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【ダウン症ベビーとの別れ⑤】羊水検査

二度の胎児超音波検査を受けた結果、我が子には染色体異常の可能性があり、その中でもダウン症(21トリソミー)の可能性が高いことがわかった。

しかし、この検査では「可能性が高い」という診断しかできない。確定診断のためには、【絨毛検査】あるいは【羊水検査】が必要である。各検査の特徴は下記の通りである。

【絨毛検査】
・方法:母体のお腹に針を刺し、胎盤の一部である絨毛を採取。
・検査可能期間:妊娠10~17週
・流産リスク:約1%
・局所麻酔:要
・費用:約23万円
・実施施設:少ない


【羊水検査】
・方法:母体のお腹に針を刺し、羊水を採取。
・検査可能期間:妊娠16週~
・流産リスク:約0.3%
・局所麻酔:不要
・費用:約12万円
・実施施設:多い



早く検査結果を知りたかった私達にとって【絨毛検査】はとても魅力的だった。しかし、以下の理由により【羊水検査】を受けることに決めた。
・絨毛検査を受けるためには、転院しなければいけない。
・絨毛検査は、局所麻酔を使用するため赤ちゃんへの影響が心配。
・流産リスクは、羊水検査の方が低い。
・検査費用は、羊水検査の方が安い。




胎児超音波再検査の10日後、羊水検査を受ける病院にて検査説明を受けた。
(羊水検査のために、3回【検査説明、羊水採取、検査結果説明】病院を受診する必要がある。)

検査手順はお腹の上(皮膚)から細い注射針を刺し、子宮の中にある羊水を抜き取る。羊水に浮遊する胎児DNAを調べるようだ。
その後、超音波で胎児の様子を診察。いつも通り元気に動く赤ちゃん。検査結果次第ではお別れするかもしれない赤ちゃん。私はエコー映像を直視できないようになっていた。エコー映像を見ると「かわいいなぁ、元気いっぱいで嬉しい。」という感情が自然に湧き溢れてくる。同時に「検査結果がでるまでどうなるかわからない。単なる物体としてみよう」と感情に蓋をする。

愛しくて一秒も見逃したくないという母性と、その気持ちをかき消そうと努める理性、エコー検査は複雑な気持ちが入り乱れる葛藤の時間だった。




羊水採取日は、検査説明から2日後だった。

病院へ向かう電車の中、向かいの座席に20歳くらいのダウン症の女の子が座った。普段なら特に意識することはないのに、今日はチラチラみてしまう。「大丈夫。育てられる。」「いや…私が死んだ後、お腹の子の世話は誰がするの…」「大丈夫。産みたい。」と「いや、やっぱり……」を繰り返し、答えが出ないまま病院で検査を受ける。


病院につくと検査着に着替えて、手術台で仰向けに寝転ぶ。腕に点滴をして、お腹全体に消毒液を塗り、エコーで赤ちゃんの位置を確認しながら、注射針を刺された。
妊娠中の少しふくらんだお腹に注射針を刺すなんて想像するだけでも恐ろしく、かなり緊張していたが、意外にもチクっとした軽い痛みだった。インフルエンザ予防接種の方が痛いと感じた。

エコー画面に注射針の先端が”光る点”のように映っている。医師が注射器で羊水を吸い取る間、じっとエコー画面を見つめる。注射針をスッと抜いて羊水採取終了。注射針を刺してから抜くまで1分程度だった。痛みを感じたのは針を刺す瞬間だけだった。



採取した羊水は薄い黄色をしていた。あかちゃんのおしっこの色らしい。自分のお腹の中で赤ちゃんが確かに生きているということを実感した。車いすで病室へ移動し、1時間程ベットで横になって安静に過ごす。



隣のベットにいる人が帰る準備をしている様子がカーテン越しに伝わる。看護婦さんとの会話から察すると、私の1時間前に羊水検査を受けたようだ。自分と同じように不安でいっぱいの妊婦が近くにいることに少し仲間意識が芽生える。
親族や友人はみんな幸せな妊婦生活を送り、あたりまえのように健常児を出産している。羊水検査を受けた私達は、まちがいなく不幸な妊婦だ。
「辛いよね…。きっと大丈夫。お互い元気な赤ちゃんを産もうね。」と心の中でエールを送る。


1時間安静にして赤ちゃんの心拍に問題がないことを確認し、病院を出た。検査結果は5日後。とにかく長すぎる。


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