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『関係の終末』は「あの地獄」の始まりに過ぎなかったのか④-1


ヨンキ作のWebコミック『他人は地獄だ』とその関連作である『関係の終末』。今回は、2作品を横断する形で深ぼり&考察の第4弾です!今回は、『関係の終末』を中心に、主人公マサルの内面を掘り下げていきたいと思います。

ネタバレがありますので、作品を純粋に楽しみたいという方は後ほどお会いしましょう!

『関係の終末』でのマサルの心情の変化

『他人は地獄だ』の前日譚である『関係の終末』では、冒頭から一貫してマサルのモノローグのような視点で描かれています。『他人は地獄だ』とは少し違う、主人公の内面を奥深くえぐるような描写が印象的です。

彼女と旅行に来た青年マサルがどのように凄惨な事件に巻き込まれていったのかを、マサルの内面の動きを踏まえてまとめてみました。

惨劇の夜まで

休みを利用して、二泊三日の旅行に出かけたマサルとユイ。マサルは彼女のユイにこの旅行でプロポーズすることを心に決めていました。
なのに、学生時代にいじめに遭っていたグループと遭遇してしまったマサル。

時を同じくして、ハシラとおばちゃんも何の因果か、同じ民宿に泊まっていました。それに加えて、民宿のオーナーはとても態度が悪くマサルもユイも不愉快な気分になりイライラがつのります。

それでも、二人だけのバーベキューが始まれば楽しく和やかな時間が流れました。しかし、不穏な空気は二人を徐々に覆い始め、逃れられないところまで来ていたのです。暗闇から二人を見つめる不気味な影も現れ…

惨劇の夜の前夜のことです。

・マサルの「未来」を阻む「過去」

学生時代の凄惨ないじめの記憶を振り払うべく、マサルは身体を鍛え仕事にも励みます。ユイという彼女もでき、やがては彼女とずっと一緒にいたいと思うまでになりました。

あの民宿での事件の前、ユイは嬉しそうに旅行の準備や手配を進めていました。はしゃぐユイを愛おしそうに見つめるマサル。その姿を見て、マサルはプロポーズを決意します。

「過去」に辛いことがあったとしても、今一緒に居るこの人と二人の幸せな「未来」を作りたい、幸せになるんだ!そういう前向きな気持ちに包まれていたというのに、運命は残酷です。

それなのに出会ってしまうんですよね、そんな時に、例のグループに。

サービスエリアでタツヤを見かけた時、こみ上げる嗚咽と吐き気を押さえることができなかったマサル。この旅行で、ユイにプロポーズをして、二人で幸せになるんだ、それがあいつらへの一番の復讐なんだと思っていたはずなのに…

・幻影までもがマサルの未来を妨害する

民宿に向かう途中、民宿に訪れてからもずっと、マサルは幻影に苦しめられています。それは、タツヤ達が過去に自分にした酷い仕打ちなのか、それとも自分の内なる声なのか。

宿泊している部屋で悪夢に目覚めると、人影が見えたり…
でもそれは悪夢だとユイに起こされて気づくなど、マサルはこの旅行中に何重にも幻影に苦しめられています。

・ハシラに見つかってしまったマサル

ハシラが最初マサルのことを見たのは、二人がバーベキューをしている夜のことでした。ユイがトイレに行くと言って席を外した際、しばらくして木々や草むらの中に人影を見つけたマサル。

不気味に思って正体を確かめるべく近寄りますが、怪しげな人影は走り去っていきました。
もう、皆分かっているでしょうが、この時の人影はハシラです。

惨劇の夜も、マサルとタツヤグループとのバーベキュー大会を見ていたハシラ。部屋に戻って、「とても興味深いものを見たよ」とおばちゃんに言っていましたね…

惨劇の夜

・悪夢の再会

民宿に向かう途中立ち寄ったサービスエリアで、マサルはタツヤ達グループを見かけ、フラッシュバックに苦しんでいました。しかし、タツヤ達は全く気付かず、その時は何事もなかったかのように時が過ぎたのです。

しかし、その時感じた悪い予感は的中し、マサル達が遊んでいた川辺に爆音を鳴り響かせたタツヤ達グループの車がやってきてしまうのです。グループの人間は、マサルのことが分からず最初は腰低く声を掛けました。

そこで適当なことを言って逃げればいいものを、立ち向かってしまうんですよ、マサルは。不自然なまでにグループの人間たちに受け答えし、まるで気づいてほしいかのような素振りを見せます。

そして、グループの一人が「お前、サルか?」と気づいてしまったのでした。

・自分の「過去」に囚われるマサル

再会の時点ですでに置いてけぼりになってしまっているユイですが、マサルと彼らは旧友だと聞かされ、さらに不信感が募った様子です。そんなユイをしり目に、無神経にもなつかしアピールや昔話を始めるタツヤグループ。

「ムキムキになって…見違えた!」というようなことをうれしそうに語る連中。マサルはなぜかまんざらでもなさそう。そしてタツヤの反応をうかがいますが、タツヤは思い出したのかどうかよくわからないような反応でした。そこで、残念そうな寂しそうな表情をするマサル…

どっちやねん!!

悪夢の再会から一貫してマサルは、「過去」に囚われ続けその葛藤に苦しみ続けるのです。

・そして地獄は始まった

最愛の彼女ユイとの記念すべき旅行になるはずだった場で、この世で一番会いたくない人間たちに出会い、克服できないでいる「過去」にがんじがらめになってしまったマサル。

タツヤ達グループがへらへらと愛想よく近づき、やれ民宿を教えてほしいだの、彼女さん(ユイ)と一緒にバーべキューをしたいだのと言っても、ハラハラしているユイのことを無視して、快く教えて、OKしてしまうのです。

そして、マサル達が宿泊している民宿でタツヤ達グループとマサル&ユイのバーベキューパーティーが開催されることになってしまったのです。彼女のユイはもちろんですが、多くの読者が「え??」と思ったであろうこのバーべーキューパーティー。

案の定、一つの民宿を舞台に恐ろしい事件が起こるきっかけとなってしまうのです。

『関係の終末』というタイトルの哀しさ

いじめグループのボス・タツヤとやりあっている時、マサルの頭の中では過去の辛い経験や記憶がフラッシュバックしています。自身が壮絶ないじめを受けていたシーンはもちろんですが、それと合わせて、タツヤが更生し、過去のことをひたすら謝ってくる映像も脳内再生されています。

生涯にわたって忘れることができないような、ひどいいじめを受けたというのに、マサルはその主犯格のタツヤの人間的な姿や良心を想像しているというのでしょうか…

タツヤの姿を偶然駅で見かけた時、激しいフラッシュバックに襲われ、嘔吐してしまったマサル。その後も恐怖と不安に囚われ、彼女のユイとの旅行を楽しめずにいました。

それなのに、タツヤ達と再会をした時、他人のフリをすればいいものを、自分から「マサル」であると告白してしまいます。

「もうあの頃の俺とは違う、大丈夫だ」と自分に言い聞かせながら、全く大丈夫じゃない方向に進んでいくマサル。惨劇の夜が始まった後にも、この自省は続き、「俺たちの関係はあまりに深い」とまで(心の中で)言っています。

果たして、マサルは「関係」を終わらせることができたのでしょうか。


『関係の終末』は「あの地獄」の始まりに過ぎなかったのか④-2では、さらに惨劇の夜に関する詳細や、ハシラとマサルの関係性について深堀していきたいと思います!


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