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蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #39

15

──夏休みが終わって、始業式が来てしまった。
 気が重い。夏休みの宿題が終わらなかったとか、そういうことではなくて……。FC部のみんなとどんな顔して会えばいいのかわからないのだ。部を二つに割ったのは晶也だけど、その切っ掛けを作ったのはあたし。休みたかったけど、休めば休むほど学校に行きづらくなってしまう。これで登校拒否になったら、FC以前の問題。
 逃げようかな、と何度も思ったけど……結局、教室のドアを開けてしまう。
 明日香はもう登校してるかな? いなければ即座に机に突っ伏して狸寝入りしてしまえばいい。何の解決にもならないけど昼休みまでの時間稼ぎはできる。
「みさきちゃん!」
 すでに登校していた、明日香が小走りで近づいてくる。
「いや、あの……えっと、お、おはよう」
「おはようございます! 久しぶりですね! わたし、楽しみです!」
「た、楽しみって何がかな?」
 明日香は無邪気な笑顔でぐいぐい迫ってくる。
「みさきちゃんとの試合、楽しみなんです! 凄く練習したんですよね!?」
「いや、凄く練習をしたかどうかはわからないけど……」
 明日香はどこまでも真っすぐでまぶしい。そういう性格だもんね。もしかしたら、あたしのこと恨んでるのかもしれないけど……FCが大好きだから恨みとか、そういうのが表に出てこないのかもしれない。
 ほんと、憧れるし、尊敬できるよ。あたしだってFCに夢中だけど……自信をもって大好きだとは言えない。あたしは…………滅茶苦茶な感情をどうにかしたいだけなのかもしれない。もし、FCに出会わなければこんな気持ちにならなくてすんだんだろうから、やっぱり大好きだなんて言えない。
「凄い練習したんだってわかってます!」
「わかってるって……どうして?」
「だって、その……晶也さんはみさきちゃんのFCに夢中になって、それで……付きっ切りでコーチしたんですから、そうじゃないとおかしいじゃないですか」
 ……そうだね。晶也を独占しちゃったのに、凄く練習してなかったらおかしいよね。
「うん。練習したよ。あたし……誰にも負けないつもりで秋の大会に挑むから」
「わたしもです!」
 ぶん、と髪を振り乱して、明日香は大きく頷いた。
「わたしも一生懸命に練習しましたから、みさきちゃんと試合するの楽しみなんです!」
「う、うん」
 明日香の勢いに呑まれてしまう。……さすが明日香だ。あははは、これって気持ちいい宣戦布告だよね。だったら、勢いで負けるわけにはいかないか……。
 今までの悲痛な覚悟? そういうのとは違う。もっと陽性の覚悟だ。これは、きっと……気持ちのいいことなのだと思う。もし、練習をしてなかったら、ここでこんな気持ちになれなかったに違いない。この気持ちを持てただけで、救われたような気がする。
 あたしは、ぐぐ〜、とのけ反ってから、とヘッドバンキングするみたいに、ぶん、と大きく首を振った。
「うん! 秋の大会、がんばろう!」
 素直な気持ちではない。負けるのは恐い。試合をするのだって恐い。晶也の誘いなんか断ればよかったって思う。それでも、明日香と向き合えてる。
「はい! がんばりましょう!」
 明日香がどういう気持ちのなのか、本当の所はわからない。でも、きっとあたしなんか問題ならないくらい前向きな気持ちを抱えてるんだろうって思った。
 それが暗くて歪んだ気持ちだとしても、心の量はあたしだって負けてない。
 だから、あたしは明日香から逃げずにいられるのかもしれない。