死を受け入れて楽になる

仕事を辞めよう、キャリアを切り捨てようと思う時、どうしても老後や大病を患ってしまった場合などを考えてしまった。大したお金も貯まっていない状態でそんなことになったら大変だ、という考えに支配されていた。

でも、最終的には「老後や不完全な身体になってしまった後の人生は健康な今を犠牲にしてでも延長したい時間ではない」という結論にいたった。

リソースには限りがある。必要以上の生を望まないことで、その分、今を輝かせることができるのだ。

難病を発症した時に思ったこと

※汚い描写が含まれます

私はちょっとした難病持ちで、普段は全くもって健康体なのだけど特定の条件下で以下のような症状が起こる。

  • 唇、口内、喉(内部)にかけて水ぶくれが出来ては潰れるを繰り返し、ただれる

  • その他の粘膜も若干のただれが生じ、染みるような痛み(特に排尿時などに強い痛み)

  • 涙が常に流れる

ただれた唇は閉じると再度開く時に表皮が剥がれてしまうので開けっぱなし。喉のただれにより食事はおろか水分摂取や唾液を飲み込む動作すらできない。咳き込めば激痛。唾液も涙も垂れ流し。

また、常に喉から血や膿が出るので夜通し吸引器で除去。点滴のおかげでなんとか身体はもつものの、まともに眠れる暇もなく疲弊する日々。吸引器の容器も次第に赤い液体で満たされてしまった。

もっとも辛かったのは、当初この病気に見当が付く医師がおらず、治療法も分からない、よって治る病気なのかも、いつまでこんな毎日が続くのかも分からなかったこと※。

※ある日その病院の医師達が集まってくれたのか、10人近くがゾロゾロと私のベッドを囲み、「うーん」と難しい顔をして、誰も分からないといった感じで出ていった。なんとも絶望的な瞬間だった。

この時は、もしこの状況がずっと続くなら生きていたくないなと思った。毎日が痛く、苦しく、眠れず、食べる喜びもなく、それでいて金だけは容赦なく飛んでいく。

老いるほど身体に限界が出てくる訳なので、未来であればあるほど闘病生活で体験したような苦しみに近いはずだ。

壊れかけの身体を延命するということ

金は命を買うこともできる。しかし、その状態が良いものとは限らない。働けないほど年老いたり病を患った身体での生活は、苦痛や不便を伴うもの。

「若いうちにたくさん働いて、老後も安心できるくらい貯まったら仕事を辞める」というプランは現代日本では無難だし、多くの人が選択している。しかし、先述したような老後の暮らしは、若くて健康な今を投げ打ってでも得たいものなのだろうか?

あまり動けなかったり、痛かったり苦しかったり、眠れなかったり、まともに物を食べられなかったり…そんな時間の延長戦を買うために今を犠牲にして金を稼いでいるということ。なぜそんなことを目指していたのかと我に返った気持ちで、私はそういうことをやめた。

動ける身体、食べ物を食べられる身体、美味しいと思える身体、痛くない身体、金が掛からない身体…あとどれだけそのような身体でいられるのか分からない。私達は必ずそれらを失う方向に進み続けていて、若くて健康な今はとても貴重なのだ。

今を生き、終わりを受け入れる選択

まともに働けなくなった身体、医療や介護の世話にならないと維持できない身体になった時点で人生は締めどき※かなと考えている。その仮定でいくと老後の資金を貯めておく必要はない。「動けるだけ生きる」というすごくシンプルな人生になる。

※「人生の締めどき」と言葉では簡単に言えても実際は難しいと言われるかもしれない。それはその通りだけど、自殺だろうが老衰だろうが死に際に苦痛が伴うのは不可避であることを考えたい。むしろ、なんとしてでも生かすことばかり重視する医療によって死ぬ前の苦しい期間を年単位で長期化されることが私は恐ろしい。それと比べれば、自分自身を締めることもなんとか頑張れそうだ(理想は前日にひとしきりのお別れご馳走パーティーして安楽死装置でスヤァみたいな感じがいい)

老後のための資産を気にしなくて済むようになると、個人差はあるがあくせく働かなくても暮らしていける。数百万程度を一時的な病気治療ややりたい事が出来た時用として確保できていると安心できる。欲しいものが出来て仕事量を増やそうかなと思ったら増やせばいいだけだ。心のままに動けばいい。

残念ながら凡人が自由と金をどちらも得ることは難しい。私は金や命への過度な執着をかなぐり捨てた結果、様々なしがらみから解放された。商品としての自分に人生をやたら寄せなくてもいい、1匹の動物として自由に生きていけるかのような開放感だ。

身体の限界が来たら終わりで良いから、若く全身を自由に動かせて色々なことを楽しめる今を充実させたい。自分の人生の舵を自分で取り、多くのことを体験してやりたいことをやり切ったら、きっと死に際の自分も納得して逝けるように思う。

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