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外国暮らしの処方箋

以前国際会議でヨーロッパに逗留していたとき、ずっと外国語に囲まれて参ってしまったことがありました。

言語が分からなくともなんとなく理解できることばもありますが…

"値下げ" と書いてある気がする

内容を推測できないものも多くあります。

なんもわからん

読めない言葉に囲まれて生活するのも息が詰まるうえに、その大変さを共有できる人間も周囲にいません。
私はそんな環境では外国の登場するエッセイを探して、著者たちが外国でどんな問題にでくわしたのか、言葉や文化の違いにどう対応したのかを読んで息抜きをしていました。
そんな外国暮らしの登場するエッセイをいくつか紹介します。

外国の暮らしが登場するエッセイ

「西南シルクロードは密林に消える 」

これは私がチェコに滞在している間に買った本です。
内容は食い詰まったライターである著者がシルクロードを陸路で辿る企画をぶち上げて、中国公安局やビルマのゲリラ組織のあいだを縫って、あるいは彼らの協力のもとで踏破するというエッセイです。

ゲリラ組織の協力のもと道なき道を歩き国境を越える…つまり法に照らせば 密入国 であるわけで、旅の終わりのインドでは逮捕されるというオチもついています。

「旅行者の朝食」

「旅行者の朝食」はロシア語訳者の米原万里の本です。

食べ物について蘊蓄を傾けるグルメ・エッセイ集

…と説明されているものの、蘊蓄などという生やさしいものではなく数十年にわたる食への執着がまとめられています。
特に面白いのは著者が子供の頃一度だけ食べたハルヴァというお菓子の話で、仕事のかたわら訪れた国で数十年かけて探し回る様子が描かれておりちょっとした研究の観があります。

この本に限らず、翻訳家や言語学者は文化の差異に着目するので、彼らの書くエッセイには面白いものが多いように思います。
黒田龍之介や田丸久美子などもそうですね。

「ボクは算数しか出来なかった」

日本人で初めてフィールズ賞を受賞した小平邦彦の自伝です。
戦前に生まれ、戦時中はナチスの潜水艦で運ばれてきた研究を読み発表される当てのない論文を書き、戦後は研究が駐留軍の目に留まったことでプリンストン研究所に招聘され…
大変な人生をおくった有能な方ですが、朴訥とした語り口からは大変さが感じられず、題名の通り数学への興味だけで生きてきた著者の世界観が覗き見えます。


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