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童話「こぶのすけ、うみをいく」

 ここは、どこまでもあおくすんだ、みなみのうみ——。
にょきにょきとはえたさんごのあいだからかおをだしたのは、ちいさなイカのコブシメです。
 コブシメのなまえは、こぶのすけ。
 こぶのすけが、からだのまわりのひれをひらひらさせておよいでいくと、まわりをいろんないろやかたちをしたさかなたちが、おもいおもいによぎっていきます。

「だれかと、ともだちになりたいな」

こぶのすけがそういいながらあたりをみると、かいそうをはさみでとってたべているちいさなカニが目にとまりました。
こぶのすけはカニにちかづいてはなしかけました。

「カニさん、カニさん、ぼくとともだちになって!」

カニはこぶのすけのこえにきづき、ふりむきました。

「うわっ、コブシメだ!」

カニはこぶのすけをみるなり、かいそうをほうりだしてよこにちょこちょことはしりだし、いわのあいだにかくれてしまいました。

「カニさん、どうしてにげるんだろう・・・」

 「たべられちゃうからな、そりゃあ、にげるさ」

こえのしたほうをむくと、そこにははっぽんのあしをひろげてすなにねそべっているタコがいました。こぶのすけはタコにききます。

「たべられちゃう?」

タコはおおきなあたまをひきずるようにしてもちあげ、こぶのすけをみていいました。

「そう、きみに、たべられちゃう。きみはコブシメなんだろ?」

「そう!ぼくのなまえはこぶのすけ!タコさん、タコさん、ぼくとともだちになって!」

タコはつつのような口をつきだしてわらいながらいいました。

「ははは、わかってる?きみはイカのコブシメで、ぼくはタコだよ。イカとタコがともだちになれるわけがない」

 そのとき、むこうから、ながいまえあしをばおおきくかいてウミガメがやってきました。タコはあわてておきあがりました。

「うわっ、ウミガメだ!」

「どうしてにげるの? ぼくはウミガメさんとおはなしがしたい」

「なにいってんだ、あいつがはらをすかせていたら、ぱくぱくたべられちゃうぞ!」

まっくろい目をしたウミガメが、こぶのすけをみてぐんとちかづき、さきのとがった口をおおきくあけました。

「ちいさいけど、まあいいか。いただきます!」

するとタコがつつのような口をおもいきりつきだし、まっくろなスミをはきました!

「いまのうちだ、にげろ!」

スミでまわりはまっくろになり、タコのこえだけがきこえます。
こぶのすけはなにもみえないなかを、とにかくけんめいにおよぎました・・・。

 やっとのことでスミからぬけでて、こぶのすけはあたりをみました。そこにはもう、ウミガメもタコもいませんでした。


 こぶのすけがおよいでいると、うしろからおおきなまるいかたまりがやってきました。
よくみると、それはちいさなグルクンがたくさんあつまったむれでした。
こぶのすけはむれのなかのいっぴきのグルクンにはなしかけます。
「グルクンさん、ぼくは、こぶのすけ!ぼくとともだちになって!」

グルクンは、こまったかおでいいました。

「わたしたち、みんなでこうやっていっしょにいないといけないから・・・」

 そのとき、うしろのほうのグルクンがおおごえをだしました。

「マグロがやってきた!みんな、いくぞ!」

グルクンのむれはいっせいにおよぐはやさをあげました。

「あなたもなかにはいって!」

グルクンにいわれたこぶのすけは、むれのなかにはいっておよぎだしました。うしろをみると、ぎんいろにひかるおおきなマグロが、ものすごいはやさでやってきます!

「ごちそうがいっぱいだ、うまそーっ!」

そうさけんだぎんぴかのマグロは、あっというまにグルクンのむれのなかにとびこんできました!グルクンのむれがばっとふたつにわれたところに、こぶのすけだけがとりのこされました。
ばしっ!
こぶのすけは、ものすごいはやさでとおりすぎるぎんぴかのマグロのおおきなおびれにあたって、おもいっきりはじきとばされてしまいました!

「うわあぁぁっ・・・!」


 きをうしなっていたこぶのすけが、しばらくしてきがつくと、あたりにはグルクンのむれもぎんぴかのマグロもいなくなっていました。

 まだあたまがふらふらしながらこぶのすけがおよいでいると、むこうからとってもおおきな、ひしがたをしたひらべったいものがやってきました。それはマンタでした。こぶのすけがマンタにこえをかけました。

「マンタさん、マンタさん、ぼくは、こぶのすけ!ぼくとともだちになって!」
マンタはひらべったいあたまのよこのつぶらなひとみで、こぶのすけをちらりとみていいました。

「なにいってるの、それよりはやくここからどこかへいって!もうすぐジンさまがくる!」

「ジンさま?」

「そう!はやくしないとジンさまにのみこまれちゃうわよ!」

 そういってマンタがいってしまうと、むこうから、マンタよりもおおきなおおきな、とんでもなくおおきなものが、ゆったりとやってきました!せなかにしろいはんてんをいっぱいつけた、ジンベイザメのジンさまです!そのあまりのおおきさにこぶのすけがあっけにとられていると、ジンさまがかおのはじからはじまでよこにひろがっている口を、ゆっくりとあけはじめました。
そのとき、こぶのすけをよぶこえがしました。

「のみこまれちゃうぞ、にげるんだ!いそげ!」

そういってよこからこぶのすけのからだをおしてきたのは、こぶのすけよりからだがひとまわりおおきなコブシメでした。こぶのすけはいわれるままにあわてておよぎだしました。
ジンさまは、よこにひろがっている口をおおきくおおきく、とってもおおきくあけて、うみのみずをのみはじめました!
ごっ、ごっ、ごぉーっ!
ジンさまのくちのなかには、うみのみずといっしょにちいさなえびやさかながいっぱいいっぱい
すいこまれていきました・・・。


 こぶのすけは、おおきなコブシメのおかげでたすかりました。

「たすけてくれて、ありがとう!ぼく、こぶのすけ!」

「おれのなまえは、こぶまる」

「こぶまるくん、ぼくとともだちになって!」

「いいよ」

こぶのすけにやっとともだちができました。
そのとき、とつぜんこぶまるがうえをみておおごえをだしました!

「あぶない!」

こぶのすけはこぶまるのあしにつきとばされました。と、どうじに、こぶのすけとこぶまるのあいだのすなに、さきのとがったながいやりがつきささりました!
ずさっ!

「にげろ、こぶのすけ!」

こぶまるのこえはまにあいませんでした。こぶのすけはうえからのびてきた手にぎゅっとつかまえられました!

「こぶまるくーん・・・!」

こぶのすけはじゅっぽんのあしをばたばたさせながらうえへうえへとあがっていきました・・・。

 うみのうえにすいちゅうめがねをしたちいさな子どもがかおをだしました。そこにはふねがいっそううかんでいて、あたまにてぬぐいをまいたおとうさんがのっていました。子どもはめがねをはずし手にしたこぶのすけをあげて、おとうさんにみせました。

「つかまえた!」

おとうさんは、子どもの手のなかのこぶのすけをみて、くびをよこにふりました。

「まだちいさい。はなしてやれ」

子どもはちょっとざんねんそうなかおをしましたが、すぐにうなずいて、めがねをしてまたうみへもぐりました。

 うみのなか、ちいさな子どもは手にしたこぶのすけをみました。
こぶのすけも子どもの目をじっとみました。
くろくすんだその目には、こぶのすけがうつっていました。
すると、こぶのすけに、子どものこころのこえがきこえました。

「まだ、ちいさいって」
こぶのすけもこころのこえを子どもにかえしました。

「きみもね」

子どもがちょっとおどろいて、くろい目をかがやかせ、こぶのすけをみつめました。
子どもはこぶのすけをつかんでいた手をゆっくりとひらきます。
こぶのすけはおよぎはじめ、子どもからはなれていきました・・・。

 こぶのすけがおよいでいくと、こぶまるがすごいいきおいでやってきました。

「こぶのすけ!たすかってよかった!」

こぶのすけが、こぶまるにききます。

「うみのうえにつれてかれたら、おおきいおとながいて、ぼくをみてまだちいさいからはなしてやれって子どもにいった。こぶまるくん、いったいあのいきものは、なに?」

「あれはうみのうえのいきものだ」

こぶのすけがすこしかんがえて、またこぶまるにききました。

「あの子とまたあえたら、ともだちに、なれるかな?」

こぶまるはゆっくりかおをよこにふりました。

「こわいやつらだ。へたをしたら、さされていた」

こぶのすけは、子どものくろくかがやいた目をおもいだしながら、うえをみあげていいました。

「そうだけど・・・。なれるかも、しれないよ」

こぶまるがながいあしをのばし、うみのむこうのほうをさして、こぶのすけにいいました。

「いいか、こぶのすけ。うみはひろくておおきくて、なにがおきるかわからない。だからおれたちは、これからふたりでちからをあわせていくんだ」
「わかった!」

 こぶのすけは目をかがやかせて、こぶまるといっしょにおよぎだします。
どこまでもひろく、どこまでもおおきなうみにむかって――。

                                                               (つづく)


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