生きる場所
・何しれっと帰ってきちゃってんの
誰かが横に立っているのに一瞬気付かなかった。
「え、あれ、Tさん!」
「そこで打ち合わせがあったからさ」
「来てくださったんですか」
「何しれっと帰ってきちゃってんの」
「健康になりそうです」と言ったら「俺も俺も」って。何ですかそれ。
髪を切ったので後ろ姿ではわからないはずだった。来てくれたんだ。200人超の部署で、まだ座席表のようなものもない。来てくれたんだ。
・名刺を持ってるんですよ
「うちの子どもが」
「はい」
「◯◯さんの名刺を持ってるんですよ」
「???」
「会社見学で交換してもらったって」
「!!!」
思い出した。入社直後の夏休みに子どもたちが遊びに来た。そのときもいまもわたしは名刺を持っていないので、ワードで作って用意していた。
かわいらしい男の子が来て「名刺を交換してください」と言った。わたしはあの名刺、どこにやったかなあ。
・手厚い
「ここに、ありがとうよろしくって書いてあるので」
「はい」
「何に対するありがとうか調べます」
「えっ」
「履歴を見に行きます」
「そんなことしてるんですか?」
「はい」
「手厚い…!」
してるんです。
・繋がりますね
「わたし何度お電話したかわからないくらい」
「覚えてます」
「何がわからないかもわからなくて」
「覚えてます」
「誰に訊いてもお調べできますって言っていただいて」
「繋がりますね」
前の部署に異動して1年目、本当に何もわからなかった。知識と現象が結びつかない。何度も何度も実例をお伝えして教えていただいた。やっぱりわからないと思って電話をしてほかの方が出られたときも、みなさん同じように親身にしてくださった。
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その部署に異動した。
前にいた部署と同じフロアの反対側に。
企画、開発、オペレーション。5年ですべてを渡り歩くことになった。1人三層構造じゃん。
ちなみに、このグループは過去にわたしが相対して散々暴れ回ったお打ち合わせに出席していたグループでもある。必死だったんです。本当です。
「そんなことあるんだねえ」
「あるんだよ…」
「すごいねえ」
「死のうかな…」
「死なないよ」
頭が痛くない。起きられるし、遅刻もしない。
仕事後は灰になっているけれど、いずれ慣れると思う。
異動してはじめて、いままでどんなに無理していたかわかった。
よかった。
よかったよ。
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