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母と子の絆は、地球を救う 国際医療福祉大学大学院教授 佐藤 香代さん

助産師や看護師を育てる立場、マザークラスのお母さんへの教育、また女性の生き方全般で「自ら答を出す力」を引き出すことに注力されている愛そのものでいらっしゃる佐藤香代さんにお話を伺いました。

佐藤香代さんプロフィール
出身地:福岡県
活動地域:全国
経歴:九州大学医学部附属病院 助産師
九州大学医療技術短期大学部 専攻科助産学特別専攻 助教授
九州大学大学院法学研究科修了:修士(法学)
Thames Valley University大学院 助産学研究科(英国)留学
/北里大学大学院看護学研究科博士課程修了:博士(看護学)/福岡県立大学 看護学部 学部長 大学院研究科長/福岡県看護協会 助産師職能理事/全国助産師教育協議会 副会長
現在の職業および活動:国際医療福祉大学 看護学部 母性看護学領域
/大学院 助産学分野 教授 福岡母性衛生学会 理事/フムフムネットワーク主宰
女性の一生の健康をサポートする研究を一貫して行っており、特に身体感覚に焦点を当てた女性の健康ケアモデルの開発と展開に関するものが中心である。中国、韓国、タイで東洋医学の研究を行うと共に、インドの東洋哲学・医学を学び、女性の健康に貢献するための研究を行っている。
1996年から福岡市で開催している「身体感覚活性化(世にも珍しい)マザークラス」は妊婦から絶大な支持を得ており、現在卒業生は700名を超える。さらに医療者向けセミナーも2005年から行っており、全国の医療者から好評を得ている。「性教育はからだの智慧を伝えること」を提唱し、性教育実践や女性の健康に関する講演を全国各地で精力的に行っている。

「あなたはミラクルで生まれてきた。だから生きなくちゃ!」

記者:多岐に渡ってご活躍されている佐藤さんの夢やビジョンを教えてください。

佐藤さん(以下敬称略):多岐にわたる活動と思われるかもしれませんが、私の中では1つでしかないんです。助産師として1000人の出産に立ち会い、たくさんの妊婦さん、赤ちゃんと接する中で感じたことを、多くの方に伝えたいという想いがあります。
健康の基本状態は、胎児期から乳児期に作られると言われています。その時期にどのように育てられたのか、愛情をかけられたかで健康のレベルが決まることになります。ですから人間の最も大切な時期に携わっているという自覚を持っています。健康の原点における愛情深いケアを通して、戦争がなく、皆が幸せに生きることができる社会を作りたいと思っています。
かつて私は勤めていた病院での退院時教育で赤ちゃんがどう生まれてくるのかや、命の大切さを伝えていました。しかし「そんな大事な話は産む前に聞きたかった。」と言われることが多く、マザークラスで伝えるようになりました。それから活動の範囲が広がり、今は幼児から高校生まで命の教育をしています。「あなたは沢山のミラクルを経て生まれてきた。だから生きなくてはいけない。生まれてきてくれてありがとう!生きていてくれてありがとう!」と伝えます。倫理や道徳ではなく、科学的に命のなりたちを伝えることで、生きることが腑に落ちていくのです。子どもたちが「自分は大切な人間なんだ。生きていかなきゃ。」と納得できる教育をしたいと思います。
また、更年期、老年期に「自分が生きている意味があるのか。」と落ち込まれる方もいます。「更年期は幸年期!」や「老いることは愉しいこと!」と角度を変えれば違った世界があることをお伝えします。
常識にとらわれず、自分がもともと持っている体の「力」を感じることが大事なんです。すべての赤ちゃんが大切に育てられ、すべてのお母さんが妊娠すること、産むこと、育てることを楽しいと思ってもらえる世の中を創りたいです。

記者:子育てが楽しいって思える事は本当に大事なことですよね!それを具現化するためにどんな目標計画を立てていらっしゃいますか?

佐藤:常識を疑わないようにしている今の教育は、変えていかねばならないと思っています。たとえば月経痛で多くの学生は当たり前のように薬を飲んでいます。薬の作用を知るとともに「月経はどうして起こるのか」、子宮や卵巣の仕組みから「なぜ痛みがあるのか」を考えることが大切なのです。固定概念を捨て、自分の体で感じたり考えたりすることが必要です
そして多様な選べる社会を創っていきたいですね。例えば自宅や助産院でお産をしたいという女性もいます。女性の働き方もしかりです。保育所を作るだけではなく、子どもを職場に連れて行って働くなど、それぞれの生活スタイルに合わせられたらいいですよね。
お母さんの選択肢を広げるためにも、しっかりとした哲学を持った助産師を育てることも私の中でつながってますね。

記者:佐藤さんのような助産師さんがたくさん増えたら子どもをワクワク産めるお母さんも増えるでしょうね!そんな佐藤さんが日常で大事にされてる事は何ですか?

佐藤:体の力を信じる。そして、指導しないということです。妊娠してあれを食べちゃダメこれをやっちゃダメと禁止されると、お母さんは脳疲労を起こし、ストレスが溜まります。やってはダメと言われることをやってみた時、自分の体や胎児はどう反応するのか、それを感じてもらうことを大切にしています。
たとえば19歳の女性が「世にも珍しいマザークラス」に参加した時のことです。彼女は妊娠前にファストフードが大好きだったんです。マザークラスの後にファストフードのお店に行くというのを止めずに送り出しました。翌週「どうだった?」と聞いたら「吐いた。」と答えたんですね。「妊娠前はおいしく食べていたのに、どうして吐いたんだろうね。」と聞いたら、そのお母さん自ら「赤ちゃんがいらないって言っているのかな。。。」と答えたんですね。つまり人間は「自ら答を出す力」を持っているんです。それに気づくように黒子としてサポートするのが助産師の仕事だと思っています。お産って頭で産むのではなく、体で産むんですよ。妊娠中に自分の体と対話していれば、ちゃんとお産ができるんです。
マザークラスではいろんな工夫をしてお母さんたちが納得がいくようにする技をみがいています。たとえば、これは赤ちゃんの胃の大きさを表したものなんです。(下の写真参照)

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これ(一番右のさくらんぼを指して)生後一日目の新生児の胃の大きさです。こんなに小さいんですよ。赤ちゃんはお乳を飲んでもすぐにお腹がすいて泣き出します。夜中にこれをやられたら、お母さんも一緒に泣きたいくらいきついですよね。でもこの大きさだから、3時間も4時間も眠れるわけがないんです。産後、周りから「どうしてもっと飲ませないの?ミルクを飲ませたら?」と言われ、傷つくお母さんがたくさんいます。この模型をみることで「私の赤ちゃんはこれだけしか飲めないんだ。だから母乳だけで大丈夫!」と安心できるのです。女性が妊娠・出産・育児は楽しい!と思ってもらうにはどうしたらよいかを常に考えています。それが楽しくってたまらないんです。

記者:佐藤さんのお話を伺っていると常にお母さんや女性が楽しく、心と体が健やかにいられるように寄り添う、というその一点の追求に思えます。その想いを持つことになったきっかけはなんですか?

佐藤さん:実は以前、がんになりました。自分の力で治そうと思い東洋医学も色々試しました。氣功をしたり歩いたりする中で、どれだけ自分が無茶な生活をし、体をいじめ抜いていたのかに気付かされました。病を得て感じたことは「病気には意味がある。だから、病気と闘わない。」ってことです。がん細胞ってちょっとひねくれた自分の細胞なんですよ。自分の細胞なら叩き潰すのではなく、もっと愛して治そうと思いました。
また、それまでは助産しか頭になかったけれど、患者になってみて看護の大切さにも気付かされました。夜痛みで眠れないと訴えると看護師は「はい、痛み止めです。」と薬を差し出すだけでした。痛みには体だけでなく魂の痛みもあるんです。東洋医学の本を枕元に置いていたら「わあ、勉強家ですね。」と返ってくるだけでした。「え、それだけ!?患者がこれだけ勉強してるのに、あなたは勉強しないの?」と思いました。結局、私の体を一番知っているのは自分だと気付きました。さらに同室だった患者さんが、とても遠慮されながら勇気を出して看護師に質問したのです。すると彼女は「確認してきます。」と言ったきりその日は戻って来ませんでした。忘れていたんですよ。「看護はこれではだめだ!」と思いました。退院後、福岡県立大学看護学部の学部長に就任しました。患者に寄り添うとはどのようなことか、自分の経験を通して学生に語りかけました。おのずと看護の教育にも力が入りました。「助産」という生から始まって「自分が死ぬかもしれない」と思った時に、「生と死は繋がっているんだ」と気付いたんです。

記者:佐藤さんの想いの深さは、生死といったところからもやってくるのでしょうね。そもそも佐藤さんが助産師になろうと思ったきっかけは何ですか?

佐藤:それをお話すると長くなりますよ(笑)。もともとは高校3年生の時にキャビンアテンダントに受かり、私はその道を進みたかったのですが、父が反対で九州大学の看護を勧められました。当時の私はファザコンで父の言いなりになるおとなしい子でした。
父が看護を勧めたのは、女もこれからは手に職が必要だと思っていたからでした。そして助産師の道に進んだのは、人から使われるのではなく自分で開業できると言われたからです。もともとは父の言われた通りに生きる人だったんですが、親元から離れてからだんだんと変化をしました。学生時代に白い巨塔の世界の不条理を感じ、「改革せねば!」と行動を起こすようになっていきました。

記者:冒頭で佐藤さんは倫理・道徳ではなく、生命、生きる事そのものに力を感じられているな、と思いました。その辺が筋が通ってぶれないように感じます。

佐藤:そうですね、ぶれないです。女性とか子どもとか弱いと思われている人の味方というのはずっとありますね。思考は柔軟だと思いますが、自分の体験から培われた哲学は、誰が何と言おうと変わりませんね。

記者:佐藤さんは夢やビジョンと言うより、生き方とアイデンティティが一致されてると感じますね。

佐藤:そうなんです、生き方そのものになってます。母は専業主婦で、父に従う人でした。母性が強く自分よりも子どもが大切という人で、とても愛情深く育てられました。ですから、母のことは大好きだったのですが、でもそういう生き方を否定する私が一方にいました。本当は男に生まれたかったという想いがあり、男に頼らず、自分の力で生きていきたいという気持ちを持っていました。
社会的には女性が弱いと思われていますよね。だけど助産を極めていくうちに、本来女性は弱くない。女性が男性と同じ働き方をしたり、男と闘うことが真の平等ではないと思うようになりました。マザークラスや子育ては、男性の「競争の世界」とは対極にあります。「あなたはあなたのままでいい。」とすべて受容される環境にいると、「私はこれでいいんだ。」と思えるようになります。私が、「女性に生まれてよかった!」と心から思えるようになったのは、マザークラスを通して助産の真髄を知ったからです。

記者:それが人間の本質だと思います。佐藤さん、今日は本当に貴重なお話をありがとうございました!

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佐藤 香代さんの活動、連絡については、こちらから
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【編集後記】インタビューの記者を担当した荒牧と古川と編集の竹内です。
佐藤さんの一言一言に人間に対する愛情がたくさん詰まっていて、世界中のみんなが楽しい人生を送るためにどうしたら良いか、を女性の一生を研究することで具現化されようとしている本気さがひしひしと伝わってきました!来年のマザークラスは8~9月に開催されるとの事、たくさんのお母さんに佐藤さんの「世にも珍しいマザークラス」に触れてもらって安心した出産、育児をしてもらいたいと思いました。そして地球上のすべての人が生まれてきてよかった!と思える社会を私たちも共に築いていきたいと思いました。
貴重なお話を、本当にありがとうございました!

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。





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