交差点

街を歩いていると、ふと香る懐かしい香り。
まさかと思い辺りを見渡すが、それらしい人影はなかった。

そう言えばここは確か一緒に歩いた交差点だ

偶然が起こした束の間の時間旅行。
ぼやけた記憶を浮かべ、あの楽しかった瞬間を味わう。

だが、今はもうそこに戻りたいとも思わない。
これから何かを築きたいとも思わない。

なら何故私は探そうとしたのだろう?

多分最後の言葉だけが残っているからだ。
未読のまま残ったそれだけが心残りなんだろう。

だが、それでもいい、私はそれでも

「あれ?久しぶり!」

思いがけずかけられた聞き覚えのある声。
その声に目線を合わせると懐かしい姿。

「特に話すことないけど言ってないことがあって呼び止めた。」

何を言うんだろ?少し心が落ち着かなくなってきた。

「メッセージは見てたよ。ありがとう、そしてさよなら。」

その言葉は私の求めていたものだった。
何か言葉を返そうとしている間に、雑踏の中に消えた人影。
相変わらずの身勝手さ。
でもその一言は最後のつっかえを取ってくれた。

「こちらこそ。」

そう呟くと私は反対方向に向かった。

私達の出会いは、まさにこの十字路の様だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?