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ロニ・ホーン展にみる「心地よい孤独」

3/30/2022までポーラ美術館で開催されている「ロニ・ホーン展:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」を観てきた。

アメリカの現代美術を代表するアーティスト、ロニ・ホーンの1980年代から約40年間におよぶ作品の数々が鑑賞できる、国内初の大規模個展。

日本文化からもインスピレーションをたくさん受けていて、東洋の精神の在りかたや無常観を表してきた水や川が作品の中心となっている。

「真実」や「現実」のあり方がめまぐるしく入れ替わるこの世界で、差異、アイデンティティ、物事の意味についての思索を続け、絶えず制作を続けるホーンの姿は、静かに流れゆく川のようです。

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この個展で最もシンボリックな作品「ガラス彫刻」シリーズ。てっきり中に水が入っているのかと思いきや、まさかの数百キロものガラスの塊。

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アイスランドからインスピレーションを受けた作品も多くある。アイスランドと言えば、ブルーラグーン。火山地帯で噴火や地震が多く、どちらかというと厳しい自然の営みを想像する。

その厳しく荒涼とした自然に対峙し続けるなかで、独りでいることを「自ら選び取った」と言います。人々が孤独や不確かさを恐れる時代において、その作品は曖昧さや変化のなかに潜む力をあえて利用してみせるのです。

この展示の個人的な印象は、ピュアで繊細でストイック。

時に厳しい自然と向き合う中で生まれた作品が多く、作品を観ているこちらまで余計なものが削ぎ落され、浄化され、真水に戻っていくような感覚を覚える。そして、辿り着く先は「心地よい孤独」

2012年5月、ルイジアナ近代美術館(コペンハーゲン)の屋外でのパフォーマンス(ホーンによる散文詩の朗読)を収録したSaying Warter という映像作品(ポーラ美術館では、日本語のサブタイトルで見ることが可能)

海沿いの原っぱで、お客さんが座ったり寝そべったりして聞いている雰囲気もよく、段々と日が落ち、最後には暗闇の中で朗読を聞くというパフォーマンス。

人は人生の時間を、余計なもの(お金とか社会的地位とかプライドとか)を蓄えたり手放すことに使っている。自然と向き合うと、余計なものが削ぎ落され、確かなものしか残らない。そんな確かなものしかない中で、新しい価値を見いだすのは相当ストイックだと思った。アーティストへの尊敬の念がやまない。

そして「自ら選び取った」心地よい世界は、美しく、やさしさで溢れていた。帰りの電車でじんわり温かい気持ちになる、素晴らしい展示だった。

※写真は筆者撮影

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