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2021.9.24

函館2日目は、曇天に覆われて肌寒い1日になった。綿菓子のように分厚くて大きな雲が函館の上空に長い間停滞していて、雲の切れ目から函館湾に注いでいる太陽が妬ましかった。本来暖かいはずの海風も、木枯らしのように私の体を冷やした。手持ちの服には防寒具がなく、半袖に薄手のジャケット1枚でいたので、終始鳥肌が止まらなかった。「時間を無駄にできない」というもったいない精神で自分を鼓舞しながら、元町エリアなどを散策した。「異国情緒あふれる街」という触れ込み通りの、ヨーロッパ風の街並みや建物は私の目を満足させた。白い石畳のゆったりとした道路に、ポプラのような街路樹が立ち並ぶ様はとても美しい。西洋風の建築物を彩る繊細な装飾や調度品を見ると、どうしてこんなにも心が躍るんだろう。中でも、旧イギリス領事館は、明治期に函館に在任していた領事の功績や人柄、函館市民との交流を紹介してくれていて、心が暖まる場所だった。

ところで、今、私は芥川竜之介の紀行文集を読んでいる。その中で松江や上海を訪れた芥川は、再三、赤煉瓦の建築物や屋外広告などのいわゆる西洋文化(彼は何とか主義という言葉を使っていたが忘れてしまった)の真似っこについて苦言を呈している。赤レンガ倉庫を見ながら、ふと、彼が今日の日本を見たら何と言うだろう、と考えた。西洋風の建築物でないもの(欧州の真似っこではないもの)はもうほとんど残っていないし、そこら中広告だらけだ。今となっては、それに文句をつけるような人すらいない。

赤レンガ倉庫からほど近い坂の上に立つ立派な公会堂には、芥川も講演に訪れたことがあるらしい。芥川が壇上に立ったという大広間で、彼を迎えた函館の人々のことを思った。公会堂の展示品は、明治を生きた函館の人々がいかに彼の地を誇りに思っていたかを伝えていた。時代も人も変わったけど、函館にはまだこの街を創った礎が残っている。そのことを、純粋に羨ましく思う。

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