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私たちは誰かの傷口を抉ることでしか生きられないのか【マティアス&マキシム|感想】

グザヴィエ・ドラン監督映画『マティアス&マキシム』の感想です。ネタバレ含みますのでご注意ください。

短編映画でキスシーンを演じることになった二人の話。

フランス映画を見たのは多分TAXi以来で、フランス語って全然聞き取れないのね!英語ってわからないなりにわかってたのね自分、と変なところに驚いたりしてしまった。

終始ミュージックビデオを見ているような映画だった。綺麗な景色と、憂いを帯びた横顔と、騒いでいる人々……それが美しい音楽に合わせて滔々と流れる。フランス語がさっぱり聞き取れないのも相まって、そういう印象になったのかもしれない。あと、一つ一つの絵がわざとらしくエモーショナルで、それがミュージックビデオぽさという世界観を作っていたのかもしれない。

最初はついていけず、正直入り込めないまま見ていた。マックス(マキシム)とマット(マティアス)がどっちがどっちかもわからなくてただ見ていた(正直今も合ってるかわからなくて不安だ)。なんでわからないのかというと、みんな一斉に早口で捲し立てて喋るし、画面の切り替わりは激しくて、わけがわからないのだ。あと名前も似てる。なれてなくて・・・

わからないなりに、マティアスがウォーターベットに座って、なんだこれは!って顔して立ち上がったのには笑ったし、その後ベットに座ってゆらゆらしながら考えてる絵面はとても好きだった。さらっとシュールなことをしてくる。

マティアスは女性の美しい婚約者がいて、弁護士として期待されながら働き、優しいお母さんがいて……という絵に描いたように順風満帆な人生(父は離婚、別離しているが連絡は取れるような状況)。一方マキシムは独り身でバーで働いていて、精神が参っている母の世話をして暮らしている。マキシムは近いういちに単身でオーストラリアに行き人生をやり直そうと考えている。

そんな二人が友達の妹が撮る短編映画でキスシーンをすることになった。そこから少しずつ関係が変わりはじめる、そんな話。

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男と男の恋愛映画。ゲイの映画なんて粗雑なことを言う人は、この映画を見た人の中には現れないと思う。では男女の恋愛と同じかと言われるともちろん否で。ただ、ただ、男性同士の恋愛映画だなということ。普遍的というなら男女の恋愛とも同じだよねと言わんばかりのプロモーションを見て、そうじゃないでしょと血の気が引いたし、自分もそういうふうに思おうとしていないだろうか、とはたと思った。全然違うことだし、全然違うくていいのに。なんでそんなことも簡単に気づけないんだろうね。わかっているつもり、が怖い。

結論をいうと、マキシムは今の交友関係を捨て、自分のことを大切にしてくれる人と出会って、自分を大切にして生きていける自尊心を身につけて、もう消費されないで欲しい。と切に願ってしまった。

だって怖くない?ラストさあ……マティアスが笑顔で立ってるシーンでさ、私はマキシムと同じ顔してたし、そこで終わって「ヒーーーーー!」ってなったよ。とんだホラー映画じゃん、、、って!

マキシムが圧倒的に社会的弱者すぎる。
母関連しんどい。弟が帰ってきてるの見たマキシムみて私は泣いた。もういい。もういいんだ、、、悲しいけどもうこれ以上関わるな。めちゃくちゃがんばったよ!もうそれは諦めてしまえって。画面の中に入って私が肩を抱いてやりたいわ!
母は母なりの苦しさがあるのだろうけど、それをマキシムが背負う必要はないし、本当に優しすぎる。おばさんにも言われてたね……、あのおばさんのシーン、ぼんやり見てたら急に目が覚めたみたいになって、あの辺から、なんだ、この映画は……って真剣に見始めた気がする。

前半はマティアス視点で描かれる。視点のスイッチが美味いなと見終わってからハッとした。

マティアスは短編映画のキスシーンで、あれ、マキシムに対するこの気持ちはなんだ?ってなってどんどん暴走していくんだけど、その暴走の仕方が怖くて。リアルでね!

マキシムはすごく視線に敏感で、すぐにその意味がわかってしまう。
だから、あの一件からマティアスがおかしくていろんな意味で危険を感じていて(幼なじみという関係性を崩したくないから)やんわりと拒絶してるんだけど、マティアスはそんなこと知ったこっちゃねえ!とばかりに暴走してて。しんどい。私はマキシムの味方をするよ全面的に。

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マティアスが気持ちに気付いて、暴走していくのにもちろん周りも気付いていて、友達も婚約者も……大丈夫かあいつとは思っているものの、まあ大人だから(30歳)おそらくハッキリとは忠告してない。本人がわかってないだけなんだけど。そこもリアルで怖い。すごいね。

でもその感情をマキシムにぶつけてるのはさ、だめじゃんねって!
幸せにできないんだったら手を離してやれよと……ハッキリしろよと。

マキシムのアザって、クィアの象徴ではないかという感想を見かけてなるほどなとも思った。実際アザもありそうなんだけど。でもそう考えると、パーティで暴れたマティアスがマキシムに「このアザ野郎」って言ったの……辛い。
(ところで、マキシムが同性愛者であるって断言している人を感想で見かけたんだけど映画で言及されてたのかな……最初のほうスピードについていけてなかったから。バイなのかなとは思ったけど、というかこの作品を見ながら、性別で恋愛するってなんだ?とかあらためて考えもした、そういうことじゃない、視線だったから)

マティアスが倉庫に入って鍵をかけるシーン。
まさかまさかな、と思ったらマキシムいて。私すごく背筋かぞっとなりました。もちろんマティアスにね!暴走男にね!

でもその後、マティアスがマキシムの手をとってキス、、、という流れは、完敗ですという気持ち。。。号泣しました。すごいよかった。すごく!よかった、、、情熱的で……もう感情が無茶苦茶だよ。どうしてくれるんだ。

同時刻。雨が降り出して、うわー!ってフレンズが洗濯物を取り込むとこで爆笑してしまったけど(とても好き)。冒頭の短編映画でのキスシーンの前も、フレンズが窓の外でくっちゃべってたら「覗くな!」ってマティアスに怒鳴られてひゃ〜って蜘蛛の子を散らすように逃げてくシーンもすごく好き。

マティアスの醜悪さって、婚約者がいるのにとか、周りの空気を全然読めない(マキシムがどう思われるのか考えない)、とかあるんだけど、特にやばいのが紹介状の件。マティアス経由で、マティアスのお父さんにオーストラリアの仕事の紹介状(合ってる?)を頼んでいたけど、一向にもらえなくておかしいなとは思いつつも、お願いしている手前(かつマティアスは幼なじみでいいやつだと思っているから)強く言えなくて、出立前にマティアスのお母さんに申し訳ないけどマティアス父の連絡先教えてくれないか、って事情を説明して連絡先を教えてもらって自分で連絡したら、三週間前に送りましたよって言われる。「彼はなんで僕に紹介状をくれないんでしょうか」っていうところ、もう本当に辛い、誰か寄り添える人はいないの?とも思うけど、おそらくマキシムに<人に寄り添ってもらう元気>みたいなものが今なくて、とにかくそっとしておいてあげて欲しいという気持ちになった。バーの女の子(リサ)とか友達(フランク)は優しいし寄り添ってると思う。でもフランクはラストでマティアス連れてきたから、お前、は????ってなったけど、フランクはマティアスのことも友達として心配してるんだよな。お前ら大丈夫かって思ってるんだな。

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戻るけど、マティアスの母に、マティアス父の連絡先を聞くシーン。
あのシーンもすごかったな。好き。
マティアスの母はパーティーのシーンもそうだけど、小さい時からマキシムのこと親身になって気にかけてきてくれたんだなってしっかりと感じた。紹介状をマティアスにお願いしてたんですけど届かないらしくて……と弱々しくマティアス母に言うマキシムに「マティアスに強く言ったの?」って聞いたときの、マキシムのへにゃ……とした顔と、それを見たマティアス母の顔。。。具体的にはわからなくても、わかるよね。色々と。すぐに探しに行ってくれた母、とそれにありがとうございますと力なく答えるマキシム。悲しい。気まずさの表現がすごい映画だな。

その後、7歳のときのマティアスが書いたマキシムとの絵を見つけるシーンがあるんだけど。これいいよね、ちょっとしたシーンなんだけど。あの母なら取っておいてそういう引き出しに入れてそうだなというリアリティもあるし、二人は幼馴染みで、ずっと一緒にいて、そしてその関係を壊したくなかったんだ、マキシムは。。。と静かに胸を打たれたし、この後、マティアスが実は紹介状を受け取ってたと知る先ほど書いた電話のシーンになるわけだけど、だからこそ、しんどい。

マティアスも二人の関係をぶち壊したいと思って、様々な行動を起こしたわけでなく、コントロールが効かず暴走しているんだけど、その一つ一つがマキシム側からしたらどうしてそんなことをするの?という暴力でしかなく。でもその暴力を受け慣れてるがゆえ受け止めてしまうマキシム。
いいから!早く離れなさい!という気持ちになった。

大胆なのに繊細で、情熱的で冷たい。そんな映画だった。

あ、なんかどっかからやってくる弁護士のこと書くの忘れた…あの人の登場シーンも笑っちゃった。いけすかないけど彼は彼でおそらく人生うまく行ってなくて。マティアスと食事してるときの「僕といるのは退屈?」というセリフや、ショーパブでおいていかれたのとか見ると悲しくなっちゃうね。

最後に、マキシムは弱者ではあるが誰かの強者でもあって、傷つけてもいる。まあマティアスにとってはマキシムに傷つけられ続けているのかもしれないけど。。。(そう考えるとマキシム母もか、、)
その二人は置いておいて、マキシムが自分勝手な理由で傷つけてしまったのはリサだなと思っていて。リサはマキシムのこといいなと思っているけど、マキシムはそれどころでもそんな気もあんまりなくて(人として好きだとは思う)。恋愛としての感情を受け取ってもらえなくても、リサはマキシムのことを大切なバイト仲間(友達)であることを変えずにいてくれて気持ちを押し付けないでくれた。リサちゃんが窓の向こうからマキシムにピースしてくれて私はすごく救われた。幸せになってね。

映画を観に行きます