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蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #23

晶也の顔が近づいてくる。心臓は持つ? 肺も破裂しそうなんだけど……あれ? キスする時って、みんなどんな気持ち? 相手のこと好きだって気持ちでするよね? それなのに、あたしは自分の体の心配ばかり! なんか違うよね! ちょっと待って! やり直しを要求します!
 ンッ!

 ぴんっ、と電流が走り抜けた。晶也の唇があたしの唇に当たったのだ。
 すぐに離れると思ったのに、晶也は唇を微かに左右に動かした。
 こ、殺す気か!
 晶也が唇を動かすたびに、ハンマーで後頭部を殴られているような気がする。
 んぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ! は、は、は、は、は、は、は、は、挟まれた! 上唇を晶也の唇で挟まれた! キスって、ただ唇を合わせるだけじゃないの? これは、確実に殺しにかかってる! だけど抵抗できない!
 死ぬってば! そう思った瞬間、高笑いする覆面選手の姿が脳裏に浮かぶ。なんだ、これ! もっと、晶也のこと好きって気持ちになりたいのに! 善処するから消えて!
 このままじゃ、本当にどうにかなると思った瞬間、晶也は顔を離した。
 全力で息をする。肺が酸素を強烈に求めてる。頭がくらくらする。
「初めてのキスはもっと穏やかというか……。軽くチュッとするのでよかったのでは?」
「そ、そうかもな。……ンッ」
「ンッ!」
 ズキン、とした。小鳥が餌をついばむみたいに軽いキスをしてきたのだ。順番が逆なんじゃないかな? はふぅ。キスの儀式はようやく終わ…………。はぁ〜。ん? わっ!
「あ! ダメッ!」
 あたしが急に叫んだから、晶也がびっくりしてのけ反った。
 変だ。心が熱い。内臓が全部、溶岩になってしまったような気持ち。みんなこうなるのかな? あたしが変なのかな? キスして、幸せとか嬉しいとか、そういう気持ちになることは想像してたけど、こんな制御不能な感情に襲われるなんて!
「晶也のこと好きだって気持ちが溢れてきて、とてもよくない感じがする!」
「なんでそれがよくないんだよ!」
「だ、だって恥ずかしいことを口走ったりしてしまいそうで、自分が恐い。こんなの初めてだから。う、うあ〜。キスされただけでこうなる自分が恐い! 好き!」
「俺もみさきのこと好きだ」
「あんまり弱みは見せたくないのに! 言わずにいるのを我慢できない。だ、大好き!」
「それは弱みじゃないだろ。強みにしてくれ」
 う、うあ〜。キスされた後の方が絶対に晶也のこと好きになってる。
「はあっ、はあっ、はあっ、はっ……んっ!」
 じっとしていられなくて、あたしは晶也の胸のポカポカと叩いた。
「キスしたらダメになっちゃった。あー、どんどん好きになる! これ以上、好きになってどうするつもりなんだ、あたし!」
「なってくれていいけどな」
「ダメ! あたしは恐い女の子なんだよ。凄く面倒な性格してるもん」
「そんな自覚があるのか。いいって。みさきの面倒なとこも全部受け止めるつもりだ」
 受け止めるって!
「カッコイイ! こんなこと言いたくないのに! カッコイイなもう、晶也は!」
「なんで言いたくないんだよ!」
 晶也はあたしの両肩に手を置く。
「もう一回、キスさせてくれ」
「こ、これ以上、好きにさせてどうするつもりだ! もはや何かの犯罪なのでは?」
「もう一回しないとなんかいろいろ収まらない気がしてさ」
 うあ〜、キスされたい! 何回だってされたいよ! バカ!
「……うっ。い、いいよ」
「優しくするから」
「や、優しいキス!? くやしい! さ、されたい!」
「なんでくやしいが挟まるんだよ。……するぞ」
 あたしがうなずくと晶也は再び顔を近づけてきた。唇が触れる。……柔らかい。
 さっきのキスよりハッキリと感触が分かる。男の子の唇もこんな風に柔らかいんだ。男の子って、体のあっちこっちが硬いと思ってたから意外。こんなこと知ってしまったら、これからは晶也のこと変な目で見てしまいそう。
 晶也は時間をかけて、唇をゆっくりと動かしてから顔を離した。
「好きだ、みさき」
「う、うん。あたしも……好き」
 頬がほかほかしてる。目玉焼きくらいなら作れるかも。
「お付き合いしてください」
「は、はい」
 あたしはこれ以上がないくらい、真剣に頷いた。
 これからどのくらい晶也のことを好きになっちゃうんだろう? それを考えると、恐い気もするし、嬉しい気もした。