーラよ。
リュウって知らないけど、ものすごく、美しい・・・?
そうだ、がけのほうの海に行けば、会えるかもしれない」
「会えるかも、しれない?ありがとう!」
バティは鳥のパネーラにおれいをいって、ひらりとつばさをかえし、がけのほうへむかいました。

 バティががけにつくと、その前には、青い海がどこまでもひろがっていました。
「わあ、これが、昼間の海かあ!」
海の上をとびまわっていたバティは、空の上から大きなかげがむかってくるのにきづきました。
「うわ、なんだ!?」
それはくちばしがするどくとがった大きなタカでした。
「見たことがないやつだな。まあいい、つかまえてやる!」
「うわーっ!」
バティはタカからにげようと、ひっしにはばたきました。

 そのとき、とつぜん下からものすごいいきおいで、海の水がふきあがってきました!
ぶしゅーっ!
「うわっ!」
タカはその海の水にあたりそうになり、あわててよけて、空のむこうにとんでいってしまいました。バティが下を見ると、とんでもなく大きな生きものが、海の上にとびだしてきました!
ざっばあぁぁぁーっ!
青空までとびあがったとんでもなく大きな生きものは、その黒い目でバティを見ていいました。
「きみは?」
「ぼ、ぼくはこうもりのバティ。いつもは夜の世界にいる」
「夜の世界か。じゃ、今はどうして?」
「昼間の世界には、青空をかけめぐる、ものすごく美しいリュウがいるってきいたんだ。ひょっとして、きみは、そのリュウ?」
「ちがうよ、ぼくはくじらのハンプさ」
くじらのハンプは、そのとんでもなく大きなからだを空の上でぐいーんとひねり、海へとびこんでいきました!
どっばあぁぁぁーっ!
「うわあ!」
とんでもなく大きな水しぶきがあがり、のみこまれそうになったバティは、
ひっしにはばたいて、空に上がっていきました。


 バティが島へもどってくると、青空はきゅうにはい色の雲でおおわれてきました。すると、おおつぶの雨がざーっとふりだしました。
「やれやれ、こんどは水しぶきじゃなくて雨か」
バティはいそいで大きな木を見つけて葉っぱの下にはいり、さかさまにぶらさがって雨やどりをしました。
「これじゃあ、青空をかけめぐる、ものすごく美しいリュウには、会えないなあ」

 しばらくしてはげしい雨がやみ、葉っぱのあいだに、まぶしい陽の光がさしこんできました。
「やっと、はれた!」
バティがたたんでいたつばさをぱっとひろげてはばたき、葉っぱのそとへでました。
すると、なんと・・・!
雨あがりのはれわたった青空に、赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫と7色の美しいおびが、大きな、大きな、大きなカーブをえがいて、かかっているではありませんか!
「うわあ・・・!こ、これは・・・!青空をかけめぐる、ものすごく美しい、リュウだ・・・!」
 バティが見とれていると、なんだかきゅうに、まぶたが落ちてきました。
「ものすごく・・・、美しい・・・、リュウ・・・」
リュウをずっと見ていたいバティは、なんとかがんばろうとしましたが、
バティのまぶたは、すっかり、とじて、しまいました・・・。


 目がさめると、あたりはまっくら、夜の世界でした。バティは、知らないうちに、木の枝にさかさまにぶらさがっていました。バティはいっしゅん、夢を見ていたのかと思いました。でも、バティがくびをふり、いきをふう、とはくと・・・、頭の中に、青空をかけめぐる、ものすごく美しいリュウが、あざやかにうかんできました!
「夢じゃない、ぼくは、青空をかけめぐる、ものすごく美しいリュウをほんとに見たんだ!夢が、かなったんだ!」
 バティはにっこりほほえんで、たたんでいたつばさをぱっとひろげ、いつもの夜空へはばたいていきました。   

                      (おわり)                    
                                    
                                          

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