Enablerとしてのデザイン, Driverとしてのデザイン
横田(タイミー), 坪内さん(Gaudiy), 岸さん(root), で「デザインと測ること」をテーマとした勉強会を実施しました(辻井さんまた体調良いときに!)。きっかけは以下の問いかけです。
デザインという活動をどのように価値認識するかという問題は、さまざまなイシューの基礎となるため、多様な観点を議論することができました。
その中で、Driverとしてのデザイン、Enablerとしてのデザインという理解が生まれました。その場で参加者の好評を得たので、切り出して記事にします。
この分類法は、デザインあるいはデザインという活動がどのように事業に貢献するかに関する知覚方法を提供します。やや抽象的であり、表現としての適切さに関してはフィードバックをいただけたら嬉しいです。
EnablerとDriver
ある活動が事業に対してどのような形式で作用するかで、Enabler(事実を獲得する、可能たらしめるもの)とDriver(連続性を良化・推進するもの)として識別することができるとします。
Enablerとしてのデザイン
Enablerはある事実を獲得することで事業にレバレッジを提供することとします。具体的には以下のような例が挙げられます。
関連するキーワード: 立ち上げ・公開・変更・存在・要因・象徴
Enablerは、ある事実を獲得するという、0-1で表現されるの成果をもたらします。その事実があるか・ないかがはっきりする事柄です。Enablerは、事業や組織の中に存在することで、典型的には何かを可能/不能たらしめる。
いいかえれば、Enablerによってもたらされた事実・事象は、活用されてこそ価値が顕在化します。
プロダクトの特定の機能が、事業上のボトルネックを解消する
ある機能の存在が、ユーザーのあるパーセプションを獲得する
ある事業の存在が、他社の参入障壁として作用する
ある賞をとったという事実が、採用候補者を引き寄せる
期待の新人の入社が、部署の空気を変える
Driverとしてのデザイン
Driverは、ある連続に良化を獲得する、典型的には定量的な成果やそのためのレバレッジをもたらします。その良化の度合いが大きいほど、事業へのインパクトも大きくなります。
関連するキーワード: 改善・向上・最適化・調整・漸進的・流動的
Driverは、事業や組織の中で継続的に働きかけることで、典型的には何かの質や量を変化させます。言い換えれば、Driverによってもたらされた良化は、それ自体が直接的な価値を生み出します。
ユーザー体験の継続的な改善が、CVRの向上をもたらし、収益の増加につながる
デザインの品質が高まることで、顧客によるプロダクト採用確率が高まる
コンバージョン率の最適化が、売上の増加や獲得コストの削減をもたらす
開発プロセスの効率化が、リリースサイクルの短縮やコスト削減を実現する
ビジュアルデザインの改善が、ユーザーのエンゲージメント向上や滞在時間の増加につながる
Driverとしてのデザインは、事業のパフォーマンスを継続的に改善し、競争力を高めていくための原動力や推進力となります。デザインの良化を通じて、ユーザー体験、ブランド価値、収益性、効率性などの様々な側面に働きかけ、事業の成長を加速させることができます。
両者の取り扱い
両者の性質を対比して表現すると、次のようになります。(典型的には、としているのは厳格に区分して問題ないか検証できていないからです。)
典型的には、Enablerは先行事象として条件を満たす形で効用をなし、Driverは結果を出すものである。
典型的には、Enablerは定性的な価値を提供するものであり、Driverは定量的な成果を生み出すものである。
典型的には、Enablerは長期的な成果を理解すべきであり、Driverは短期的な成果を追求するものである。
典型的には、Enablerの実現は不確実性が低く、Driverは不確実性が高い
典型的には、Enablerは一気に実現されるため漸進的なフィードバックを得にくく、Driverはそれを得て改善しやすい
また、ある事象は必ずしもどちらかと断定できないこともあります。見方によってどちらとも捉えることができるかもしれないし、Driverとして一定の閾値を実現した結果Enablerとなることもあります。あくまで認識の技術です。
意義
文脈上、Enablerは定性的な事実をもたらすもの、Driverは定量的な変化をもたらすものと解して差し支えないと思います。
定性的な結果・定量的な結果という観念は日常的に扱われているものの、それらを主語・目的語としてラベリングした用語法は存在しませんでした。
Enablerとしてのデザイン、Driverとしてのデザイン。
この単なるラベリングは、デザインが事業にどうはたらきかけるかへの直感的な理解方法を提供します。
デザインの価値を適切に評価するための指標設定に役立つ
例えば、事業直接的なDriverであればコンバージョン率や収益といった定量的な指標、事業間接的なEnablerであればブランド認知度やNPSといった定性的な指標を用いることができる
デザインの事業への貢献を明確にすることで、組織内でのデザインの位置付けを議論できる
組織内の投資判断を取り巻く様々な要因を規定する
多くの事業環境は、短期的・定量化可能・収益への直結性が高い事柄へ抗いがたい(?)引力をもっています。つまり、Driverに向かいがち。
本来、事業にはDriverとEnablerのバランスが適切に意図されているべきです。こうした主語・目的語としてのラベリングは、物事の評価や認識に活用できると考えています。
外部的・内部的
さらに、Enabler / Driverがはたらきかける対称として企業の外部環境・内部環境(External / Internal)を区分することで、より実用的な分類法が得られるでしょう。
事業に対して直接的・間接的、という観点も有用そうですが、あるEnablerを直接的ととるか、間接的ととるかで倒錯を生みそうなので保留したいと思います。
まとめ
EnablerとDriverという分かり方について紹介しました。
お読みいただくとわかるとおり、この観点はデザイン以外の領域にも応用できます。価値の認識しやすさが、意思決定の偏りを誘引する傾向はあまねく存在しますから、他の仕事に対しても有意義な認識方法なのではないかと思います。
あるいは、事業への貢献を表現する、以外の使い方があるのかもしれません。
より考えを深める中で修正する余地があるかもしれないので、フィードバックをいただけたら嬉しいです。
補足1: デザインをとりまく時代的パラダイム
この概念を作成した背景として、デザインの事業上の位置付けが、特にデジタルプロダクトの時代に変容したという理解があります。
工業製品の製造と普及が花開いた20世紀的パラダイムでは、製品設計 = Product Designの世界は事業の中のコストセンター・R&D部門として位置付けられていました。この世界では、競合優位性のある製品を販売可能な状態にする、という意味でのEnablerであったといえます。
しかしながら、21世紀のデジタルプロダクトは、それ自体に顧客獲得・収益の創出の機能を内在するようになりました。私たちは、流入数・登録率・リテンション・LTVなどのKPIを一気通貫でプロダクトに委ねています。
プロダクトの同一の基盤内に、販促・製品・収益化の昨日を集約しています。また、データの収集やリリースのサイクルの圧倒的短縮が、短期間での改修を可能にし、リリース後に諸変数を操作してプロダクトを運用することが当然になりました。
つまり、プロダクトマネジメントならびにプロダクトデザインは、Driver的側面も強く要請されるようになったといえます。
こうした状態から、EnablerとDriverの認識上の扱いが大きく分かれるにもかかわらず、デザインの効用に関する議論は一緒くたにしがちでした。上記までに示した定義は、これらを分けて議論する能力を提供します。
補足2: インスピレーション
この分類法のインスピレーションは、デザインの価値の評価を試みる以下の記事の記述から得たものでした。
この記事では、「企業の諸活動のなかの構造的なイネーブラー/Structual enabler」と、「個別活動/Activity」を対比するかたちでenablerという表現をしています。評価が難しい事項はenablerという言葉で捉えることができるのでは?という仮説があり、分類を試してみたというところです。
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