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夫編⑴ ダウン症べビーとの別れ

夫の視点から「出生前診断」について書かれている記事は少ない。

実際にタイトルの当事者になった時、ネットサーフィンを繰り返したが、そのような記事に出会うことはなかった。

同じような境遇の方々に少なからず、共感が得られればと思い、出生前診断から胎児の異常が見つかり、中絶した妻の傍らで感じていた気持ちや体験を夫の視点から記録することとした。


妻が「出生前診断」を受けるといった時、強く賛成も反対もしなかった。
というより、内容が大してわからないので出来なかったという言葉が正しいかもしれない。
漠然と高齢出産になるとリスクが高まるというのは知っていたし、結婚してニュースで取り上げられるのを目にする機会も増えてはいたが、それだけ当時は強い関心がなかったのだと思う。
(今ならニュースの表面性だけではわからない多くの課題、倫理的問題をはらんでいることが以前より理解できている)

妻が選択した「胎児超音波検査」は同伴で受診可能ということだったので、当時コロナ禍で一切エコー動画を見ることができなかった自分にとっては初めて赤ちゃんと会える機会となった。
検査で異常が見つかる可能性を全く考えなかったわけではないが、動いている赤ちゃんを見られる楽しみの方が勝っていたと思う。

初夏の午前中の受診でコロナ禍真っ只中に電車で1時間以上もかかる道のりは正直憂鬱だったが、天気もよく、駅から病院までの道のりは快適だった。

病院についてからは待合室で検査内容をスマホで調べながらゆっくり順番を待った。
多くのサイトには32歳であれば、99%以上の確率で異常がないことが書かれていた。

診察室に呼ばれ、医師がエコーで診察をはじめる。
初めて見る我が子に大いに感動したかと言われたらそうではなかったが、ただ動いている様子に不思議な気持ち、神秘的な印象を抱いたのを覚えている。

どちらかというとそんな気持ちというより、夫用の椅子の場所が非常に悪かった。最初は赤ちゃんの様子を説明してくれる医師に合わせて身を乗り出して画面をみていたが、次第に説明が少なくなっていったため、身を乗り出すのもやめて画面のよく見えない場所で検査の終了を待った。

検査時間は15分くらいだろうか。

妻はどこか心配そうな面持ちでエコー画面を見ていた。時々目を合わせお互いの様子を伺う。

心電図ではしっかり鼓動していることも確認できていたし、この段階では医学的に言う「染色体異常」が我が子にあるだなんて思いもしなかった。


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