見出し画像

主人公から脇役へ

 わたしは主人公から脇役へ転じたあの境目をくっきりと覚えている。

たぶん小学校三年生くらいのことだと思う。それまでの私は、何かの代表を選ぶとなれば迷わず手を挙げて立候補するような子供だった。自分が世界の中心にいるような気持ちだった。

あるとき、社会科見学に行って班で撮った写真を見た。そのとき、気づいた。

ああ、じぶんは”あの子”じゃないんだ。

”あの子”とは、クラスでも有数の、背が高くてかわいいある女子のことだ。わたしは恥ずかしながら、頭の中で自分のことを”あの子”だと思って行動していた。

それからというもの、大勢の前で手を挙げることなんて一度もしたことがない。いつも誰かの後ろで何かを恐れ、わたしなんか、と思っていた。母親曰く、その頃を境に「かわいくなくなった」。

今思うと、あらゆることに素直でいられなくなっていた。家族からの愛もまっすぐ受け取れないし、やりたいと思っても我慢するし、言いたいと思っても言わない。なにをやっても心から楽しいと思えない日々が続いた。

これは俗にいう思春期というやつなのかもしれない。気づいていないだけで、家庭環境や学習環境がそうさせたのかもしれない。

ただ、19の今もその傾向は続いたままだ。これは大人になったというのだろうか。

いまからまた、あの頃の主人公に戻れるとは思わない。それでもせめて、誰かに褒められるのを待つ脇役ではなく、自分自身がうれしいと感じる脇役になりたいと思っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?