2018.3.21の雪の音

忘れもしない2018.3.21
大雪の中、私は引っ越しました。
とある事情で長く暮らした家を離れ、集合住宅の角部屋の一室に入りました。小さく激しく降る雪たちが頬に刺さって痛くて、はっきりと、人生の第二章目に入ったんだと実感した日でした。家に置いてきた家具の中に備え付けられていた小さな鏡に写ったその朝の自分のなんでもない顔をまだ覚えている。

その頃、私は確かボロディンの四重奏曲が入ったアルバムをよく聴いていたと思う。新しく入った家からは、移動でいつもバスを利用していた。じっとしていられない質の私は移動が好きで、用がなくてもバスに乗って町から町へ、よく移動していた。それは意思を伴った移動というよりもまさしく"浮遊"と呼べるものだった。
私は頻繁に浮遊した。その浮遊具合は病的だった。とにかく動いていないと、ダメになりそうだった。
亡霊みたいに街を浮遊した透明な私は、街の一部となり、自由自在に呼吸した。ネオンの光に体を透かし、自分は浮遊しているのだと、思い知った。
光は私を貫いて、雨で濡れたアスファルトに突き刺さっていた。

移動は私に正気を与え、浮遊は私に生命力をもたらした。

集合住宅の角部屋で約3ヶ月間、夢のような暮らしをした。あの日々の浮遊のことを思いながら、今は、雨の日の電車でこれを書いてる。

浮遊することがなくなったこのごろ。
いつの間にか私は生意気に映画を2本撮り、幾分タフになった。けれども、過去に受けた傷が未来を回避して、私はどんどん小さくなっている。
映画を観てもなぜだか刺さらないことが増えた。私の心が小さくなって、刺さる場所がないのかもしれない。

記念すべき初投稿は、
あの朝の雪の冷たさを忘れないために。

2018.3.21

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?