銀河回転寿司999
[スシロー]
わー。
これが銀河回転寿司かぁ。
[メーテル]
そうよ、スシロー。
これが銀河回転寿司。
人が己の欲するものを求め、
それを欲するがままに
手にすることが許される世界。
スシローは初めてだったわね?
[スシロー]
ああ、メーテル。
こんなの初めてだよ!
すごい……寿司が周ってる。
アッハハ、こりゃいいや!
[メーテル]
スシローも欲しいものを
好きに選んでいいのよ。
私はまずアガリを
もらうことにしましょう。
[スシロー]
う~ん、何にしようかなぁ。
こう動かれると迷っちゃうよ。
(車掌さん)
次はトロサーモンたたき~
次はトロサーモンたたき~
[スシロー]
トロサーモンたたき?
どんなネタなんだろう?
[メーテル]
ふふふ……。
食べてみれば分かるわ。
[スシロー]
見た目は普通のサーモンだ……。
(食べる)
ん?!凄い脂だ!
なめらかな舌触りが本当に
トロみたいだよ、メーテル!
[メーテル]
気に入ってもらえて嬉しいわ。
スシロー、御覧なさい。
びんちょうまぐろが来るわよ。
[スシロー]
よ~し、食べてみよう。
あっ!
前の人に取られちゃったよ。
口惜しいなぁ。
[メーテル]
そう……。
この星ではベルトコンベアの
前の方に座った者が
優先的に寿司を取れる。
そういう決まりなのよ。
[スシロー]
次のを待てばいいけど、
なんか腑に落ちないよ。
……メーテル、見てご覧よ。
後ろの方の人は
なかなか取れずにいる。
[メーテル]
仕方がないことなのよ……。
誰しもに平等に機会が
訪れるわけではないもの。
みんなそれを知っても、
それでもこの星にいるのよ。
[スシロー]
そうなのか……。
メーテル、何だか
夢の世界っていうのも
大変なんだね。
[メーテル]
そうね。
[スシロー]
良く見たら僕たちの
ベルトコンベアは、
向かい側から折り返して
戻ってくる線じゃないか。
これじゃ倍の人の
後ろにいるのと同じだよ。
[メーテル]
ダメよ!スシロー。
向こうのコンベアの
寿司を取っては。
[スシロー]
どうしてさ?
折り返したら結局
僕たちの前を通るんだよ?
同じことじゃないか!
[メーテル]
折り返す 2本のコンベアは
確かにすぐ側にあるけれど、
その間には越えてはならない
大きな壁があるのよ。
人はそれを
「ジェリコの壁」と呼ぶわ。
[スシロー]
……。
[メーテル]
欲しいものが手に入る……。
誰しもその言葉に惹かれて
この星に来る。
でも本当に欲しかったものを
手にできる者は少ない。
それこそが「夢」、
そのものなのよ……。
[スシロー]
……。
[メーテル]
さぁ、スシロー。
選びなさい、寿司を。
[スシロー]
選べないよ、メーテル!
ボクは選べないよ!
[メーテル]
何を言うの?スシロー。
この星に来たいと言ったのは
貴方自身だったでしょう?
[スシロー]
そうさ、ボクだ。
でも選べないよ!
食べたいものがみんな
先に取られてしまうんだ!
[メーテル]
でも貴方は選ばなくてはならない。
欲しいネタが来るのを
ひたすら待つルートと、
インターホンを押して
新しく握ってもらうルート。
ひたすら待つルートでは
来るか来ないか分からないし、
万が一来ても誰かに先に
取られてしまうかもしれない。
でも新しく握ってもらうルートでは
インターホンの向こう側で
苦々しく舌打ちする
店員を気にしなくてはならない。
さぁ、選びなさい!
スシロー!
了
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