見出し画像

「話をしたい」

4月に異動することになった。
いまの会社に勤め始めてもうすぐ5年、いわゆる事務員であるわたしが2回も、チームとかでなく個人で仕事を背負って動くなんてどうかしてる(と思う、よそがどうかは知らない)。
わかっていたので衝撃はなかった。でも、そうなのかないやしかしどうだろうそもそもどこへ?などと思いを巡らせながら過ごすのは疲れた。
あんまり疲れた疲れた言いたくないが疲れた。
本当に疲れて内示があって以来まともに起き上がれていない。
長い長い部署名だったけれど想像通りだったので「わかりました」とだけ答えた(21文字だ)。「大丈夫? もう1回言う?」と訊かれたので「いいえ」と答えた。メモをする必要はない。誰がいるのかもそらで言える。わかっていたから調べてあった。

無茶苦茶忙しかったのでキーボードをだんだんしていたら肩と腕が痛くなった。整骨院の日だから構わない。ずっとだんだんし続けた。5時に起きるのは無理だった。目は覚めたけれど起き上がらなかった。7時前から始めてデータを落とそうとしたらシステムが時間外だった。ふふん。外側から作り7時ジャストにデータを落とし次のシステムを立ち上げたところそちらは8時からだった。ふん。
前日に「12時に間に合わせます。間に合わなそうなときは11時半までに連絡します」と伝えてあった。
8時20分にいったんやめて出社した。そしてそのままだんだんやって11時半ちょうどに申請を送った。やればできるんだって。

昼は久しぶりに外に行った。
ここしばらくずっと自席でおにぎりを食べていた。そうすると何かしか仕事をしてしまう。休憩をしないと疲れる。あまり疲れる疲れる言いたくないが疲れる。午後に失速する。
たまにはいいかなと思って外に行った。
のろのろ戻ってきてパソコンを持って食堂に行き打ち合わせをひとつして席に戻ってきたところに前の上司がやってきた。
「元気?」とか「荷物置かせて」とかなんとか言ってから間があった。両手に空気のかたまりを持ったような感じで体の前でぶんぶんさせているうちに口が勝手に発語した。「は、は、話がしたい」なんじゃそりゃ。「何だかかんだかがあって」とかなんとか言うからもう一度「話がしたい」と言った。

「したいよな」
「したい」
「するから」
「話がしたい」
「ちょっとまたあとで」

忙しい人だ。
もう特段だんだんすることはない。
何かしていたらまた現れたが去って行った。忙しい人だ。ややあって戻ってきた。

「時間ができた」

深く反省することがあった。
「最初の日に」「うん」「こうこうこういうことをおっしゃいましたね」「言った」「◯◯◯◯(←伏字)」「俺が先に◯◯◯◯」

「ばちが当たったかな」そこまでは言ってない。そういう発想がないから。そんなことを言わせるために言ったんじゃない。事実だから言ったんだ、けど、事実は事実だからと言って口に出す必要があるかっていうと、ない。はじめて深く反省した。しつこかった。覚えていないかと思ったから言ってしまった。
正直なに言ってるのかよくわからないし、自分の身に悪いことが起こったとも思っていないし(むしろ良いことだと思う)、ただ事実を一緒に回想したかっただけだよ。他意はないし悪意もない。そういうタイプじゃない。何か伝えたいのは伝えたいと思っているからで、伝えたいのは知ってほしいから。知ってほしいっていうのはさ、つまり好意の表れでしょ。ばちなんか当たってもらっちゃ困るんです。

「キャンプも始まったし」

そう、そっちの話をしましょうよ。てかキャンプはもう終わったよ。

あなたが最初の日に口にした言葉はわたしの何かを一度は完全に破壊した上に健康を損なうきっかけになり結果わたしは休職し1年以上は不調が続きいまもそれは完治したとは言えない。言えないのだけれど、わたしはあなたをめちゃくちゃ信頼していますね。だからけっこう前向きだし、ほとんど楽しみな気持ちさえある。本当に。
春が待ち遠しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?