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ハマス(アル-カッサム旅団)の使用しているヤシン105㎜対戦車擲弾に関しての備忘録(2023年11月)

 2023年10月6日に起きたパレスチナにおける非国家主体によるイスラエルの領域への攻撃(アルアクサの洪水作戦)に端を発して、パレスチナ自治区ガザ地区に対するイスラエル軍への大規模空爆、地上侵攻が行われています。
 一方、その地上侵攻に対する対抗も行われており、ガザ地区内部で生産されたと考えられる国産兵器が用いられています。その代表例として、2004年8月30日に視認されたal-yasin105mm対戦車擲弾発射機が挙げられます。

 これは2004年3月22日にイスラエル軍(以下IDF/IOF)に殺害されたハマスの精神的指導者、創設者であるアッ=シャイフ・アフマド・イスマーイール・ハサン・ヤースィーン(الشيخ أحمد إسماعيل حسن ياسين ,al-Shaykh Aḥmad Ismāʿīl Ḥasan Yāsīn)に由来して命名された、RPG-2の模倣品です。
 開発者はカッサムロケットと同一であるアダナーン・アル・グール(عدنان الغول,Adnan al-Ghoul)だと考えられています。

 2004年10月のIDF/IOFによるガザ地区への攻撃でありOperation "Days of Penitence"(מבצע ימי תשובה)で初めて使用されたと主張される※1この兵器は、今回の交戦でも多数の投入が確認されており、この兵器を含めたIDF/IOFに対する攻撃でメルカバやナメルなどのAFVへの多数の損害が報告されています(アル-カッサム旅団の主張では11/9日段階で136両の完全な、もしくは部分的破壊)。
※1 文書での初出は同22日のパレスチナ警察との抗争で用いられたもの

 通常の性能はRPG-2に準拠すると考えられ、RPG-2と同様の85㎜弾頭(PG-2準拠)を用いた場合、RHA換算で200-210mmの貫通力があると思われます。
 但し、弾頭の進歩や本体の小改良によってその性能は向上していると考えられ、現在はRPG-7のPG-7VR弾頭と類似した105㎜タンデム弾頭が一般的に使われているようです(同じ性能を実現できるとした場合、爆発反応装甲ありで600㎜、なしで750㎜の貫通力があると考えられます。但し、ライナーが入手素材の問題で銅ではなくアルミニウムで出来ている事、TNTではなくアマトールを用いている事から、貫通力は低下する筈です※2)。
 RPG-2とRPG-7は発射部の口径が同じ(40㎜)である事から弾頭の共用が可能だったと考えられます。RPG-2で問題となったストッパーが無い事による弾頭部の脱落が改善されているかどうかは不明です。また、一定以上飛行した場合での自爆機能があるかどうかも不明です。

※2 RE係数で考えた場合、アマトールはTNTの1.17倍の威力を持つが爆速は6900m/sから330m/s低下する。

twitter.com/JoeTruzman/status/1713536873866621312より。
ガザ地区内部で製造されていると思われる弾頭部


upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/71/RPG_PG_7R.pngより
RPG-7の弾頭ではあるが、Yasinに用いられていると考えられる。

 弾頭の変更の結果として弾速も向上しており、通常状態のRPG-2が84-145m/秒であるのにに比して、RPG-7に準じる295-300m/秒に変化しています(ロケットブースターによる加速後の数値)。
また、その分重量が増える事になり、装填時は7㎏(RPG-7と同様)になります。
そして弾頭の変更と共に射程が向上する事から(150m→有効射程300m)、照準器もRPG-7と同型に変更されていると思われます

twitter.com/lolGhostAgain/status/1720963962206818797より。
手製のグリップとRPG-7と同じ照準器が確認できる。

 結論としては、後述する小改良を除けばYasin105㎜対戦車擲弾発射器はRPG-7の弾頭を用いるようにしたRPG-2だと言えます。

 運用としてもほぼこれらの2つと同様であり、予備弾薬が3つ入ったバックパックを背負い、多数の対戦車戦闘を行います。但し、ガザ地区固有の事情としてゲリラ戦、市街地戦となる事が多いため、ソ連軍のように小隊の対戦車火力としての運用ではなく、汎用的な民兵の武装の一つとして用いられていると思われます。
 また、ハマス(アル-カッサム旅団)のみならず、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)、ファタハ、人民抵抗委員会(PRC)なども使用しているとされています。

 RPG-2との弾頭部以外での違いは主に三点あり、先ほど挙げたロケットブースターに対応した照準器の他に、木製のサーマルスリーブの位置が若干後退している事と、RPG-7に似たコーン状のブラストシールドが採用されている点です。

militarytoday.com/firearms/yasin.htmより。al-yasin


https://vibit-adm.ru/granatomet/rpg-3.htmlより。RPG-2

これらが実運用においてどの程度の差異を齎しているかは不明です。

 また、この兵器は工場ではなく手作業で製造されていると考えられており、使用される材質はソ連やロシアで用いられているものと比べると低下すると思われます。よって、多数を発射した場合や様々な環境における強度や耐久性、精度はその分悪化し、予測不能になると思われます。

 結論としては、PG-2弾頭を用いたal-Yasinは十分とは言い難い対戦車火力ではありますが、タンデム弾頭を用いた現在用いられているバージョンはその装甲貫通力から有効な対戦車火力になっていると考えられます。
 ただし、IDF/IOFの主力MBTであるメルカバは一部のバージョンでアクティブ防御システムを用いている事や、接近しなければいけない(本兵器の有効射程が300mでアイアンサイトを用いているのに対してイスラエル軍の主力小銃は有効射程が300-500mであり、光学機器を搭載しています)ため、自殺的な攻撃にならざるを得ない、と結論付けるほかありません。
地の利がある事、トンネルなどを利用した待ち伏せが可能である事を考慮したとしても成功率は非常に低いと考えられます。
 尤も、それはイスラエル-パレスチナ間の非対称な関係における構造的問題であるため、現状のハマス(アル-カッサム旅団)が生産・使用できる兵器として見た場合、軽視する事は出来ないでしょう。

 但し、アルアクサの洪水作戦以降RPG-7が多数用いられている事(ネット上ではこれらもまとめてal-yasin105mmと呼称され、混同が見られます。ガザ地区産の対戦車擲弾発射器の総称と考えた方が実態を反映しているかもしれません)、またIDF/IOFの発表によるとハマスの使用している兵器の8割が国産である事を考えると、RPG-7の国産化に成功した可能性があります。そうであれば、製造数が2000以上とされるal-yasinがこれ以上用いられる可能性は少ないかもしれません。

 最後に、イスラエルによる国際法に反する無差別爆撃及びに非合法的な6000人を超えると目されるパレスチナ人の拘禁、遺体の損壊、住民の強制移住、国際決議を無視した西岸への入植、パレスチナ領に対する分離壁の建築、その他国際法や人間の尊厳を無視した行為の数々、及びにハマス(アル-カッサム旅団)他パレスチナ武装勢力による国際法に反するロケット弾による無差別攻撃、遺体の損壊、イスラエル領域内への侵入と民間人への攻撃と拉致、暴行、敵の制服の濫りの使用その他国際法や人間の尊厳を無視した行為の数々を強く非難してこの文章を終わります。

11/22追記:一部のイスラム圏メディアではAl-yasin105/TBGとも表現される事があるようです。これは既存の64㎜HEAT-105㎜HAETのタンデムであるPG-7VR弾頭ではなく二段階目の105㎜にサーモバリック弾頭を用いる事でバンカー(遮蔽物内)の敵を攻撃するためのもの、もしくはTBG-7Vのコピー品のようです(TBGはサーモバリック・アンチ・バンカーを意味するとの事)
参考文献 :https://english.iswnews.com/31801/military-knowledge-al-yassin-105-anti-tank-rocket-the-zionists-nightmare-in-gaza/

参考文献

https://vibit-adm.ru/granatomet/rpg-3.html

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/16/dkw_0322.html


見出しはWikipediaより(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3a/Flickr_-_Israel_Defense_Forces_-_Weaponry_Found_in_Beit_Hanoun_%282%29.jpg)

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