持ち物は、てのひらの希望ひとつ

どんな母子も笑顔に出来る助産師になりたい。
女性の役に立てる、出来ることなら女性を守れる助産師になりたい。

希望だけを握りしめて、良いか悪いか前も後ろも何が普通かも何もわからないまま、ドイツで生活して1年が経った。

#なりたい自分  のタグを見かけたとき、以前別の国に渡航する際の書類に「国籍や宗教に関わらず、どんな母子にも看護ケアを提供できる助産師になりたい」と書いたことを思い出した。

別に最初から海外志向だったわけではないし、ドイツもひょんな誘いから急遽決めた。人生、どこでどんな縁があるかわからないものである。

看護師の多い家系だったことも、自分が早産で生まれたことも、小学校で戦場カメラマンの写真集を見て「この子たちのところへ行きたい」と思ったのも、きっかけだった。浪人中に自治医大を目指す友人から地域医療という言葉を教えてもらい、ひとの日常生活の近くで看護をしたい、自分の住むまちのために働いた保健師の祖母のようになりたいと思って地域医療と助産学が学べる大学へ進学した。ついでに、ひとをぶん殴るには学歴かと思って大学院へ進んでみた。

大学院は居心地が好かった。小児看護といい成人看護といい、これが好き!これがしたい!というオタク気質な仲間が多く、助産学コースの中でも分娩が好きな人、性教育が好きな人、看護の先生になりたい人、とにかく海外に行きたい人、骨盤ケアが得意な人、いろいろいた。助産師になれば、都会でも田舎でも、先進国でも途上国でも働けるんだな、と漠然と思っていた。ここが自分の原点かもしれない。

新卒で就職した病院で働いている中で、外国籍の患者さんとたくさん関わらせてもらった。他では診られない難しい患者さんが紹介されてくることも多く、イスラム教の患者さんは診察時に露出出来る肌の面積が決まっているとか、医学的な根拠よりも宗教的な理由が優先されることもあるとか、どれも教科書には載っていないけれど、大切なことばかりだった。

さらに同病院では、母乳、不妊治療、流産、両親学級、性教育など部活のように色々なグループがあり、勉強会をしたり看護研究をしたりと楽しかった。自分がオタク気質なので、これが好き!と自分の分野を持っている人と親和性が高いのだと思う。

とりあえず日々の仕事に役立ちそうな母乳を選んで、5年ほどかけて資格を取ってみた。本当は私が母乳外来をすれば病院は加算が取れるらしいが、いまだに機会がない。宝の持ち腐れも良いところである。修士を取っても資格を取っても、給料は高卒や専門卒と一緒、これが看護師の世界。

学生の時からフィンランドのネウボラという産後ケア制度に興味があり、マリメッコもムーミンも好きだしいつか勉強しに行ってみたいなあと思っていた。取得した母乳の資格がオーストラリア発祥、ニュージーランドのLMC制度にも興味があったので、とりあえず英語圏を挟んでみるか!とオーストラリアに行ってみた。看護の勉強が出来たかと言われると自信はないが、数か月継続して子どもと関わる経験は初めてで、これはこれで楽しかった。

オーストラリア生活中盤でロシアとウクライナの色々が始まり、フィンランドのビザが難しくなってきたところ、ドイツ出身の友人が誘ってくれて急遽半日で準備してドイツのビザを取った。来てみたら思った以上に居心地が好かったので、「1年で帰国するつもりだったけど、もう少しここに居たいなあ」とぽつりと口にすると、あれよあれよという間にシッター先の家族が調べ上げてくれて、今は日本の助産師免許をドイツの助産師免許に書き換える手続きをしている。

ドイツの子育ては日本と「普通」とされることが全然違うので、なにが良い悪いじゃなくて、どんな背景や理由で、何が家族にとって合っているのか、快適なのか、ひとつひとつ考察する機会が増えた。水も空気も子育ても医療も制度も常識も全然違うので、日々勉強。

模索する中で子育てに関わる専門職の先輩にも出会わせてもらったので、もし誰か困っている人がいたら、自分が直接役に立てなくても「これはあの人の得意分野だ!きっと助けてくれる!」と紹介出来ると思う。そんな引き出しというか、手数が増えるのも楽しい。「これが普通だから」と終わらせてしまう大人には絶対になりたくない。一緒に考えよう、と言える人でいたい。

こんな時代だから、こんな助産師が居てもいい、と免罪符にして。
1つのことを極めてみたいけれど、今はたくさん引き出しを持った人になりたい。もちろん、専門職として知識も技術も併せて。どこでどんな母子や女性に会っても、なにかしらの引き出しからケアを提供できるようになりたい。何も手札がなくても、一緒に模索して考えたい。

日本でのキャリアも税金も中断して、貯金を切り崩しながらギリギリで生きているけれど。寂しさやドイツ語に心折れる日もあるけれど。これが未来で出会う患者さんへのケアに繋がると信じて、希望だけは握りしめていたい。

#なりたい自分

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