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Perfume COSTUME MUSEUM 神戸レポ〜中編〜

前編はこちら


続・筆者の考えすぎレポ

展示会場

デザイナーと作り手の血と汗と涙が染み込んだ衣装は、それ単体で見る人を圧倒する。そしてその衣装は、腕を通してくれる、体をはめ込んでくれる唯一の主人をじっと待っている。

企画構成の久慈さんは、展示を構成するにあたり、とにかく近くで鑑賞できるべきだとお考えになったと教えてくださった。Perfumeをライブ会場で見る人は多いかもしれないが、展示会場でも相応の距離があると、見に来た人が寂しく感じるのではないかと思われたそうだ。何ともありがたいお考えである。

また、衣装という立体物を展示する以上、できるだけ裏側からも鑑賞できるように配置を考えたということも久慈さんに教えていただいた。
ライブ会場など、動くPerfumeを肉眼で拝める場面で衣装の裏側を目にすることはあっても、裏側の観察に集中できるファンは少ないだろう。重ね重ね、ありがたいお考えである。

展示台

展示台の中には、あえて角が全て直角ではない、衣装からの距離は不均一な四辺形がある。これも久慈さんが教えてくださったので、次の訪問時に確かめた。
観測できた展示台の種類は大きく分けて5種類。

四辺形①
衣装展で初めに出会う展示台は、ひし形を少しずらしたような四辺形だ。一番長い辺は筆者の履いていたスニーカー9.7個分で、次いで8.2個、8個、7.3個といったバランスになっている。筆者は久慈さんに教えていただくまで正方形か何かだと思っていた。
該当する展示台はSpinning World(白)、コンピューターシティ(白)、レーザービーム(白)、GLITTER(白)、LEVEL 3(1mm)(グレー)、SXSW (グレー)で、GLITTERとLEVEL 3(1mm)は高さを上げてある。

四辺形②・四辺形②'
次に出会う四辺形は2か所が直角で、衣装の正面側の辺が少し斜めに走っている。一番長い辺は筆者の履いていたスニーカー11個分で、次いで10.7個、6.2個、5個といったバランスになっている。
該当する展示台はリニアモーターガール(白)、Dream Fighter(白)、ワンルーム・ディスコ(白)、JPN(白)、Next Stage with YOU(グレー)、Magic of Love (近未来)(グレー)、再生(白)だ。
左右の辺を反転させた四辺形もあり、これを四辺形②'とする。第59回NHK紅白歌合戦(白)、シークレットシークレット(白)、NIGHT FLIGHT(白)、ねぇ(白)、不自然なガール(白)、FAKE IT(グレー)、Magic of Love (パターン)(グレー)の展示台がこれに当たる。

長方形
辺の長さは測っていないが、目測で1畳分ぐらい。
該当する展示台はSpending all my time(グレー)、World Tour 3rd のエメラルド衣装(黄色)、DOME LEVEL 3(3体)(黄色)、第四章13着分(黒)で、第四章のシリーズは2段のひな壇になっている。
長方形の番外編として、Spring of Life(グレー)の展示台は少しだけ太短く、カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル(白)は横長い。

正方形
辺の長さは測っていないが、半畳よりも狭いぐらいの印象だ。1台に1体が展示されるかたちになる。
ling Cling(緑)とCling Cling(赤)に赤、DOME LEVEL 3(再帰性反射材)とCOSMIC EXPRORER Dome editionと第69回NHK紅白歌合戦に白い正方形が用いられている。
正方形の番外編として、第四章のメンバーセレクト衣装はメンバーごとに大きな正方形の台でまとめられており、その中にさらに台や四角柱を置いて高低差を出している。

その他
他には三角形と、目視できない台がある。
三角形は直角二等辺で、辺の長さは測っていないが、正方形と同じくらいの面積に見える。該当する展示台はSweet Refrainと未来のミュージアムで、どちらも色はグレーだ。
筆者が目視できないのは『Perfume × TECHNOLOGY presents "Reframe"』の展示台だ。この衣装は特別高い位置に展示されている。天井の形やカーテンから推測するに、薄い台形のような四辺形だと思われる。
どなたか背の高い読者の方で、見えた方がいらっしゃればご連絡ください。

トルソー

Perfumeの経歴が進むにつれ、オートクチュールの衣装が増えていく。Perfumeも人間なので、その時々で多少の体型変化があったり、早着替えのために重ね着したりと、衣装ごとに採寸が異なっている。
衣装の裾から覗いたことがある読者の方はお気づきかもしれないが、それぞれのトルソーの底面には、どのメンバーのどの衣装を着せるのかが分かるように写真と印が付けられている。
確認するのにおすすめなのは、ねぇとSweet Refrainのかしゆかの衣装、ワンルーム・ディスコののっちの衣装だ。ちなみに第四章のトルソーの底面には印がない。
トルソーで3人それぞれの体型を精密に再現しているのか、補正を入れているのかは分からないが、非常に手間を掛けて展示されていることには違いない。
全国を巡回予定の本展示だが、衣装たちと一蓮托生でトルソーも全国に運ばれることになるのだそうだ。


前置きが長くなったが、ようやく展示を見ていく。

プロローグ

まず目に入るのは、壁一面のPerfumeのシングル・アルバムリリース年表だ。図録の巻末にも掲載されているが、眺めずにはいられない。
あぁ、この曲でPerfumeを知ったなぁ。このアルバムのライブに行ったなぁ。この曲って全体で見ると案外最近なんだなぁ。誰かと一緒に見に来ていれば、お互いのPerfume遍歴で話に一花咲くだろう。
年表に近づく前に、右側の壁に貼られた文章パネルにも目を通す。「ワ…ワ…」しか喋れなくなるオタクに語彙を授けてくれる、ありがたい碑文だ。
後で分かることだが、各章の入口に貼られた文章も図録に同じ文言が掲載されている。第一章の文章だけは英訳文が横に貼られており、これは図録にはないものだ。

"Greeting

It is with great pleasure that we present Perfume COSTUME MUSEUM, an exibition focucing on the music and stage clothes worn on stage by the three members of the group Perfume.

Formed by a-chan, KASHIYUKA, and NOCCHi in 2000, Perfume made their major label debut in 2005. Their 2007 song "Polyrhythm" brought the group greater recognition, and the following year they appeared for the first time on the NHK Kohaku Uta Gassen ("NHK Red and White Song Battle"). Perfume also extended their activities abroad by, among other things, embarking on their first world tour in 2012, and becoming the first Japanese artist to be invited to the Cannes Lions International Festival of Creativity in 2013. The fact that Perfume have remained at the forefront of the music world for approximately 20 years is due to their captivating music, accomplished dance techniques, and use of cutting-edge technology on stage as well as the tiro's flamboyant costumes. 

With the help of visionary stylists, Perfume's apparel, interwoven with pop culture and current trends, is not only highly original, but it is also functional for dancing, and is some cases, provides the group's members with strong support as they perform for audiences of tens of thousands of people. Moreover, in Perfume's original "neo-futurist" concept, clothes served as a medium of visual expression, establishing the group's overall identity while accentuating the charms of each of the three members.

In the exibition, we present approximately 170 specially selected outfits from Perfume COSTUME BOOK 2005-2020 (Bunka Publishing Bureau, 2020), a collection of detailed commentaries on the group's fashions compiled by the editors of SO-EN fashion magazine. The group's music and costumes since their major debut are presented in chronological order in the first three section, and the fourth section, focucing on their stage outfits, includes special display for which the members chose their favorite costumes. The large-scale fashion exibition also presents sewing patterns and other materials that illustrate the original inspirations for the designs.

In closing, we would like to express our sincerest gratitude to all of the members of Perfume, AMUSE INC., UNIVERSAL MUSIC LLC, SO-EN (Bunka Publishing Bureau), and all of the many others who provides us with valuable support and advice in realizing this exibition.

The Organizers"

この文章は写真撮影禁止エリアにあるので、スマホで打って記録した。
文章パネルから入口側に視線を落とすと、筆者の腰の高さほどのレターラックがある。そこには2種類の資料が立てかけられている。
1つは鑑賞ガイド。書き込み式のクイズ付で、高校生以下の来場者にも易しい言葉で書かれている。

対象年齢は小学校高学年以上といったところ
丁寧なチュートリアル

もう1つも鑑賞ガイドで、展示会場のダンジョン地図と、衣装の通し番号や曲名のリストが掲載されている。どう見て回ったらいいか分からないオタクを導いてくれる、ありがたい資料だ。

ダンジョンの地図
作品リスト

以下、衣装はリストに倣って
展示番号
曲名(発売年)
制作者

で表記する。見る順番ではなく、リストの番号順に綴ってみたい。

37
Spinning World(2022)
デザイン:三田真一
制作:内藤智恵(ぜんまい制作:自由廊)
文章パネルの壁から振り返ると、真紅の美しいドレスに相まみえる。とにかく美しい。
そして、近い。腕をピンと伸ばさずとも触れてしまう距離に、衣装たちがいる。
凛とした姿勢のトルソーが纏っている真紅のドレスは、「ある」ではなく「いる」と言ってしまうほど、着ていた3人の息づかいが感じられる、ハリと艶のある衣装だ。
Spinning WorldのMVでPerfumeの3人はぜんまい仕掛けのからくり人形を見事に演じている。コンセプトとしては

遠い宇宙の何処か、オリエンタルな雰囲気漂う惑星の天空の城にて、真っ赤な衣装を身に纏ったからくり人形

Billboard Japanの記事より

ということらしい。
ライブや歌番組でパフォーマンスをする際には見ることがなかったので、ぜんまいが付いた状態で鑑賞できるのも嬉しい。

展示台の周りを何度も行ったり来たりしながら、3人のあり得ないほど細いウエストや骨格の違いを確認したり、早着替えをするにはどこから取り外して脱ぐのかを推理したり、縫い目の細かさに目を凝らしたり…1着目から情報の洪水だ。
3人の衣装の差分はほとんどなく、ウエストの切り替え部分の高さや形にのみ微妙な違いが見られる。
背中にマイクポケットがあることから、歌番組かライブで使用したものであることが窺われる。
襟から切り替え部分を真っすぐファスナーが繋いでいるが、切り替え部分自体がコルセットベルトのように金具を引っ掛けて留められているため、両方を外すことで腰のきつさを気にせず着脱ができそうだ。
裾にはワイヤーのようなものが縫い込まれている。これが重しまたは骨となって、3人が回転したときに裾が綺麗に広がり、反対に回転したときに綺麗に脚に巻き付く仕掛けなのだろう。
後編までで紹介する資料室では、Spinning Worldの片腕分の布の型紙を見ることができる。改めて壁に貼られたスチール写真を見ると、裾はかなり幅があり、肘から手首を水平にすると正方形の布が垂れる仕様になっている。3人腕の長さあってのデザインだ。
『Perfume 9th Tour "PLASMA"』で何度も拝見した∞ループとSpinning Worldの脳内再生が終わったところで、次の衣装に移動する。

第一章 近未来の挑戦者

プロローグのSpinning Worldと同じ空間に、1着だけ第一章の衣装が展示されている。

1
リニアモーターガール(2005)
デザイン:高橋恵美

ぱふゅ~むだった少女3人は中田ヤスタカという天才と出会い、Perfumeという新たな生を受けた。その産着とも言えるのが、メジャーデビュー曲『リニアモーターガール』のMV衣装だ。
黒いレザー調の生地は、どこか青みや灰色の感じが見受けられ、衣装スタッフの方がPerfumeのために唯一無二の素材を模索していたことが窺える(ただの経年劣化だったらすみません)。
脇から裾にかけて直線的なラインのワンピースで、同じ空間に置かれたSpinning Worldのドレスと比べると、あまり体系を強調しない作りに見える。横スリットはかなり深く、腕を下ろしたトルソーの手首あたりまで切り込まれている。MVのダンスシーンを見ると、それがよく分かる。
左の胸元には、心臓と似ても似つかない金属製の円盤が取り付けられている。動脈と似ても似つかないビニールチューブが、円盤と直に接することなく衣装の半身を巡っている。無機質な近未来、生命感の乏しさを表現した衣装は、国内では珍しい「テクノポップユニット」の鮮烈なデビューを印象づけたことだろう(筆者はリアタイできていません)。

リニアモーターガールは電子音のピコピコ感と抑揚あるリズム展開が特徴的だ。しかし、歌の音程にはあまり抑揚がない。
1988(89)年生のPerfumeは当時17歳。広島アクターズスクールでの練習生時代は歌にもダンスにもグルーヴを叩き込まれた。ぱふゅ~む時代は「ビタミン!」「スイーツ!」とカラフルなコンセプトが多く、賑やかさや溌剌とした姿を売りにしていた。そんな彼女たちはPerfumeとして初めてのレコーディングで、中田ヤスタカの求める「喋るように歌う」ことに戸惑い、あ~ちゃんが涙を流したことはファンの間で有名な逸話となっている。
Perfumeの3人がリニアモーターガールの衣装を初めて見たときの話を筆者は知らない。これは想像だが、おそらく、それまでの活動や自分たちのイメージとのギャップを少なからず感じたのではないだろうか。抵抗感はあったかもしれないが、このコンセプトを頑張って消化してくれたことに、心から感謝している。
9/21に鑑賞した際は、「デビューしてくれてありがとう」と衣装に手を合わせた。

衣装の差分としては、あ~ちゃんの裾が少し短く、かしゆかの裾が少し長い。その兼ね合いでなのか、ビニールチューブを留めるパーツの数はあ~ちゃんが1つ少ない。ビニールチューブはかしゆかが乳白色、のっちが黄色のスケルトン、あ~ちゃんがオレンジのスケルトンだ。筆者はあ~ちゃんのビニールチューブを見て、全く同じ色の縄跳びを使っていたことを思い出した。
襟の後ろ部分から腰にかけてファスナーが走っているが、ビニールチューブはこれをまたいで通されている。着脱時にはビニールチューブをある程度抜き、ファスナーを開け閉めしたのだろうか。蛇腹に隠れるように、腕にもファスナーが取り付けられている。MV用の衣装ということもあり、早着替えは想定されていないように見える。マイクポケットも見当たらなかった。

最初の空間には最新曲とデビュー曲の衣装を並べたかったのだと久慈さんはおっしゃっていた。
リニアモーターガールとSpinning Worldのコンセプトを考えると、「現代日本ではないどこかにいる、私たち人間とは少し違う動体」という点が共通している。
機械が見せる人間らしさは、まだまだぎこちないかもしれない。では、機械らしさを人間が表現することは容易か?機械らしさというのは、ぎこちなさではない。人間に足りないものを持ちながら、人間らしくあろうとする姿こそが機械らしく、それが切なさを呼び起こすのだと筆者は考える。


Perfumeの衣装は無数にある。チームPerfumeがそれらに遍く敬意を寄せていることは、世界中に散らばるファンへの愛でもあると思う。
いつ、どこでPerfumeを好きになったか。Perfumeの何を好きになったか。この問いに対する答えはファンの数だけあるだろう。
思い出の中のPerfumeの一部と、手を伸ばせば触れられる距離で一緒に過ごしていいだなんて。自分がまだPerfumeを知らなかった頃、会いに行く前の頃の衣装を見られる日が来るなんて、数年前までは想像もできなかった。
この空間を1800円で味わえてしまって良いのだろうか?合法なのか?そんなことを思いながら、次の空間へと進む。

2
コンピューターシティ(2006)
スタイリング・制作:内澤研
Perfumeと同世代であれば親近感を覚えるファンも多くいたであろう、「OLIVE des OLIVE」の既製品が衣装に用いられている。
色合いやシルエットは女性らしい印象だが、MVではメンバーの黒髪に青メッシュを入れるという、Perfumeとしては大胆なイメージチェンジでピリッと辛さを出している。

3人の差分は細かいが、お揃いの既製品がベースになっているため比較しやすい。ジャケットはボタンの留め方と、星形のアップリケの付け方で差を出している。スカートは絞り方や丈の長さをそれぞれに変えられている。インナーも3人違うものを着用している。靴の展示はないが、ジャケット写真ではお揃いのまま使われているように見える。
マイクポケットは付いていない。

3
Dream Fighter(2008)
スタイリング:内澤研
Dream Fighterの衣装では一転して完全な「スタイリング」で勝負に出た。1つ1つのアイテムが控えめすぎず、主張しすぎず、普段着と舞台衣装のちょうど中間を捉えている。
今からでも、リサイクルショップを駆け回れば近い商品が手に入るのではないかと思えてくる。Perfumeの衣装を真似したいというファン心理をくすぐるコーディネートだ。

色味は統一しながらも、形や素材は三者三様になるよう揃えられている。
よく見ると糸の突っ張りや毛玉、何かのシミが観測でき、この衣装でたくさん活動したのかなと想像を掻き立てられる。
マイクポケットはない。この衣装でのパフォーマンス時はハンドマイクだったようだ。

4
シークレットシークレット(2008)
デザイン・制作:内澤研
森永乳業「ピノ」のCMにタイアップされた曲の衣装だ。同じくピノのCMタイアップ曲である7番のNIGHT FLIGHTと対にして展示されている。
ピノのミルク、チョコレート、パッケージの色を落とし込んだらしい。スポンサーに捧げる衣装だ。
加えてMVはピノを食べることでPerfumeに戻れる(なれる)マネキンという設定で、ダンスもカクカク感を強調した振り付けが印象的だ。MVの児玉裕一監督は「デビューから3人がたどってきた道筋を衣装で表現してほしい」とオーダーしたということで、洗練されたシルエットのこの衣装が作られた。
それにしても、3人をマネキンになぞらえたストーリーがある意味核心をついているように感じるのは筆者だけだろうか。

オートクチュールの衣装は同じ素材で3人それぞれ異なるシルエットを与えられている。かしゆかは現在では珍しいショートパンツを履いており、現在では珍しい肩周辺の露出が少ないパフスリーブのカットソーを着ている。のっちのトップスは、現在ではまず見られない背中がばっくりと開いたスタンドネックのノースリーブだ。
マイクポケットはなく、CMとMVで天命を全うした衣装だ。

5
第59回NHK紅白歌合戦(2008)
デザイン・制作:内澤研
初めて紅白歌合戦に出場したPerfumeは、自身らを一躍有名にした『ポリリズム』を披露した。
リニアモーターガールの衣装が産着なら、初紅白の衣装はお宮参りの晴れ着かもしれない。手作りの衣装は、膝丈スカート、ミニスカート、ショートパンツというPerfumeのスタイルを印象づけながらも、20歳の等身大のPerfumeに可憐さを授けている。

シークレットシークレットと同様、同じ素材で異なるシルエットを形づくり、3人それぞれの魅力を引き立てる1着となっている。
使われているのはベースとなるベージュの布と、それを包む2種類のレース素材、襟から胸元の差し色にエメラルドグリーンのチュールだ。目が細かくて均一なレースには小花の刺繍が施されており、縫い付けられた小さなビーズが星影のように胸元できらめいている。花びらを描くように編まれたレースには唐草模様が敷き詰められ、アンティークな雰囲気を演出している。かしゆかの裾と、あ~ちゃんとのっちの袖には穏やかな金色のレースのリボンがあしらわれ、少しばかりの絢爛さを添えている。
服と同じ素材で作られたリストバンドにも、数百ありそうなビーズが縫い付けられている。この温かい手仕事が、初めての大舞台に立つPerfumeの3人をどれほど勇気づけたことだろう。

6
ワンルーム・ディスコ(2009)
スタイリング・制作:内澤研
2008年、衣装スタッフは当時のPerfume世代としては少し背伸びをしたブランドと次々コラボレーションしていた。『love the world』で「agnès b.(アニエスベー)」、初武道館では「vanessabruno」と「support surface」、CDTV年越しライブでは「VIVIENNE TAM」をアレンジして着用した。筆者は手にしたことのないブランドばかりだ。
Perfumeは徐々にファッションアイコンとしての知名度を高めていたようだ。
アーティストと曲のイメージを守りながら、前衛的な挑戦をコーディネートに落とし込んでいく衣装スタッフの姿勢が、Perfumeをマネキンから高みへ導いたのだろう。

そんなPerfumeの新たなシングル曲では、「HERCHOCOVITCH: ALEX ANDRE」が衣装に起用された。そこに制作スタッフの手仕事が加わることで、華やかながらも馴染みの良い見栄えに仕上がっている。

あ~ちゃんの肩の裾、のっちの襟元、かしゆかの胸元に、手仕事でフリンジが取り付けられた。必ずしも目立たなくとも一手間をかけるところに、Perfumeがチームから愛されていることが伝わってくる。

7
NIGHT FLIGHT(2009)
デザイン・制作:内澤研
公式のMVはなく、ピノのCM映像でのみ着用されたこの衣装。キャビンアテンダントの制服を模したデザインがかわいらしい。
筆者はCMも見たことがなく画像で知っていた程度だったが、近くで見てみると、まさかのフェルト生地に驚いた。しかしかわいい。着てみたい。
お揃いの帽子も展示されており、「A」「K」「N」のバッジも見ることができる。COSTUME BOOKにはピンバッジの代わりにピアスを付けていると書かれている。帽子のサイドにはピンバッジが付けられており、よく見ると双頭の鷲が描かれている。

3人の差分としてシルエットの違いにまず気づくが、胸元のスカーフもそれぞれに違う形に作られている。もしPerfumeがキャビンアテンダントだったら、どういう部分に自分らしさを出すだろうか。落ち着いた色のさりげないネイルに、スカーフの結び方、帽子の角度、ヘアピンの留め方…妄想すればきりがない。

8
不自然なガール(2010)
デザイン・制作:内澤研、鈴木淳哉
アリス・イン・ワンダーランドの「赤の女王」の城から飛び出してきたのかと思うような、ハッとするような真っ赤な衣装へと吸い寄せられる。
チュール、メッシュ、スエード、大小様々なビーズ…と使われている素材も半端ではない。筆者数えでは、あ~ちゃん4種類、かしゆか17種類、のっち7種類だった。特にかしゆかのベルト部分は執拗なまでのこだわり具合が見受けられる。

あ~ちゃんはそのまま飛行機に搭乗しても安眠できそうな、クッションのようなパーツが両デコルテから生えている。のっちはシークレットシークレットに続き背中の空いたデザインだが、実際には布が当ててあり露出は少ない。反対にかしゆかは背中の素肌が見える作りだ。胸元のフリルに使われている布で隠してあげたほうが良いのではないかと思ってしまうが、暑がりのかしゆからしいとも思う。
3人とも肩幅を異常にデフォルメされているが、絶妙なバランスで歪には見えない。のっちは「Flow」のMVでも肩幅をデフォルメしたジャケットを着こなしていた。Perfumeってすごい。

9
ねぇ(2010)
スタイリング・制作:内澤研
言わずと知れた「Marimekko」の既製品をアレンジした衣装。既製品と言っても侮るなかれ、この世界に2つと同じ柄の商品はないという。
トップス自体がオーバーサイズなのだろう。近くで見ると、手縫いで裾を上げ、袖を詰めているのが分かる。驚くことに、かしゆかは裾上げしたトップスをそのまま変態丈ワンピースとして着用している。

MVやスチール写真で使用された帽子は、リリース年のクリスマスにファンの中から抽選で3名にプレゼントされたらしく、展示には登場していない。

ちなみに、ちょうどねぇの位置から空間を見渡すと、左からGLITTER、Dream Fighter、不思議なガールの信号機セットを視野に収めることができる。

図録より

10
レーザービーム(2011)
デザイン:三田真一
制作:内藤智恵
カラフルな衣装が並んだ空間はフォーカルポイントのオンパレードだが、真っ黒なレーザービームの衣装もそれに漏れることなく目を引く。
ひらひらとしたオーガンジー素材が何か自然物を模しているとしたら、それはトンボだと筆者は思う。しかしMVのレーザーの演出を見るに、未来の魔女か戦士のイメージなのだろう。

このMVは展示会場でもループ再生されているため、「サビの決めポーズで重ねた飾り布がまっすぐ見えるように計算されている」という説明文をすぐさま確かめることができる。MVの再生時間も3分弱と、見逃しても見直すのが苦ではない尺だ。このMVは筆者が高校生の頃、ダンスを覚えたくて何度か見た記憶がある。襲いかかってくる熊をかわいいぬいぐるみに変えてしまうオチを久しぶりに見て、ほっこりとした気持ちになった。
結局立ち止まって2回見た末に、サビの決めポーズが「ストレイト♪」のことなのか「ラブビーム♪」のことなのか分からないまま順路を進んだ。

11
GLITTER(2011)
デザイン:三田真一
制作:内藤智恵
第一章の空間でひときわ高い位置に、深い海のような青く美しい衣装が据えられている。
この衣装を鑑賞するには誰もが見上げる格好になる。MVではライティングを調整されていて分からなかったが、幾重にも重なっているはずのシフォン生地から、トルソーの形がくっきりと透けて見えるのだ。筆者は驚愕した。袖と裾が、空調の風にひらりひらりと慎ましく揺れている。
シルエットも美しく、筆者は特に、のっちの腰のギャザーから袖にかけたラインが好きだ。

その美しい衣装と同じ色のヒールも、衣装の足元に一緒に展示されている。
中を覗き込むと、あ~ちゃんのものだけ踵にパッドが貼られている。外して展示することもできたのに、その状態のまま鑑賞させてもらえることがありがたみを増す。剥がすと跡が残り見栄えが悪くなるから、とか事情があったからかもしれないが、だったら展示から外そうということにはせずありのままを見せてくださった主催者に改めて感謝を送りたい。

12
JPN(2011)
デザイン:三田真一
アルバムの通常版ジャケットで目にするビビッドカラーのこの衣装は、歌唱時に着用されたことはなく、非常にレアリティが高い。近くで見ても衣装はとてもコンパクトで、なるほど激しい振り付けに耐えるものではなさそうだ。特にかしゆかの変態丈は静止画撮影向けだ。

和のモチーフがふんだんに散りばめられた中でも、メインと言える大きな稲妻の模様。筆者はプリントだとばかり思っていたが、全て縫い合わせられていることにとても驚いた。あ~ちゃんとかしゆかの腰には帯のように、象嵌をイメージした柄の切り替えがあるが、その柄をしっかりと稲妻が貫いているように見える。
絵巻物に出てきそうな雲の形の布が、小さな稲妻に重なるように縫い合わせられているのも芸が細かくて感動する。
筆者は『Moon』のラスサビの、「Moon〜♪」の振り付けを見たとき、月にかかる雲を表しているみたいだなと思った。そして展示会場でJPNの衣装を見たとき、Perfumeのプロトコルに絵巻物の雲があったことを知って、頭の中で点と点が繋がって人知れず嬉しくなった。


これまた10000字を超えてしまいました。このペースで大丈夫かな…。
(休憩スペースの位置を間違えていたので中編2に移動させました。)
ここまで読んでくださってありがとうございました。
第二章以降は中編2にて!

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