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2021.2.16

今日は父の一周忌で、墓参りに行った。最寄駅で家族と待ち合わせ、歩いて霊園に向かう。
「花、いつものところで買うか」と母が言った。物心ついてから墓に通った記憶はほとんどない。20年以上も前の“いつも”だった。最近、自分自身も、10年前の出来事を“この前”と言ってしまうようになったので、時の流れの体感スピードは母とそう変わらなくなってきた。

霊園で花を買うと、ほうき、杓子、自転車の3点セットが借りられた。記憶にある墓参りはいつも父の運転する車での移動だったので、自転車で霊園を走るのは新鮮だった。気持ちの良い冬晴れで、並木の間に、雲ひとつない真っ青な空が見えた。昨日の雨など無かったかのように、霊園の砂利道はカラカラに乾いていた。こんなに気持ちの良い天気なら、もっと頻繁に来てもいいな、と思った。

墓には既に花が供えられていた。先週末にでも、伯父が来ていたのだろう。一部を除いて、花はまだ瑞々しかった。母が、テキパキと伯父の供えた花を抜き取り、捨てに行くついでに線香に火をつけて戻って来た。妹はその間に、杓子を使ってゆっくりと、語りかけるように墓に水をかけた。看護師の妹は、そっと壊れ物に触れるような手つきでものを扱う。
私はいつも通り、木偶のようにただ立っていた。記憶の中の父と同じく、所在なく狼狽えて、このミッションのクリア条件が満たされるのを、ただ待っていた。

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