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銀河回転寿司999

この文章は現在書いたものではなく、2001年5月2日に個人ウェブサイト「plustic mind *」に掲載したものです。

[スシロー]
 わー。
 これが銀河回転寿司かぁ。

[メーテル]
 そうよ、スシロー。
 これが銀河回転寿司。
 人が己の欲するものを求め、
 それを欲するがままに
 手にすることが許される世界。
 スシローは初めてだったわね?

[スシロー]
 ああ、メーテル。
 こんなの初めてだよ!
 すごい……寿司が周ってる。
 アッハハ、こりゃいいや!

[メーテル]
 スシローも欲しいものを
 好きに選んでいいのよ。
 私はまずアガリを
 もらうことにしましょう。

[スシロー]
 う~ん、何にしようかなぁ。
 こう動かれると迷っちゃうよ。

(車掌さん)
 次はトロサーモンたたき~
 次はトロサーモンたたき~

[スシロー]
 トロサーモンたたき?
 どんなネタなんだろう?

[メーテル]
 ふふふ……。
 食べてみれば分かるわ。

[スシロー]
 見た目は普通のサーモンだ……。

 (食べる)

 ん?!凄い脂だ!
 なめらかな舌触りが本当に
 トロみたいだよ、メーテル!

[メーテル]
 気に入ってもらえて嬉しいわ。

 スシロー、御覧なさい。
 びんちょうまぐろが来るわよ。

[スシロー]
 よ~し、食べてみよう。
 あっ!
 前の人に取られちゃったよ。
 口惜しいなぁ。

[メーテル]
 そう……。
 この星ではベルトコンベアの
 前の方に座った者が
 優先的に寿司を取れる。
 そういう決まりなのよ。

[スシロー]
 次のを待てばいいけど、
 なんか腑に落ちないよ。

 ……メーテル、見てご覧よ。
 後ろの方の人は
 なかなか取れずにいる。

[メーテル]
 仕方がないことなのよ……。
 誰しもに平等に機会が
 訪れるわけではないもの。

 みんなそれを知っても、
 それでもこの星にいるのよ。

[スシロー]
 そうなのか……。

 メーテル、何だか
 夢の世界っていうのも
 大変なんだね。

[メーテル]
 そうね。

[スシロー]
 良く見たら僕たちの
 ベルトコンベアは、
 向かい側から折り返して
 戻ってくる線じゃないか。

 これじゃ倍の人の
 後ろにいるのと同じだよ。

[メーテル]
 ダメよ!スシロー。
 向こうのコンベアの
 寿司を取っては。

[スシロー]
 どうしてさ?
 折り返したら結局
 僕たちの前を通るんだよ?
 同じことじゃないか!

[メーテル]
 折り返す 2本のコンベアは
 確かにすぐ側にあるけれど、
 その間には越えてはならない
 大きな壁があるのよ。

 人はそれを
 「ジェリコの壁」と呼ぶわ。

[スシロー]
 ……。

[メーテル]
 欲しいものが手に入る……。
 誰しもその言葉に惹かれて
 この星に来る。

 でも本当に欲しかったものを
 手にできる者は少ない。
 それこそが「夢」、
 そのものなのよ……。

[スシロー]
 ……。

[メーテル]
 さぁ、スシロー。
 選びなさい、寿司を。

[スシロー]
 選べないよ、メーテル!
 ボクは選べないよ!

[メーテル]
 何を言うの?スシロー。
 この星に来たいと言ったのは
 貴方自身だったでしょう?

[スシロー]
 そうさ、ボクだ。
 でも選べないよ!
 食べたいものがみんな
 先に取られてしまうんだ!

[メーテル]
 でも貴方は選ばなくてはならない。
 欲しいネタが来るのを
 ひたすら待つルートと、
 インターホンを押して
 新しく握ってもらうルート。

 ひたすら待つルートでは
 来るか来ないか分からないし、
 万が一来ても誰かに先に
 取られてしまうかもしれない。

 でも新しく握ってもらうルートでは
 インターホンの向こう側で
 苦々しく舌打ちする
 店員を気にしなくてはならない。

 さぁ、選びなさい!
 スシロー!

人は誰でも幸せ探す 旅人のようなもの
希望のネタに巡り合うまで ガリ齧り続けるだろう
きっといつかは 君も出会うさ 青背の魚に

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