彼らの残り香

私は今生まれて初めて函館に来ている。『燃えよ剣』を読んでから憧れ続けてきた五稜郭を訪れることができて、感無量である。私は単純な性格なので、『燃えよ剣』で土方歳三が好きになったし、敗戦の続く旧幕府軍において唯一連戦連勝、鬼神のような戦いぶりを見せる土方が特に好きだ。死に場所を探すような捨て身の戦いぶりには、胸をキューッと真綿で締められるような苦しさと恍惚を覚えてしまう。新撰組の遺蹟を巡る度、彼らの運命を思っていつも胸が張り裂けそうになる。日本史において、彼らが果たした役割はほとんどないのかもしれない。だからこそ、命懸けで忠義を尽くした彼らに共感してしまう。新撰組のことを考え出すと夜も眠れない。だから深入りしないようにしようと思うのに、こうして彼らの残り香が漂う地にやってくると、どうしてもその血生臭くて切ない香りを追いかけずにはいられない。

余談だが、以前京都を訪れた時、八木邸を見に行ったことがある。案内のおじさんが、居間の梁に出来た刀傷を指して「これは沖田総司がつけた刀傷です」と紹介してくれた。おじさんははにかみながら、「最近若い女の子がみんなこの刀傷を見て喜んで写真を撮っていくんだよね…」とボヤいたので、喜び勇んで写真を撮ろうとしていた自分が恥ずかしくなり、結局写真を撮らずじまいだった。函館の屯所を巡りながらそのことを思い出し、今更ながらに後悔している。あの刀傷はまだ見られるのだろうか。近いうちに、また京都に行きたい。

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