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新型コロナウイルスとの戦い、真の最前線は医療者ではない

重症COVID-19(新型コロナウイルス感染症)患者さんを、自衛隊の皆様のご協力の元、沖縄本島にヘリコプター搬送してきました。重症者の方がすでに院内に複数名いらっしゃり、人的資源・医療資源が不足する離島でこれ以上見切れないと病院が判断したためです。もちろん、常に重症者の輸送ができるわけではなく、基本的に「運べば助かる可能性のある状態と現在の医学で判断され」、かつ「受け入れ先の病院があり」、「自衛隊が許可し」、「ヘリを飛ばせる天候である」という厳しい条件を満たした時のみ可能です。病院の判断だけでは搬送はできません。搬送ができない場合、治療の選択肢が少ない離島では、たとえ患者さんが亡くなりそうでも、何もできないこともあります。
ヘリコプター搬送では、通常の防護具はプロペラに巻き込む可能性があるので、タイベックという宇宙服のようなツナギを着用する必要があります。機内では、気管内挿管され、鎮静薬を投与された重症患者さんが、冷たい金属の床に固定され、意思なく寝かされています。機内は強風で常に揺れており、プロペラの轟音で一切の聴覚が遮断されます。ヘリコプターは少しドアが開いたまま飛行するタイプのものですので、機内は極寒です。このような過酷な状況下では、患者さんはまさに「転がっている」という表現の方が、正しいのかもしれません。
機内で患者さんを前にして、ふと考えました。この新型コロナとの戦いにおいて、果たして自分は最前線にいるのだろうか、と。
確かに、ベトナム戦争の時から飛んでいるようなヘリで患者を搬送するのは、それなりに体力が必要です。しかし、私は感染症医として、どのように身を守るか理解しており、そのための用具も支給されます。その点では、私の身にはそれほど危険はないのかもしれません。
真の最前線は、私ではなく、非医療者である一般の方々だと思うのです。戦う方法を知らず、武器もないまま、戦場に突然投入される。しかも、それに気づいてすらいない方々も大勢いらっしゃいます。その戦場で、リスクの少ない者は知らず知らずのうちに、リスクの大きい者に感染させます。そして、リスクの大きい者は流れ弾に当たって重症化し、ある者は気付かぬうちに命を落とします。
不適切な例えであることを承知で申せば、新型コロナとの戦いは、まさに地球規模で起こっている「戦争」です。戦時下では、全員が当事者であり、兵士であり、全員で戦わなければいけません。そうしないと、この戦いには勝てるわけがありません。新型コロナウイルスパンデミックは、間違いなく「人災」です(「パンデミック」の語源は、「全ての人々」というギリシア語です)。人災は、人間の力でしか克服できません。「東京では今日も1000人超えだってよ」とニュースを観ている一般の方々のほうが、私よりもよっぽど危ない場所にいます。皆さんが、まさに今自分が戦場の最前線に送り込まれていることに、どうか気づいて欲しい。そう願って止みません。

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