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蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #21

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 夕焼けが消えたばかりの道を晶也と並んで歩く。互いの顔が青っぽく見える夕方と夜の間の曖昧な時間。昼間の暑さも和らいでいて気持ちいい。歩いているだけで、疲れが空気に溶けて消えちゃいそうだ。こんな時間になってしまったのは、練習後にみんなで今後の予定や乾さん対策について話し合っていたからだ。
 話をしているうちに、あたしの家についてしまう。晶也は歩調を緩めて、門の側で立ち止まる。あたしもそれに合わせる。
 晶也がまだ話したそうにしてるから、促すようにあたしは正面に回ってあげる。
「いろいろ話し合ったけど……結局、乾に勝つ作戦は大きく分けて三つあると思うんだ」
「もう答えはあるんだ? それなのにあたしに考えさせるなんて意地悪だな〜」
「俺の答えが正しいのかわかんないからな。考える人は多ければ多い方がいいよ」
「で、三つって何?」
「一つは圧倒的なスピーダーになること」
「部長みたいになるってこと?」
「そうだ。試合開始直後からスピードで強引に主導権を握ってそのまま最後まで離さない。乾がどんなポジションを取っていようがスピードで圧倒する。……乾より遅いスピーダーだと使えない作戦だから、みさきには不可能だな」
「あたしには不可能っていうか、乾さんはスピード勝負で部長に勝ってるんだから、ほとんどのスカイウォーカーに無理な作戦なんじゃない? で、次は?」
「圧倒的なファイターになる。どんな体勢からでもドッグファイトで勝てる選手」
「上のポジションをキープされても、ってこと?」
「そういうことだ。どういう状況だろうとタッチする時は接近しなきゃいけないんだ。どういう姿勢からでもドッグファイトに持ち込める強さがあればいい」
「それってかなり強引な方法だね」
「そうだな。……でも明日香はこれを選択するんじゃないかな」
「どうして? 明日香はファイターじゃなくて、オールラウンダーだよ」
「明日香はエアキックターンが得意だろ? 練習したことのない応用技も試合で出した」
 真藤さんとの試合で、練習したことのない連続エアキックターンという技を出した。
「メンブレンを操る特殊な移動が得意ってことは不規則な動きができるってことだ。連続エアキックターンみたいに変則的な動きなら、乾を混乱させて得点を奪えるかもな。明日香はそれに挑戦するんじゃないかと思うぞ」
「……あたしはメンブレン系の技、使えないんだよね」
「あれは反重力子を肌感覚でわかる選手じゃないと難しいからな。まあ、無理して使わないでも、他にも使うべき技はいろいろある」
 気にするな、というように晶也は言った。
「……で、最後の一つは?」
「乾と同じになる。上のポジションをキープする作戦を使うんだ」
「でも、どちらかが上になるわけだよね?」
「だからそうなった時は次のラインに移動するか、下から上のポジションを取ることになる。上をキープしようとする相手から上を取る方法はまだわからないけどな」
「乾さんは下のポジションから上のポジションを取る方法を持ってるのかな?」
「見たことないけど、きっと持っているんじゃないか? というか、持っていると考えないとダメだ。こっちの想像力不足で負けました、なんてことになりたくない」
「……だよね」
「この三つからどれを選ぶか決めておく必要があると思うんだ」
 ──あたしがこれからどうするのか。晶也は言いづらいだろうから、あたしから先に言ってあげた方がいいと思うんだ。
 今でも卑怯だって思う気持ちは消えてない。だけど………………認めよう。認められるあたしになりたいんだ。晶也が一生懸命、あたしを引っ張ってくれているのに、その邪魔をしたくない。あたしだって、ちゃんと前に進みたい。だから、言おう。
「あたしは乾さんのスタイルを目指す。それが現実的だってことくらいわかるからさ」
 あたしを挫折させた作戦だけど……心を硬くする。決意する。あたしは──飛ぶ。
「そうだな。俺もそれがいいと思う」
「マネで勝負するのはみっともない気がするけど、こっちは必死ですからね〜」
「みっともないなんてことはない。優れた作戦をマネすることで競技は進化するんだ。堂々とやればいい。それに、身に着ければ自然と打開策が見えるかもしれない」
「今更だし、前にも言ったかもしれないけど……覚悟を決めてやるね」
「わかってる」
「だからさ……」
 小走りで、晶也の前に出た。
 これはちゃんと言っておこう。あたしはもう晶也に落とされてしまっているんだから、こんなこと言わなくても、晶也だってわかってるだろうけど……。それでもちゃんと言葉にしておきたい。晶也をどう思ってるのか、ハッキリ伝えておきたい。
 晶也に半歩、近づく。
「あたし、晶也のことが好き」