“きつね”

新しく、鉄板屋“きつね”のバイトを始める 日常に飽きてきた頃、軽いノリで応募した かけもちして人との出会いを増やそう なんていう気持ち悪いくらい前向きな時期の自分がしでかしたことだ “きつね”の店長はおじさんだった ニコニコしてたら案の定 面接に受かった 心機一転 なんて思って始めると決めたわけだけど、いざ初日を迎えるとなると憂鬱でしかたない 心臓が絞られるようにドキドキして、焦って、名前も知らない喫茶店の求人に応募した 

たいていのことは心から謝ればなんとかなると思っている わたしは最低だけど、みんなきっとどこかしらで最低だから、自分を責めたりしない それでもしっかり反省したいと思ってる かけもち生活はすこし延期


こんなわしとて、高校生の頃は居酒屋さんでアルバイトをしてた へっちゃらだった 徐々に徐々に、なにかに気づいて、なにかを嫌悪して、いろいろ遮断した 居酒屋さんでバイトしなくなったら居酒屋さんでバイトを始められなくなる 街の雑踏から逃げたら街の雑踏へ戻れなくなる 我慢し続けることより、我慢を再開するほうがむずかしい おそろしい あいかわらず、アルバイトは大嫌いだけど、大学生つったって春休みはひまだけど、好きな映画より仲良い友達のほうが少ないけど、クラムボンの笑顔すら見たことないけど、私はがんばらないぞ お花屋さんの前を通りがかったとき、花につい見惚れて、すこし自分を好きになる

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