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生物基礎演習:⑤ 腎臓~濃縮率計算~     by 茶茶 サティ (無料)

 


1,【単位系の確認】

 濃縮率の計算は、さほど難しくありません。面倒でありますが、少なくとも難問ではないと思います。にもかかわらず生物基礎の質問ベスト10には必ず入るだろうと言う位質問が多い分野です。

 では例によって、単位系の確認から入ります。

   1m(メートル) 
= 100cm(センチメートル)
= 1000㎜(ミリメートル) 
= 1.0×10^3㎜(ミリメートル)  ですよね。

逆に
1㎜(ミリメートル) = 1.0×10^-3m(メートル)
という関係も成り立ちます。

 接頭辞m(ミリ)には「千分の1」とか「10^-3」の意味があるのです。

 

 縦横高さがそれぞれ10cm(センチメートル) × 10cm(センチメートル) × 10cm(センチメートル) の体積、つまり1(L)という体積は、

 1(L(リットル)) = 1000(m(ミリ)L(リットル))
 = 1000(cm(立法センチメートル)^3) 立法センチメートル
 = 1000(cc(シーシー))    シーシー

と表現することもできます。ここまではよろしいですか?

また、1mLと1cm^3 と1cc は同じ量を指すワケですね。

 

2,【濃度の確認】

 ではここで濃度の定義を確認しましょう。腎臓での計算問題で使うのは

ⅰ:質量%濃度 = 100 × 溶質の質量(g) / 溶液(g)
  なお、溶液とは溶質(溶けているモノ)+溶媒(溶かしている液体)  
  の総体です。

ⅱ:溶液1mLあたりに含まれる溶質の質量mg:(mg/mL)
  たとえば0.4(mg/mL)は、溶液1mLあたり溶質が0.4mg含まれるこ
  とを意味します。
  このとき分母の方に「1」を追加することがポイントになります。

  これ、実は密度と同じ単位なんですよね。


ではそれぞれの濃度について、軽くジャブ程度の設問を…


設問1 ⅰについての計算演習です。
 質量%濃度を求めよ。

 ① 塩化ナトリウム 5gを 水95gに溶かした溶液
 ② 塩化ナトリウム10gを 水90gに溶かした溶液
 ③ 塩化ナトリウム10gを 水100gに溶かした溶液
 ④ 塩化ナトリウム 8gを 水152gに溶かした溶液

  含まれている溶質の量(g)を求めよ。
 ⑤ 12%塩化ナトリウム液100g中の塩化ナトリウム(g)
 ⑥ 8%塩化ナトリウム液75g中の塩化ナトリウム(g)
 ⑦ 0.3%塩化ナトリウム液75g中の塩化ナトリウム(g)
 ⑧ 0.07%塩化ナトリウム液150g中の塩化ナトリウム(g)

  さあ、無事に迷わず式を立てることができたでしょうか?

 サティの予想では、⑦⑧で2ケタ多く算出した方が多いかと思いますが、いかがでしょう。解答例を示しておきます。

 
解答例(有効数字は気にしてません)
 設問1-
 ① 100×5 / (5+95) = 5%

 ② 100×10 / (10+90) = 10%

 ③ 100×10 / (10+100) = 90.9%

 ④ 100×8 / (8+152) = 5%

 ⑤ 12% = 100×A⑤g /100g   A⑤g=12g

 ⑥ 8% = 100×A⑥g / 75g   A⑥g=6g

 ⑦ 0.3% = 100×A⑦g / 75g  A⑦g=0.225g

 ⑧ 0.07% = 100×A⑧g /150g  A⑧g=0.105g

 
 ⑤~⑧については、意外と 100×を忘れるヒトが多いものですが、あなたは大丈夫でしたか?

 

設問2 ⅱについての計算演習です。
 ① 6(mg/mL)の溶液 30mL中の溶質の質量mg
 ② 9(mg/mL)の溶液150mL中の溶質の質量mg
 ③ 25(mg/mL)の溶液250mL中の溶質の質量mg
 ④ 20(mg/mL)の溶液 3mL中の溶質の質量mg

 難なく答まで行きついたかと思います… が、実戦でちゃんと使えるかが肝腎ですよ。

 
設問2-解答例(有効数字は気にしてません)

① 6(mg/mL)× 30mL = 180mg

② 9(mg/mL)×150mL = 1350mg

③ 25(mg/mL)×250mL = 6250mg

④ 20(mg/mL)×3mL  = 60mg

 もしも答を(g)で要求されていたら、1000で割ってください。例えば③なら 6.25g になります。


 また、なんで掛け算になるのか悩んでいる方のために、2つの解説を添えておきます。
 
 ひとつは… 単位をよく見てください。掛け算すると(mL)が約分されて、(mg)だけが残ります。

 二つ目は計算の根本です。①を例にとります。

   1mL中に6mg溶けているので、30mL中にはA①mg溶けている
数字を下に降ろして比例式を作る
   1mL : 6mg = 30mL : A①mg
内項の積は外項の積に等しいので
   A①mg × 1mL = 6mg × 30mL
  ∴A①mg = 6mg × 30mL / 1mL = 180mg

 

 今度は実にばかばかしいことを考えていただきましょう。でもコレ、実は腎臓にまつわる計算でもっとも理解してもらえないところなのです、不思議ですが…

 お盆休みで帰省したところ、祖父母から封筒に入れた5000円をもらいました。そのお金でTシャツを買いましたが、封筒の中には2000円が残っています。(ちなみに他の金銭的出入りはないものと仮定します)
 さあ、Tシャツのお値段はもらったお金の何%にあたるでしょうか。


 はいはい、答は60%、そのとおりです。
ただし、ここで言いたいのは答ではなく、解き方の過程です。

 まず、カネの流れをまとめます。以下のAとBとCだけで、他はありませんよね。

 A:もらった金額 5000円
 B:Tシャツ代金 3000円
 C:封筒の残金  2000円

 ここで、はい、ちょっと待った。
AとCは記載がありますが、Bはどうやって求めたのですか?

 A:もらった5000円 = B:Tシャツ代 + C:残金2000円
ですから、もちろん
 B= A-C = 5000-2000 = 3000円 ですよね。

 ここでもう一度最初の問いを思い出しましょう。
Tシャツのお値段(3000円)は、もらったお金(5000円)の何%にあたるでしょうか。

 式にすると、 100 × 3000 / 5000 = 60%

答案らしく計算の過程をすべて記載したって、
  100 × (5000-2000)/5000 = 60%
ですから、どこも難しいことはないハズです。

 
 じゃ、このまま実際に出るパターンへ行っちゃいますか…


3,【解答の本筋】

 
設問3
 腎臓では血液をろ過して、尿素を0.3(mg/mL)含む原尿が1分あたり120mL生成されている。ここから主に水分を再吸収して尿が作られるが、同時に何割かの尿素は(再)吸収され、体内に戻されてしまう。
 尿素を20(mg/mL)含む尿が1分あたり約1mL生成されるとするとき、
再吸収された尿素はろ過された血液中の尿素のうちの何%に当たるかを計算して答えよ。

 さて、尿素。
尿素の解説はあとに譲って、ここでは計算をやり切ってしまいましょう。


 尿素は3種類登場しています。

 A:原尿中の尿素。問題文では「ろ過された血液」という名前で登場し
   ています。だってリード文にあるように、血液をろ過したものが
   原尿ですからね。
   尿素は0.3(mg/mL)の濃度で120(mL)ですから、その量は
   0.3(mg/mL)×120(mL) = 36(mg) ですね。

   上の式自体は以下の方法でも導けます。
    1mLで0.3mgだから、120mLならX(mg)
   そのまま数字を下ろして比例式にします。
    1mL:0.3mg  = 120mL : X(mg)
   外項の積は内項の積に等しいので、
    X(mg) = 0.3mg × 120mL / 1mL
         = 36(mg)
 
 B:再吸収された尿素… この量はここまでのところ不明です。
   題意からみて、最終的な解答は、 100×B/ A 
   を求めればよいことは明白なのですが…

   ここは… さっきのTシャツの代金と同じです。もしもCがわかる
   なら、B=A-C で簡単に求めることができるはずです。

   つまり 100×(A-C)/ A の形に持っていけば良いのです。

   では、Cはどうでしょうか?

  C:尿中に排出された尿素
   文中では20(mg/mL)含む尿が1分あたり約1mL生成されること
    になっています。ではその量を計算してみましょう。
    
    20(mg/mL)×1(mL) = 20(mg) ですね。
    もちろん比例関係で解いても構いませんが、これはさすがにわかる
    でしょう。

 さてAがわかり、Cも計算できましたので、式に入れてみましょう。

 解答を導く式と答
  100×B/ A = 100×(A-C)/ A
  = 100×(36-20)/ 36 = 44.4(%)
                        答 44.4(%)


 理屈は以上です。ですが、まだ「濃縮率」や「イヌリン」については触れていませんでしたね。ここからはそれを解説してみましょう。


4,【イヌリン】

 イヌリンはゴボウやキクイモに含まれる水溶性の多糖類(食物繊維)です。動物には不要な成分であり、腸や腎臓から体内に吸収されることはありません。従って動物体内取り込ませるときには注射または点滴で直接血管内に注入する必要があります。

 血管内のイヌリンは腎臓の糸球体から腎細管へこし出されますが、腎細管では一切再吸収されることなく、膀胱へと排出されます。

 つまり、★原尿に入った量 = 尿中に排出される量 です

 上で述べた A,B,C に分別するなら、A=C で、B=0 になるという、そんな物質なのです。

 

5、【希釈率と濃縮率】

 醤油という日本人のソウル調味料は御存知ですよね。海外旅行に1週間ほど出かけると、一種の禁断症状がでませんか? 日本に着いたとたんにあの醤油の味と香りを口と鼻腔に入れたくてソバ屋やすし屋に駆け込むのがサティの常でありました。

 さて1mLの醤油を皿に取り、同量の水を加えて混ぜます。これが「2倍に希釈する」操作ですね。体積が2倍になるのは当然として…

 では濃度は何倍になったでしょうか? 

無論… 1/2倍ですよね。

 
 ではさらに水1mLを加えて攪拌しましょう。体積は3倍になりますが、濃度は最初の1/3倍になるはずです。水を合計で9mL加えれば体積は10倍、濃度は1/10倍になることがおわかりいただけるでしょう

 ちょっと表をつくっておきましょう。

 
名前    混合  体積合計 体積比 濃度比

 原液         1mL  1倍  1  倍
 2倍希釈  水1mL   2mL  2倍  1/2 倍
 3倍希釈  水2mL   3mL  3倍  1/3 倍
 :
10倍希釈   水9mL 10mL  10倍  1/10倍
  :
100倍希釈   99mL  100mL  100倍  1/100倍
  :
120倍希釈   119mL  120mL  120倍  1/120倍

 (なぜ120倍までにしたか… それはこの120倍希釈液を「原尿」に例えた
  かったからです。そして元の醤油を「尿」に例えたかったからです。)

 
 ここまで「醤油原液」を基準にして濃度や体積を書いてみました。こちらは単に薄めるだけなので、そう難しくはないと思います。

 今度は視点を逆にして、薄めた希釈液を煮詰めていきます。水分を飛ばして濃くしていくイメージです。だんだん濃くなるので、上下も入れ替えてみましょう。これは原尿から水分を飛ばして濃縮し、尿を作っていく過程を模しています。
 

名前    蒸発量  体積   体積比   濃度比
薄い液     0mL   120mL   1倍    1倍
(これを原液とする。そしてこれが原尿のイメージ)
 :
1.2倍     20mL  100mL   1/1.2倍  1.2倍
 :
10倍     108mL  12mL   1/10倍  10倍
 :
12倍     110mL  10mL   1/12倍  12倍
 :
40倍     2mL    3mL   1/40倍   40倍
 :
60倍     1mL    2mL   1/60倍   60倍
 :
120倍濃縮液  119mL   1mL  1/120倍  120倍
 (原尿から水を再吸収するイメージ。この濃縮された液が尿のつもり)

 ちょっと細かく区切りすぎたかなぁ… でも希釈とか濃縮ってこういうことだってことはお分かりいただけたかと思います。

 

6,【ネフロン】

 話を腎臓に戻します。
ネフロンは別名「腎単位」であり、ネフロンの集合体が腎臓とも言えます。その働きは主に、
 ①血液(体液)の「水分と塩分(つまり体液濃度)」を調節する
 ②血液中の老廃物(主に尿素)を集め、尿として膀胱へ送る(捨てる)
ことです。

ネフロンは以下のⅰ~ⅲの3つのパーツを指す総称です。
 ⅰ:糸球体(毛細血管が球状になっていて、血圧によって血しょうが血管
   壁でろ過される。ろ過された血しょうを「原尿」という)
 ⅱ:ボーマンのう(ⅰの原尿を腎細管に送る。)
 ⅲ:腎細管(原尿を集合管まで送るが、途中で必要成分をエネルギーを用
   いて回収する。この作用を「再吸収」という)

  なお、ⅰとⅱだけを「腎小体」または「マルピーギ小体」とも呼びます。マルピーギはイタリアの腎臓研究者の名前に由来します。

 あああ、ややこしいですね。

  さて、①の血液(体液)の「水分と塩分(つまり体液濃度)」を調節するという働きは体液中の細胞にとって重要な働きです。体液とは血液、リンパ液、組織液の3つを指しますが、ここでは代表を血液として話を進めます。

  血液中には様々な陽イオンや陰イオンが存在しますが、その濃度は間脳視床下部等で監視され、厳密な制御(コントロール)を受けています。その代表がナトリウムイオン(Na+)です。Na+が少ないときは間脳視床下部からの自律神経の働き、および「副腎皮質刺激ホルモン」の刺激により、副腎皮質から「鉱質コルチコイド」の分泌量が増え、これが腎細管での「Na+の再吸収を促進」させるのです。いったんは原尿中に入り、尿として捨てられてしまいそうだったNa+はこうしてまた体内に戻され、お役に立つワケです。

 逆にNa+が多すぎる場合は逆の作用が起き、尿中にどんどん捨てることになります。

 
 同様に水分も再吸収率が調節されています。ここに関わるホルモンは、脳下垂体後葉が神経分泌する「バソプレシン」です。バソプレシンは主に腎臓の集合管(腎細管が多数集合した太い管)に働きかけ、水分の再吸収を促進します。
 バソプレシンが多く分泌されると、捨てる水分が身体に残りますよね。
では尿の量はどうなりそうですか?

  そう、尿量は減ります。尿をたくさん出させる作用を「利尿作用」と呼びますが、バソプレシンが作用すると利尿の反対の状態になります。そこでついた別名が「抗利尿ホルモン」です。

 実はもう一つ別名があります。体内の血管はすでに決まった分しかありません。そこに多くの水分(血液)があると、血圧はどうなりそうですか?

 そう、血圧は上がりますよね。だからバソプレシンには「血圧上昇ホルモン」とも呼ばれるのです。ああ、共通テストではバソプレシンの一点張りでOKですから。


 こうして鉱質コルチコイドによって塩分の量をキメ、バソプレシンによって水分の量をキメると、塩分濃度すなわち体液の「浸透圧」が制御できるワケなんですね… うまい仕組みですよ、まったく…

  では②の血液中の老廃物(主に尿素)を集め、尿として膀胱へ送る(捨てる)…という作用を解説しましょう。


7,【再吸収】


 理解を深めるために、まず数量的な目安を挙げておきます。

  1日に腎臓を通過する血液量 約1800L
  1日の糸球体でのろ過量   約 180L(=こし出された原尿の量
  1日の尿量         約  1.8L (=尿量)

 ざっと見ると、通過する血液の10%がこし出されて原尿になります。そして原尿の約1%が尿になる感じです。逆に言うと、約99%の水分は再吸収されるということなんですね。

 しつこく「約」を付けるのには理由があります。細かい数字は体外環境と体内コンディションによって日々刻々変わるのです。例えば暑くて汗を掻く日にはバソプレシンを多めに分泌して水分の再吸収率を上げ、尿による排出をセーブしなければなりませんよね。


 さらに… この辺が生物ならでは、というところですが、再吸収率は物質によって異なります。

 身体にも必要かつ小さい分子は再吸収率が大きいようです。その代表例がグルコース(ブドウ糖)とアミノ酸(タンパク質の素材)で、再吸収率は100%。もしグルコースが再吸収しきれず尿に混じるようであれば、それは立派な病気です。糖尿病という病気は御存知ですよね。

 次は水とNa+あたりで約99%。先ほども述べましたが、この数字は体外環境と体内コンディションによって日々刻々変わります。それが体液の環境を一定に保とうとする「ホメオスタシス」の具体的な作用なのです。


 逆に身体にとって有害かつ不要な分子は再吸収などしたくはないのが本音でしょう。その代表的な例が尿素なのです。尿素分子は二酸化炭素と2つのアンニウムイオンから構成され、分子式はCO(NH2)2ですから、血管の壁を軽々とすり抜けられるくらいに小さく、来るなと叫んでも約4割が血管中の戻ってきてしまうのです。

 ほかにも「尿酸」という物質があります。本来不溶性のはずですが、血液中には少しだけ入っているというおかしな物質です。爬虫類や鳥類は卵殻を持つ卵の中で長い時間をかけて幼体まで育ちますが、このときアンモニウムイオンや尿素が高濃度で溜まると致命的な悪影響が生じるために、有害なアンモニウムイオンを不溶性の「尿酸」に合成して排出(卵内では貯蔵)するよう進化してきたのです。

 問題集では「クレアチン」という物質も見かけますが、これはまあ人数合わせのような感じの物質ですね。もっとも再吸収率が低い、逆に言えば「イヌリン以外でもっとも濃縮倍率が高い物質」として登場してきます。このクレアチン、細胞内ではATPが消費する「高エネルギーリン酸結合」を預かっておく、いわば「ATPの銀行」として機能している物質なのです。

 
 文を読んでも分かりづらいかと、こんな表を作ってみました。

 もしも原尿中の水分が99%再吸収されたら、尿の体積は原尿の1%になっちゃいますよね。そこに残っているのが「再吸収されなかった物質」です。原尿中の濃度を仮に100としておきます。また数字はあくまでも目安です。
尿は1mLですから、濃縮率の分母はどれも1mLになります。

 

 成分   血しょう 原尿 再吸収率 尿  濃度変化(濃縮率)
水      ろ過  100  99    1   -
グルコース  ろ過  100  100   0  0/1=0倍
アミノ酸   ろ過  100  100   0  0/1=0倍
Na+     ろ過  100   99   1  1/1=1倍(変化なし)
尿素     ろ過  100   45   55  55/1=55倍
クレアチン  ろ過  100   25   75  75/1=75倍
イヌリン   ろ過  100   0   100  100/1=100倍           
                (実際のイヌリンは120倍程度)

血球    ろ過されない
タンパク質 ろ過されない

 
 血球やタンパク質がろ過されないのは、分子が大きすぎて血管壁を通過できないからです。ここ、意外とよく出題されますよ。

 元々血しょうの中では、どの物質も水100の中に100溶けていたと考えた場合、腎細管での再吸収率の違いによって尿中の濃度にはこんなにも差が出るワケです。

 「身体に不要だから再吸収されにくかった物質」は結果として濃縮され、尿中に排出されていることがわかるでしょう。

  Na+は濃度の変化はありませんが、あくまでも仮の話です。
もし暑くて汗をかいたなら水分も塩分も再吸収率を上げるでしょう。
もしもしょっぱいものを食べ過ぎたなら、鉱質コルチコイドの分泌量を減らすでしょう。

 ではもし水を飲み過ぎたなら… どう調節されると思いますか?

 きっとバソプレシンの分泌量が減り、水分の再吸収量が減った結果として尿量が増えるでしょう。
 ちなみに生まれつき、または何らかの原因でバソプレシンの分泌量が少ない方もいます。これは「尿崩症」と呼ばれる症状ですが、標準的な方の尿量が1日あたり1.8L程度であるのに、重い尿崩症の方では12Lにもなるのだとか。これはトイレの頻度が6倍以上になることを意味するワケで、夜中にもしょっちゅうトイレに通うため熟睡が難しいのだそうです。

 そりゃそうだろうな…


8,【問題演習】

  ではいろいろな問題集で取り上げられている典型的な問題を解いてみましょう。

 
設問4 

下図は,ヒトの腎臓の一部を模式的に示したものである。

 (1) 図の(ア)~(オ)にあてはまる名称をそれぞれ答えよ。
 (2) (オ)や(エ)において、水の再吸収を促進する働きを持つホルモン
   の名称、およびそのホルモンを内分泌する場所の名称を部位まで
   含めて記せ。

設問4

 イヌリンという(多糖類)を静脈注射すると,ネフロンにおいて,ろ過されても再吸収されずに尿中に排出される。イヌにイヌリンを注射したところ,10分間の尿量は10mLだった。また同時に調べた血しょう・原尿・尿での各成分の濃度(mg/mL)は上の表のようになった。

 (3) 表にある、「尿素」を合成する器官の名称を答えよ。
 (4) 表の空欄(a),(b)にあてはまる数値を答えよ。
 (5) イヌリンの血しょうから尿への濃縮率(倍)を求めよ。

 (6) この10分間にろ過された血しょうの量(mL)を求めよ。

 (7) 10分間の,グルコースの再吸収量(g)を求めよ。

 (8) 10分間の,尿素の再吸収量(mg)を求めよ。


設問4の解答例 

下図は,ヒトの腎臓の一部を模式的に示したものである。

 (1) 図の(ア)~(オ)にあてはまる名称をそれぞれ答えよ。
 (2) (オ)や(エ)において、水の再吸収を促進する働きを持つホルモン
   の名称、およびそのホルモンを内分泌する場所の名称を部位まで
   含めて記せ。

 (1) ア 腎小体  イ ボーマンのう  ウ 糸球体
   エ 腎細管  オ 集合管
 (2) バソプレシン、脳下垂体後葉
  「紅葉の 水彩、九州 ソバ農家」という覚え方を伝授しよう…
   後葉から出る 
       水の再吸収を促すホルモンは
              バソプレシン、脳下垂体

 イヌリンという(多糖類)を静脈注射すると,ネフロンにおいて,ろ過されても再吸収されずに尿中に排出される。イヌにイヌリンを注射したところ,10分間の尿量は10mLだった。また同時に調べた血しょう・原尿・尿での各成分の濃度(mg/mL)は上の表のようになった。

 (3) 表にある、「尿素」を合成する器官の名称を答えよ。 
   肝臓(腎臓と勘違いしているヒトが多いです)
   オルニチン回路は「生物」の範囲。

   またアンモニアのまま排出する生物は魚類と両生類の幼体
   尿素を合成し、弱毒化してから排出するのは両生類成体と哺乳類
   卵殻内の尿素による浸透圧の増加を避けるために不溶性の「尿酸」を
   合成するのが爬虫類と鳥類。尿酸は糞の表面の白い部分で、よく見る
   とキラキラ光る結晶が見えるはず。

 (4) 表の空欄(a),(b)にあてはまる数値を答えよ。
   (a) 0(ゼロ):ろ過されないから
   (b) 1:単なるろ過だけなので、濃度は血液中と同じ
 (5) イヌリンの血しょうから尿への濃縮率(倍)を求めよ。
   12.2/0.1 = 122(倍)
 (6) この10分間にろ過された血しょうの量(mL)を求めよ。
   10分間の尿量に対して、(5)より、原尿はその122倍あるので、
   10 × 122 =1220(mL)
 (7) 10分間の,グルコースの再吸収量(g)を求めよ。
   原尿中のすべてのグルコースが再吸収量されるので、
   1220(mL) × 1(mg/mL) = 1220(mg)=1.22(g)
 (8) 10分間の,尿素の再吸収量(mg)を求めよ。
  A:原尿中の尿素(mg)       A=B+Cだから、 
  B:再吸収された尿素(mg)     B=A-C
  C:尿中に排出された尿素(mg)

  まずAは…  1220(mL) × 0.3(㎎/mL) = 366(mg)
  次にCは…  10(mL) × 21(㎎/mL) = 210(mg)
  よってBは… A-C = 366-210 = 156(mg)

 (9) 10分間の「尿素の再吸収率(%)」という問題だったら…
   再吸収率(%) = 100×(366-210)【mg】 /366【mg】
           = 42.6【%】
   ということになります。


設問5
 表を読み,以下の問いに答えよ。
表は健康なヒトの血しょう,原尿,尿の成分を比較したものである。

設問5

 腎臓でろ過される液量や再吸収される液量を知るために,次のような実験を行った。
 イヌの静脈に,ろ過はされるが再吸収されない物質,「イヌリン」を注射し、数分経って血液中のイヌリン濃度が一定になってから,左右の腎うに集まる尿を全部採取したところ,尿は5分間に5mL生成されていた。

 (1)表を読み,尿中でタンパク質がゼロである理由を,①~⑥の選択肢か
  ら番号で1つ選べ。
  ① 血しょうから原尿になるときに,一切ろ過されなかったから
  ② 血しょうから原尿になるときに,一切再吸収されなかったから
  ③ 血しょうから原尿になるときに,全て再吸収されたから
  ④ 原尿から尿になるときに,一切ろ過されなかったから
  ⑤ 原尿から尿になるときに,一切再吸収されなかったから
  ⑥ 原尿から尿になるときに,全て再吸収されたから

 (2)表を読み,尿中でグルコース濃度がゼロである理由を、(1)の①~⑥の
   選択肢から番号で1つ選べ。

 (3)イヌリンの濃縮率は何(倍)か。式を明示して共に答えよ。
  (←%ではない! 念のため)

 (4) この5分間にろ過されて生じた原尿の量は何(mL)になるか。

 (5)この5分間に再吸収された尿素の量は,ろ過された尿素の量の何%か。
  整数値で答えよ。

 

設問5の解答例
 表を読み,以下の問いに答えよ。
 表は健康なヒトの血しょう,原尿,尿の成分を比較したものである。

設問5

 腎臓でろ過される液量や再吸収される液量を知るために,次のような実験を行った。
 イヌの静脈に,ろ過はされるが再吸収されない物質,「イヌリン」を注射し、数分経って血液中のイヌリン濃度が一定になってから,左右の腎うに集まる尿を全部採取したところ,尿は5分間に5mL生成されていた。

 (1)表を読み,尿中でタンパク質がゼロである理由を,①~⑥の選択肢か
  ら番号で1つ選べ。 ①
  ① 血しょうから原尿になるときに,一切ろ過されなかったから
  ② 血しょうから原尿になるときに,一切再吸収されなかったから
  ③ 血しょうから原尿になるときに,全て再吸収されたから
  ④ 原尿から尿になるときに,一切ろ過されなかったから
  ⑤ 原尿から尿になるときに,一切再吸収されなかったから
  ⑥ 原尿から尿になるときに,全て再吸収されたから

 (2)表を読み,尿中でグルコース濃度がゼロである理由を、(1)の①~⑥の
  選択肢から番号で1つ選べ。⑥

 (3)イヌリンの濃縮率は何(倍)か。式を明示して共に答えよ。
  (←%ではない! 念のため)    12.5 / 0.1 = 125倍
 
(4) この5分間にろ過されて生じた原尿の量は何(mL)になるか。
   5mL × 125倍 = 625(mL)

(5) この5分間に再吸収された尿素の量は,ろ過された尿素の量の何% 。
 整数値で答えよ。
   100 × 625×0.3-5×21 / 625×0.3 = 44(%)
                          答 44(%)


設問6

A 下図は,腎臓の構造の一部の模式図である。       
 (1) ア~オの各部の名称を記せ。
 (2) ウとエをまとめた名称を示せ。                            
 (3) この模式図について、腎動脈があるのは左か右か。  

設問6

         

B 腎臓でこし出される液量や再吸収される液量を知るために,こし出されるが再吸収や追加排出されない物質,例えばイヌリンを静脈中に注射し,数分たって血液中のイヌリンの濃度が一定になってから,細いガラス管を用いて,一定時間,左右の腎うに集まる尿を全部採取した。表は,あるヒトの血しょうおよび尿での測定値である。ただし液体の密度は1.0(g/mL)とする。

 (1) アンモニアから尿素を合成する器官の名称を答えよ。
 (2) 血しょう中に含まれる次の成分のうち,原尿に含まれない物質をすべ
  て選べ。

  タンパク質    尿素    Na+   アンモニア 
  カルシウムイオン   血小板

 (3) 尿中でグルコース濃度がゼロである理由を、腎臓の一部の名称を用い
  て簡潔に書け。

 (4) イヌリンの濃縮率はいくらか。

 (5) 5分間にこし出された血しょう(つまり原尿)中の尿素量は何(mg)
   になるか。
 
 (6) 5分間に再吸収された尿素の量は何(mg)か。

 (7) 上記のデータに対して、水分の再吸収率が 1.0 (%) 減少すると、尿量
   は何(倍)になるか。

 

設問6の解答例

A 右図は,腎臓の構造の一部の模式図である。       
 (1) ア~オの各部の名称を記せ。 
   ア ボーマンのう  イ 糸球体  ウ 腎小体(マルピーギ小体)  
   エ 腎細管   オ 集合管            

 (2) ウとエをまとめた名称を示せ。  ネフロン(腎単位)                          
 (3) この模式図について、腎動脈があるのは左か右か。  左

設問6

B 腎臓でこし出される液量や再吸収される液量を知るために,こし出されるが再吸収や追加排出されない物質,例えばイヌリンを静脈中に注射し,数分たって血液中のイヌリンの濃度が一定になってから,細いガラス管を用いて,一定時間,左右の腎うに集まる尿を全部採取した。表は,あるヒトの血しょうおよび尿での測定値である。ただし液体の密度は1.0(g/mL)とする。

 (1) アンモニアから尿素を合成する器官の名称を答えよ。  肝臓
 (2) 血しょう中に含まれる次の成分のうち,原尿に含まれない物質をすべ
  て選べ。
  タンパク質    尿素    Na+   アンモニア 
  カルシウムイオン   血小板 
                      答 タンパク質と血小板

 (3) 尿中でグルコース濃度がゼロである理由を、腎臓の一部の名称を用い
  て簡潔に書け。
   「原尿が腎細管を通るときにすべて再吸収されるから」

 (4) イヌリンの濃縮率はいくらか。 0.1/12.5 = 125(倍)

 (5) 5分間にこし出された血しょう(つまり原尿)中の尿素量は何(mg)
  になるか。    5mL×125倍×0.3mg/mL = 187.5mL

 (6) 5分間に再吸収された尿素の量は何(mg)か
           187.5 mg-5mL×21mg/mL = 82.5mg

 (7) 上記のデータに対して、水分の再吸収率が 1.0 (%) 減少すると、
  尿量は何(倍)になるか。

  このデータの水分の再吸収量は、625-5=620mLである。
  再吸収率が1%減ると、625の1%分が尿になるので、
  625/100 mL、つまり6.25mL分増えるだろう。
  よって、5+6.25 / 5 = 2.25(倍) 答 2.25(倍)

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